湯気の向こう側(イヴァン+ソフィヤ)



こんこん、と控えめなノックの音が聞こえ振り向いた。自分の研究室に入ってくる人なんて数が知れている。案の定、いたのは柔らかな笑みを携えている姉だった。

「イヴァンちゃん、お疲れ様」
「うん。少し待ってて、今片付けるから」

喋りながら雑多に積まれた研究資料や薬品を机の端に寄せていく。出来上がったスペースの前に椅子を置けば、簡易的な来客用スペースの出来上がりだ。
研究室の隅に並べたインスタントコーヒーをマグカップに入れ、研究に使っていた残りの湯──勿論、安全なものだ──を注ぎ、彼女の前に置いた。

「ナターリヤとトーリスは?」
「別件でお仕事中なの。新しい仲良しさんの候補が見つかったみたい」

マグカップから温かな湯気が上る。真っ黒なそれをじっと見つめ、ソフィヤが唇をつけるとイヴァンは静かに微笑んだ。

「僕たちの理想に共鳴してくれるといいね」
「そうね。でも、私たちと同じでその力を隠してしまうなんて……悲しい」

揺れる湯気に視界が遮られ、彼女の輪郭が歪んでいく。悲しそうな声音がゆらゆらと部屋に響き、儚く消えていく。消毒液と薬品の匂いが部屋を埋め、溢れる。

「姉さん、それ飲んだらふたりを迎えに行こうか」

鍵を取り上げ、もう一度微笑んで席を立つ。いびつな理想郷に、深く傾倒しながら。

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