知っている、知らないこと



全部解ってるのに。自嘲気に吐いた息を呑み込む術など知りもしない。どうなるかは解っていた。自分だって可愛い女性と一夜を明かしたことはあるし、行為だってしたこともある。けれど、すべて与える側だった。与えられるなんて考えたこともなかった。
初めての感覚は頭の中で何かが弾けて消えてしまうのではないかというぼんやりとした不安。縋るものがないと立てないくらいに快楽漬けになりそうで、その瞬間の自分は酷い顔をしていたと顔を覆いたくなった。

「耳、舐められたくらいでトぶとか……ねぇよ」

思い出すだけで恥ずかしい。でも、狂ってしまいそうなほどに気持ちがよかったのも事実だ。あの時の自分は確かに彼によって与えられた快楽だけをはしたなく貪り、年端の行かぬ少女のように喘いでいた。熱に浮かされた瞳で、目の前の男を見つめていた。
瞬間、ぼぼっと顔が赤くなったのが分かる。いっそこのままシャワールームに飛び込んで頭から冷水を掛けたい気分だ。
ぐしゃりと枕を胸元に抱きしめて顔を埋めれば、脳裏をちらつく逞しい腕。煩悩を振り切れず悲鳴を上げた部屋の主が、ベッドから転げ落ちて気絶していたのはまた別の話であった。

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