一万打フリリク企画
匿名様:萩原と松田救済
気が付くと真っ暗な空間にいた。そこは暖かく、心地よく、いつも大きな何かに守られているような気がした。ほとんどの時間を寝て過ごし、たまに意識が浮上する。その時にもぞもぞと体を動かしてみるが、すぐに柔らかい壁のようなものに当たって、ほとんど身動きがとれないでいた。そして、柔らかな壁に攻撃を仕掛けた直後は、優しい女性の声が聞こえて、自分を諭すように話しかけてくるのだ。しかし、返事をしようにも声も出ないし、またすぐに意識を失う為、女性からの一方通行の語りかけだったが。
私はいい年齢の大人であり、どこかに閉じ込められるような悪い事をするような人間でもなかった。一日の大半を寝て過ごしている為、考える時間はほとんどなかったが、さすがの私も気が付いた。私は今、なぜか赤子として女性の腹の中にいると。しかし、"今保持している記憶の人間としての赤子に戻った"のか"全く別の人間としての人生を、前回の記憶を保持したまま始める"のかまではわからなかった。それはそうだ。だって判断材料なんで、女性の声しかないのだから。若い頃の母親の声なんて覚えてないし、考えようとしたら眠気に襲われる。私は思考するのを早々に諦めて、まずは生まれてみよう、と結論を下したのだった。
*
「あら、一人で起きられたの?おはよう」
「おはよう」
左手にうさぎのぬいぐるみ、シゲノブを携えて、リビングの扉を開ける。窓からは朝日が差し込んでおり、起きたばかりの目に容赦なく突き刺さってきた。眉をしかめて目をこすっていると、今世の母から朝の挨拶を受けた。母は、テーブルに朝ご飯らしきお皿を並べていたが、背の低い私からはその内容まで確認できない。うさぎを引きずってテーブルに向かうと、新聞を読んでいた男性、つまりは父がこちらを向いた。
「おはよう名前。あまりシゲノブを拷問してやるな」
「ごうもん」
「いじめるなって意味だよ」
「ぱぱ、拷問なんて言葉、名前の前で使わないでよ」
「ごめんごめん」
母が父にぷんすかと怒っている。父は悪びれもなく謝っているが、反省はしていないだろう。二人の教育方針の違いによる喧嘩未満の言い合いはいつもの事なので、私は二人を無視して子供用の椅子をよじ登った。
結局、"全く別の人間としての人生を、前回の記憶を保持したまま始める"だった為、私はもう一度人生をやり直していた。しかし歴史や文明を見てみても前世と大差なかった為、大人びすぎている子供であること以外の問題は特に発生していなかった。名称などが少しずつ違ったりしていたから、並行世界のようなものなのだろう。強いて言えば、犯罪率が前回よりも高い気がするだけ。まぁ、そのくらいの誤差はあるだろうし、前世の日本は世界トップクラスで治安がよかったし、これくらいが普通ってことなんだろう。
子供らしい物欲も特にない為、何も欲しがらない。嫌いな食べ物も特になく、なんでも食べる。聞き分けがよく、ほとんど泣かない。そんな大人しすぎる子供である私を、両親は化け物扱いするでもなくこの6年育ててくれた。本当にありがたい。だからこそ、父は私の普通ではない才能?を見越して小さな大人として接し、母は年相応の子供として接する為、たまにこのように言い合いになるのだが。
ちなみに今私の隣に座っているシゲノブこと、うさぎのぬいぐるみは、ふわふわの素材でできたなんとも愛くるしい顔をしており、ある店のショーウインドーに鎮座なさっていた。それをジッと見ていると、珍しく私が欲しがっていると思われたのか、母が速攻で買い与えてくれた為大事なお友達となったのだった。閑話休題。
「あさごはん、たべていい?」
「あ、ごめんね。食べよっか」
テーブルの上には目玉焼きと焼いたトーストが置かれており、ぐぅ、と私のお腹もそれらを食べたいと主張しだした。父はもう食べてしまったようで、母と二人で「いただきます」と挨拶をしてからたっぷりのイチゴジャムの塗られたトーストをかじった。うん、うまい。
もぐもぐと咀嚼しながらテレビに目をやると、丁度芸能ニュースを報道していた。見出しのテロップを見た瞬間、持っていたトーストを落としてしまう。
『藤峰由紀子、芸能界引退!』
「あらー結婚するの?私好きだったのに」
母が残念そうにそう言っていたが、私はそれどころではなかった。まさか、並行世界ではなく、小さくなっても頭脳は同じな、見た目は子供頭脳は大人の名探偵が活躍する世界に生まれ変わっていたなんて。
そりゃ犯罪率高いわ。一瞬で全てを理解してしまった私は、いつもより更に子供らしからぬ目をしてしまったのだった。
*
と、気が付いてから早数年。私は何事もなく小学生、中学生、高校生となっていた。米花町に住んでいる訳ではなかった為、主要人物と絡むことなく、本当に平和な青春時代を送ることができて内心ほっとしている。工藤新一が今何歳なのかはわからないが、彼の事件ホイホイっぷりといったらない。仮に見かけたとしても全力疾走で逃げていただろうが、幸いにもそれらしき人物に遭遇することは今日まで一度もなかった。
そんな私は今、テスト勉強の真っ最中だった。お気に入りの音楽をヘッドフォンで聞きながら、得意な英語の長文問題をマンションの自室で解いていた私は、このマンションで事件が起こっているなんて気づくことができなかった。さらに悪いことに、両親は海外旅行へと行っており、誰も家にいなかったことも原因だろう。急に何かを食べたくなりリビングに行くと、消し忘れていたのかテレビが付いていたが、気にせず冷蔵庫を開け中身を確認した。残念ながらめぼしいものはなにもなく、買いに行くしかない。携帯と財布だけ、いつも使っているシゲノブ2ことうさぎのマスコットが付いたカバンに入れて、テレビを消そうとリモコンを手にしたが、私はテレビから視線を外すことができなかった。なぜなら、今まさに私がいるマンションが写っていたから。しかも、爆弾が仕掛けられているらしい。うっそだー。
ははは、とから笑いして現実逃避しようとしていると、テレビ内のキャスターがとんでもない事を言い出した。
『爆弾のタイマーはまだ動いています!』
「ひえっ」
現実逃避している場合ではない。今すぐに逃げなければ爆死してしまう。キャスターは、このマンションの避難は完了しており、爆発物処理班しか残ってないとか言っているが、私がまだ残っている。先ほど用意したカバンをひっつかんで玄関を飛び出した。ここは20階で、エレベーターも動いていないだろうから階段で降りるしかない。
急いで階段に向かおうとしたところで、強烈な既視感に襲われた。ちょっと待て、この事件確か、本で読んだ。止まっていたタイマーを遠隔操作で犯人が動かして爆発させる、みたいな感じではなかっただろうか?先ほどはタイマーがまだ動いていると報道されていたが、警察とマスコミにはタイムラグがあるだろうし、もう止まっていると思った方がいい。人命を救助できるのであれば、最大限に努力するべきだ。とりあえずこのフロアから人がいないか確かめてみて、いなければ一階ずつ降りて確認しよう。どうせ二回目の人生だし、ここまで生きてこれただけでも御の字だ。
そうと決めたら、と私は走りだした。人がいる事を伝える意味でもわざと足音を立てて走る。すると、運がいいのか悪いのか突き当たりの扉が開いて、中から透明な盾を持つ武装した警察らしき人がでてきた。ビンゴ!
「まだ住人が残ってたのか!?危ないから早く避難を、」
「じ、10階から逃げてきたんです!そこに爆弾らしきものがあって、どうしたらいいのか・・・!」
「なんだって!?」
「エレベーターホールにあって、タイマーっぽいのがあと15分くらいしかありませんでした!あと、かなり大きかったです、あれよりも!」
「なにィ!?」
部屋の中に押し入りながら、本物の爆弾らしきものを指さしてそう言った。中にいた数人のうち、防護服を着ていない人が一人だけいた。この人だ。
「これはタイマーが止まってるから俺が一人で解体する!お前らはその少女が言う爆弾を確認に行け!!」
「り、了解!」
場所は最初に告げていた為、バタバタとおじさん達は走って部屋を出ていった。男性にしては長い髪をした人を残して。どうしよう。この人も出て行ってくれると思ってたのに、ここにいるだなんて。よくよく考えれば、本物だと確定している爆弾を放置して、偽物かもしれないものに全員で行かないよね。馬鹿なのかな私は。
額に手を当てて反省していると、爆弾と向かい合い、解体しようとしている男性から話しかけられた。
「俺は萩原ってんだ。お嬢さんの名前は?」
答えようとした瞬間、萩原さんの携帯が着信を告げる。どうやら相手は親しい友人のようで、爆弾を早く解体しろと怒られているようだった。まずい、この通話中に爆発するんじゃなかったか!?もう爆発まで時間もないだろう、なりふり構っていられない。とにかくここから離れなければ。
電話の相手と軽口をたたいている萩原さんの腕を掴み、部屋を飛び出した。その時に携帯を落としてしまったようで後ろから抗議の声が聞こえるが、今は無視だ。走って走って、階段でひたすら下の階を目指す。いつ爆発するかわからない、どれだけ降りれば爆死しないですむのかもわからない。激しい運動のせいだけではないうるさい鼓動をおさえつけて、私は萩原さんをひっぱって階段を転げ落ちるように走った。
次の瞬間、激しい轟音が響き渡り、衝撃が身体を襲った。私より萩原さんを守らなければ、と咄嗟に腕を引いて抱きしめ、自分を地面側に向けようと身体を捻る。しかし、なぜか萩原さんをクッションにする形で着地してしまった。衝撃がおさまってから、体を起こすと見事に萩原さんを下敷きにしていて、急いで萩原さんの上から降りる。
「い、たた・・・ハッ!ごめんなさい!!」
「・・・・・・」
「私が重たかったせいだ、絶対そうだ、どうしよう・・・」
ピクリとも動かない萩原さんを見て、あわあわと慌てていると、先程10階におじさん達を追いやったことを思い出した。階段の階数表示を見ると、ここは15階で、萩原さんを引きずっていくか、私が一人で助けを呼びに行くかを一瞬迷ったが、速さを優先して一人で行くことにした。萩原さんを比較的危なくなさそうな端に寄せてから、また階段を全力でかけ降りる。
「おじさーーーん!!」
「君は・・・!爆弾はどこなんだ!?見当たらないが・・・それに今の衝撃は、」
「あ、ごめんなさい。それ嘘なんです・・・。それよりも萩原さんが、15階で倒れてて意識がないんです!お願い、助けて!」
「嘘!?いや、詳しい話は後で聞かせてもらおう。萩原さんの件は本当なんだな?」
「ほ、本当です!呼びかけても返事がなくて、」
「わかった。君は先に下まで降りていなさい」
そう言っておじさん達は萩原さんの救出へと向かっていった。一人の人が送っていこうと言ってくれたが、丁重にお断りして、萩原さん救出の手伝いに行ってほしいと伝えた。この後なぜ嘘をついたのかなどを聞かれると非常にまずいので、下に降りたらバックれるつもりだった為、警察と行動を共にするのは困る。
駆け足で1階まで降りてから、爆発の騒ぎに乗じて人混みに紛れた私は、警察からの追求を逃れることに成功したのだった。
*
あの爆発の日から4年が経過した。私たち家族の住んでいたマンションの20階は爆発により跡形もなく吹き飛んでしまった為、すぐさま帰国した両親によって引っ越しが決行された。あの後、犯人は二人組だったことが判明し、一人は警察による追跡中に死亡、もう一人は未だ逃走を続けているとの報道があっただけで、私については一切報道されなかった。ちなみにマンションの爆発による死者は出なかったとのことだったので、萩原さんも生きているようだ。よかった。
一応警察も、事件の参考人として私を探す動きもあったようだが、顔だけで特定はさすがに無理だったのだろう。警察による接触は今日この日までない。ただ、あの日カバンに着けていたシゲノブ2をどこかで落としてしまったようで、それだけが悔やまれた。ちなみし初代シゲノブは爆発と共に灰になった為、名目ともに、今はシゲノブ3が私の相棒となっている。
そして、今日は杯戸町にあるショッピングモールに来ていた。言わずもがな、前世での記憶を頼りに例の爆発事件を止めるためだ。あの爆発の日と同じ日付だということは覚えていたが、何年後かまでは覚えていなかった為、あれから毎年ここの観覧車に乗って警察の動きがないかを確かめている。爆弾の場所は"米花中央病院"だという事はなぜか覚えていたため、それを伝える為だ。しかし、怪しまれないように教えるにはどうしたらいいのだろう。あれからずっと考えてきたが、未だにいい案は浮かんでいない。
「おぉ、名前ちゃんじゃないか。今年も来たのかい」
「おじさん1年ぶり〜。また今日も乗せてもらうね」
毎年同じ日付に来て1日観覧車に乗って帰っていく客はさすがに怪しかったのか、2年目に観覧車のおじさんに声をかけられて仲良くなった。死んだ友人との思い出の場所だという話をすると、おじさんは涙ながらに慰めてくれた。ごめんね、嘘なんだけど。
特にすることもない為、持ってきた小説をひたすらに読む。一周するたびに一つ次のゴンドラに乗り換えてまた一周する。ということを繰り返していると、突然爆発音が聞こえて、衝撃によりゴンドラが揺れた。今日だったのか!爆発により観覧車が止まるかと思ったが、逆に止まらなくなったようで、窓から下を覗くと、係員が慌てて乗客を降ろしているのが見えた。私より後に乗った人は幸運にもいないようで、自分のゴンドラが下に着くまでは大人しく座っておくことにした。
大丈夫。警察の人がすぐに来てくれるし、その人が乗ってからが本番だから、今爆発して死ぬなんてことはない、はず。
あの日の爆発の衝撃を思い出して、震えてしまう身体を両手で抱きしめる。もうすぐ地上だ。落ち着け、落ち着け、目を閉じて恐怖と戦っていると、やっとゴンドラの扉が開く音がして目を開くと、サングラスをかけたスーツ姿の男性が乗り込もうとしている所だった。一つしかない出口を塞がれている為、降りるタイミングを完全に失ってしまう。
「おっとと・・・円卓の騎士は待ってなかったが、代わりに妙なものが座席の下に置いてあるぜ」
「え、うそでしょ?」
「・・・おいおい、まだ乗客が残っているじゃねぇか」
爆弾があるのは、このゴンドラだったのか。なんとも運が悪い。降りなければ死んでしまう!あ、でも爆弾の場所を言わなきゃ。とかなんとか考えているうちに、止めることができない観覧車は、また頂上を目指してしまった。もう地上はそれなりに遠く、降りることは不可能だった。
「どうしよう・・・」
「大丈夫だ。爆弾はすぐに解体してやるから」
「は、はい」
なんとも頼もしい事を言ってくれたのは警察一課強行犯係配属の松田陣平さん。松田さんの事は覚えていた。イケメンで男気にあふれており、原作にもそこまで出てきていないのに不動の人気を誇っていたからだ。かくいう私もときめきをいただいていた。本来なら4年前の爆弾事件で亡くなっていた萩原さんの敵討ちの為に、事件を追っていたはずだが、萩原さんが生きていてもそれは変わらないようだ。
テキパキと爆弾を慣れた手つきで解体している松田さんの邪魔にならないように、できるだけ存在を消して座る事に徹していると、意外にも松田さんから話しかけられた。
「あんたの名前は?」
「えーっと、山田花子です」
「まじかよ、そんなベタな名前・・・ってあんたそれ・・・」
「な、なんですか?」
「・・・そのうさぎ、どこで売ってるんだ?」
「うさぎ?あぁ、シゲノブの事ですか。これは、」
「シゲノブ!?そのうさぎの名前か!?」
「わ、私がつけた名前なので、公式ではありませんが・・・一応この子はシゲノブといいますが・・・」
なぜこんなにシゲノブ3の事が気になるのか不明だが、私の適当な名前の事が追及されなかったのはよかった。松田さんは、にやりとしてからコードを切断した。・・・うさぎ欲しいのかな。
「山田花子、あんたには下に降りてから話がある。その時に本名も教えてもらおうか」
「ワタシノナマエハヤマダハナコデス」
「はいはい。まずはこの爆弾を解体してから・・・ッ!」
「きゃあ!」
また爆音と共にゴンドラが揺れる。手すりを持って揺れがおさまるのを待っていると、松田さんの携帯が着信を告げた。電話の向こうからは松田さんを心配しているであろう女性の声が漏れ聞こえてきた。おそらく佐藤さんだろう。
「今の振動で妙なスイッチが入っちまったぜ。わずかな振動でも中の玉が転がり、玉が線に触れたらオダブツよ・・・。俺と一緒に乗ってる一般人の肉片を見たくなきゃ、こいつを解体するまでゴンドラを動かすんじゃねーぞ!・・・この程度の仕掛け3分もありゃ・・・」
そこまで話したところで、爆弾の液晶に表示された犯人からのメッセージを見たのだろう。松田さんは、それを読み上げて爆弾の設置場所が"どこかの病院"であることを告げ、"どこか"はヒントを見てからだと言い、半ば強引に電話を切っていた。
「悪いな、俺と一緒に死んでもらうかもしれねぇ」
「あの、ギリギリまでメッセージを見てから解体することはできないんでしょうか?私、謎解き得意なので一緒に考えましょう!もし残り3秒でわからなければ、その時は構いません」
「・・・なるほどな。じゃあ最後に切るコードを教えるから、どこかわかればすぐに切れ。俺がわかった場合も合図する」
「は、はい。頑張りましょう!」
「・・・あぁ」
松田さんは携帯で佐藤さんにメッセージを送らなければならない為、コードを切れない。松田さんより手渡されたペンチを握りしめて、その時を待つ。液晶画面の残り時間が残り30秒を切った。元より爆弾の設置場所を知っている私は切る気満々だが、残り1秒くらいで切らなければ怪しまれてしまう為、タイミングを間違えれば死んでしまう。その恐怖からか手が震えてきた。深呼吸だ。ここで彼を死なせるわけにはいかない。
「あんたをここで死なせるわけにはいかない。死ぬ気で暗号を解いて見せるさ」
私の心の声が出たのかと思ったら、松田さんの声だった。素早く携帯に文字を打ち込みながら私を励ましてくれる。今際の際にメールで何かを伝えたい人でもいるのだろうか?まぁ、イケメンだし彼女の一人や二人、いるだろう。私にはいないがな!!しかし、なぜ初めて会った一般人にここまで優しくしてくれるのか。やっぱりシゲノブが欲しいのかしら。
私はコードを切るためのペンチを、松田さんは佐藤さんに暗号の答えを送るための携帯を握りしめ、時が来るのを待った。そして、残り3秒になった瞬間画面に暗号が浮かんできたが読むひまなどなかった。私の目には残り時間しか映っていない。あと2秒、1秒。
パチン、とコードを切った。残り時間はコンマ58秒。爆発はしない。
「よ、よかった〜〜〜〜〜」
「わかったのか!?」
「え?・・・あ、あぁ!"米花中央病院"だと思います!」
「あんたまさか・・・いや、今はいい」
あまりの安心感に挙動不審になってしまったが、識っていた場所を告げながらペンチを返す。松田さんはそれを受け取りながら佐藤さんに電話していた。案の定怒鳴る声が聞こえてきて、めんどくさそうに対応している。
しばらくすると、観覧車がまた動き出して無事地上に降りることができた。観覧車が下に着くまで佐藤さんとずっと電話をしていた松田さんは、なぜかジッと私をにらみつけてきており、正直怖すぎる。
無事観覧車から降りることができ、松田さんからの視線からも逃れることができた。小太りの警察の人が駆け寄ってきたが、おそらく目暮警部だろう。
「怪我はないかね?」
「はい、大丈夫です。ではこれで!」
「お、おい君!!」
そう言って、目暮警部の静止を振り切って走って逃げようとしたが、急に目の前に男性が現れて勢いよくぶつかってしまった。
「ぶっ!す、すみませ・・・」
「やっと見つけた」
「!?」
「おい、俺が話すのが先だ」
「!?!?」
ぶつかった人は、記憶違いでなければ萩原さんで、後ろからはゴンドラから降りてきた松田さんがいた。爆弾解体の前に連絡していたのは萩原さんだったのか!にしてもなぜやっと見つけた、なのだろう。まさか4年前の事件の事がバレたという事か?いやいや、こんな短時間でわかるわけが、
「シゲノブ、このうさぎの名前だよな?」
「あ」
「ご丁寧に首輪のプレートに書いてあって、随分探したよ」
シゲノブ、お前裏切ったなぁ!と4年前に生き別れとなり、現在は萩原さんの右手に握りしめられているシゲノブ2に、心の中で罵声を浴びせる。フン、早々に次の男(うさぎ)に乗り換えといて、よく言うぜ。シゲノブ2は蔑むような目(当社比)で私を見ていた。
まさかシゲノブ2を萩原さんが拾っていたとは・・・これはバレるわ。
がっくりと肩を落としていると、後ろから肩をぽん、と叩かれた。
「萩原、俺の恩人をあまりいじめるな」
「おいおい、俺が先だぜ?」
ちょっと待って、お願いだから私を挟んで変な喧嘩しないで。今すぐに逃げてしまいたいが、前と後ろを萩原さんと松田さんに挟まれており、逃げ道など存在していなかった。
二人とも、私を恩人と言ってくれている為、きっとお礼を言いたいだけだろう。そしたらもう関わることもきっとないし、今だけ我慢しよう。事情聴取が終わればおさらばだ。
しかし、まさかこの先ずっと、二人に絡まれ続ける事になるとは、この時は微塵も思っていなかったのだった。