SS
2026/10/18 ▽
君とならできる診断メーカーさんのお題を使わせて頂いております。
「二号、流石に無理だよ」珍しく弱気になった君が困った様にボクを見ながら言う。ボクは君とならなんだってできると思ってるのに、君はそうじゃなかったのか。
「できるさ。君とボクなら……いや、君とボクじゃないとできない!」
特大バケツプリン2kg完食なら料金タダ!数十分後、無事完食した。
2026/10/18 ▽
香水診断メーカーさんのお題を使わせて頂いております。
「香水か」
「あ、気づいた?どう?結構気に入ってるんだけど」
ピッコロは私の変化に─彼女ネイル、髪型、服等々目ざとく気づいて褒めたり褒めなかったりしてくれる。
「以前のも良かったが──」
「前?香水買ったの人生初なんだけど」
「何?そんなはず……いや、なんでもない。忘れろ」
その匂い多分天然由来ですけど!
2026/10/18 ▽情緒ぐちゃぐちゃジェットコースター
何が書きたいのかよくわからなくなったやつ
「すまないが、あなたの気持ちに応えることはできない」
振られた。ものの見事に玉砕した。
彼のいつものパトロールの順路で待ち伏せして、勇気を振り絞って声をかけて告白したのに、憧れの、敬慕してやまない彼に。
彼は普段テレビなんかで見かけるいつも通りの鉄仮面のまま、謝罪を口にした。本当に申し訳ないと思っているのか疑わしい。
彼曰く、自分はスーパーヒーローあれかしと造られた存在だ。故に一個人を特別視する恋愛感情を持つことはないし、そのようなプログラムも組み込まれていない、と。
なら、その正義の心はどこから沸いてくるのか。慈愛やなにかしら愛の名がつく感情がないと生まれない感情なのではないか。
そう正義心の根源について説明するも彼ーーガンマ一号ーーは何一つ理解できないようで首を傾げるばかりだった。
さっさと諦めさせてパトロールに戻りたいのか「貴方のその気持ちは嬉しい」とか「もっと他に素敵な人が」だとかありふれたマニュアルめいた慰めに、ひどく惨めになった。
だから、死ぬことにした。
喉笛にいつも持ち歩いているカッターナイフを突き立てて、目の前で死んでやろうと思った。そうすれば、多少なりとも記憶に残るかも、なんて考えた。
「そのカッターナイフをどうするつもりだ」
流石に刃物を取り出せば焦るかと思ったのに、彼は眉――といっていいのかわからないけど――一つ動かさなかった。
冷静そのものの声音で、心底理解出来ないといった風に投げかけられた疑問が妙に癪に障った。
「こうすんのよッ!!」
十分に出した刃で喉を切りつけた、はずだった。
「馬鹿な真似は止めなさい」
頭上から感情の読み取れない平坦な声がかけられ、気づけば手の中にあったはずのカッターナイフは随分と遠くに転がっているし、逃げ出さないようにかもう片方の腕は彼の骨ばった手にしっかりと掴まれている。
どうやら切りつける寸前に彼によって弾かれ落としたらしかった。
遅れてやってきた指先の痛みに、そう気づいた。
初めてこんなに急接近したというのに、心底から沸いてきた感情は憎悪だけだった。
「いったぁ!大ッキライ!!離せボケ!!」
意外にもその手はちょっと暴れただけで簡単に離された。
これ幸いと脱兎のごとく逃げ出すも、彼が追いかけてくる気配はなかった。
なにこれ、ほんと最低最悪。
馬鹿な真似って言われた。私は真剣なのに。
ていうか追いかけてこいよ、自殺未遂者が脱走したんだから。
一世一代の告白を、そんな機能搭載していないからと一蹴され、それならせめて記憶に居座り続けてやろうと自殺しようとしてそれすらも阻まれて。
情けない、末代までの恥だ。いや末代はないか、この後死ぬつもりだし。
灯油を頭から被って行ってあいつの目の前で火をつけてやろうか。そうだ、そうしよう。
燃え盛る私を見て告白を断ったことを後悔すればいい。
そうと決まれば灯油なんかの用意しないと。最期なんだから、一張羅を着て、とびきり可愛いメイクをして、それからそれからーー。
大嫌い、ガンマ一号。
2026/10/18 ▽1125
十一月二十五日。
いい二号の日じゃん。なんて一日の終わりかけにようやく気づいた私は、いつもお世話になっている二号に、たまにはあちらから甘えてもらおうかと考えた。
けど、さぁ甘えなさいと言って、はいわかりましたと素直に甘えてくるような子じゃないのだ。どうしたものかと足りない頭を捻りに捻りまくって出た答えは"まずこちらから甘えて自然な感じで甘えてもらいやすい状況を作る"というなんともお粗末なものだった。
うまくいく保証もないし、そもそも甘えたいと思っているかどうかすらわからないが、労いたいという気持ちがあればそれでいいでしょと半ば開き直りのような心持ちで寝室に赴き、博士オススメだというコミックスを読みながらごろごろとベッドで寛ぐ二号に「ね〜二号、ちょっといい?」と声をかけた。
「もちろん、どうかした?」
「あ〜、あのね、えっと、その……なんというか」
どうしよう。今更改まって甘えさせて、なんて恥ずかしくなってきた。
声をかけてしまったからには何か言わなければ。そう思うのに甘えるための言葉なんてなんにもでてこないし、寝転んでいたはずの二号は座りなおして黙って言葉の続きを待ってくれている。なるほど甘えるって思ってたよりも難しい、なんて焦る頭の片隅でぼんやりと考えた。
まごまごと言葉を探す私を見かねてか、くすりと零された笑みとともに、大きく開かれた両手が差し出された。
「おいで?」
「っ!うん!」
膝の上にお邪魔してぎゅう、と抱きつくと二号の部屋着から自分と同じ柔軟剤が香って、愉快そうな二号の声が頭上から降ってくる。
「ふふ、甘えたくなっちゃった?」
「えへ、お恥ずかしながら……。でもなんでわかったの?」
「だってキミ、帰ってきてからず〜っとそわそわしてるしボクのことちらちら見てるし、どんな鈍感だって気づくさ」
「そんなにわかりやすかった?私……」
「笑っちゃうのを我慢できないくらいにはね」
なんだか馬鹿にされているようで少し不服だけど、甘えるというステップはなんとかクリアできた。次は二号から甘えてもらえるようになんとかいい感じに事を進めるだけだけど、考えなしで突撃したせいで次の一手が何も思いつかない。
キスでもかましてやろうかと硬い胸板に頭を擦り付けて悩んでいると、一際強く抱きしめられぐるりと視界が回転した。気づけば私は二号と一緒にシーツに横倒しになっていた。なんで?
「それで?"ここ"で甘えてくるって事はそういう意味なんだよね?」
「あ、いや、別にそういうつもりじゃ……」
しまった。完璧に二号のペースに乗せられている。こうなってしまうとここから主導権を握り返すのはほぼ不可能といっても過言ではない。甘やかすつもりではあったけど、こんな展開は想定してない!
きしりとベッドから歪んだ音がして、馬乗りになった二号の意地悪そうな顔に見下される。
「ダ〜メ。今晩はたっくさん甘やかしてもらうつもりだから、覚悟してよ」
ああなんだ、全部ばれてたみたい。
ゆっくりと唇が寄せられる。至近距離で交わされる目線に、降参の合図として目を瞑り覚悟を決めた。
2026/10/18 ▽1115
十一月十五日。
勤務中ぼ〜っとカレンダーを眺めて今日っていい一号って読めるな〜なんて思ってしまったが最後、無性に彼を思う存分労って甘やかしてしまいたい、という考えが頭から離れなくなり、退勤後我が家に来てほしいと呼びつけたのだがーー。
「というわけで甘やかします。来いッ!!」
「来い、と言われても」
私の雑な説明では状況が理解できないのだろう。腕を広げてソファで待機する私を横目に、一号はゆっくりと隣へと腰を下ろした。
「一号いつも誰にも頼らずに頑張ってるし、今日はとことん甘えていいからね」
ほれほれ、と腕を広げたまま上下に振ると渋々といったように緩くきゅ、と抱きとめられる。なんだか甘やかすつもりが甘やかされている気になってきた。
好きに甘えろなんて余計なお世話だったかな、という考えは耳元で聞こえた彼の願いによってかき消された。
「……普段から甘えてはいけないか?」
「えっ…………………」
弱く呟かれたらしくない、けれどなんとも愛くるしい発言に言葉を失った。ひとつ驚嘆の音を出して硬直した私に幻滅されたと勘違いしたのか、一号はゆっくりと否定の言葉とともに腕を下ろして離れようとする。
「いや、前言撤回する。ヒーローらしからぬ発言だった」
「いっ、いい!普段も甘えてくれてなんの問題もなし!!私と二人でいる時くらいヒーローはお休みしてもいいでしょ!」
慌てて彼の精一杯の甘えを肯定し、「ヒーローは休めない」という生真面目な反論は聞こえないふりをして、ぎゅうっ、と存外甘え上手な彼を力いっぱい抱きしめたのだった。
2026/10/18 ▽じわり
※ヘマトフィリア表現あり
「#○○#、血が」
つぅ、と彼女の鼻孔から滴り落ちるその赤に、ガンマ一号は一瞬で目を奪われた。
「あ」
彼女の一言とともにぽたりと嫋やかな手を汚したそれは、次々と水玉模様を描き留まることを知らない。
一号ティッシュ取って――。
彼女がそう発する前に、一号はがぶりと血の滴るその鼻に食らいついた。
「ひ……」
彼女からたった一音漏らされた悲鳴は、それ以上続くことはなかった。
ひやりとした手袋に後頭部を抑えられ、ぬるりと生温かい舌先が鼻孔に這わされる。
じゅるじゅるとそうするのが当然であるというように、流れ落ちる血液を鼻から直に舐め啜られて彼女の顔が不快感に歪んだ。
鼻孔を吸われる未知の感覚に鼻奥が痛む。
無論彼女は抵抗したかったが、血に塗れた手で彼の肩を押すのは躊躇われた。
こんなときに相手の服の心配かと思われるかもしれないが、それでも後処理のことを考えて彼女は無抵抗にならざるを得なかった。
開きっぱなしになった彼女の口から漏れ出す不規則な呼吸が、一号の喉をくすぐる。
しばらくして、ついでのように唇から顎先まで滴ってしまったものも綺麗に掬い上げられ、ようやくその苦行から解放された。
藤紫がうっすらと赤に染まり、てらてらと艶めいた。
まるで試食でもらったジュースでも飲んだかのような口ぶりで一号が言う。
「甘いな」
「うぁ、なに、を」
今までも片鱗は垣間見えていた。
彼女が少しでも怪我をすれば、過剰なほどに甲斐甲斐しく世話をしたし、生理周期は教えてもいないのになぜか知らぬ間に把握されていた。
血の存在に異様に敏感なのだ。
ガンマ達は人命救助の助けになるように、血の匂いに強く反応するように造られている。
だがこの行動はその備え付けられた機能に起因するものでなく、ガンマ一号の本能から起こされた行動であった。
今この瞬間偶然発露しただけで、これまではただその欲望をなんとか抑えていたのだ。
彼女がマグカップを割って指先を切ったときも。
2日目で立っているのもキツイと寝込み、介抱したときも。
一号はただ耐えてきた。
彼女から香る血の誘惑に。
むっつりと感情を表に出さず、ひたすらに。
覆水盆になんとやら。
抑圧されていた欲は一度解き放たれてしまえば彼の意思とは関係なく止め処なく湧き出てしまう。
「もっとーー」
まだ足りない。まだ味わいたい。
彼女から滴り落ちるその蜜のなんと甘露なことか!
勿体ないと指の汚れすらも舐めとり、彼女の肌が粟立つのを一号は舌先で感じ取った。
じわりとまた、彼女の鼻孔から血があふれ出る。
彼女の怖れが籠った震える瞳に、高揚感と少しの背徳感を感じながら、一号は恍惚とした表情で再び甘い源泉へと唇を寄せるのだった。
2026/10/18 ▽花束を抱えて
この世に生を受けて、初めて花を買った。私には大切な女性がいる。その彼女とは今日で交際を始めてちょうど半年になる。
ブルマ博士曰く、女性はこういった所謂記念日を祝いたい人が多いらしい。「今日はあの子お休みだし、花でも買って会いに行ってあげなさいよ」というありがたいお言葉をいただき、花屋へと赴いた。
喜んでくれると良いんだが。早く彼女に会いたい、そう思い私は出来うる限りの速さで彼女の家へと飛び立った。
「お疲れ様〜!どうしたの急に会いたいだなんて」
彼女の部屋のインターホンを押すと、応答もなしにいきなり扉が開かれる。不用心だからやめてくれと何度も注意しているのだが……
「お疲れ様、インターホンは――」
「ちゃんとモニターで誰か確認したよ〜。それで?おねぇさんに何の用かな?」
「んん……今日で私たちが交際を始めてちょうど半年になる」
「えっ、そうなの?」
気づいてなかったや〜ごめんね!と明るく謝られる。おかしい、ブルマ博士から教えていただいた情報とかなり相違がある。記念日を祝わないと、大抵の女性は怒ると聞いていたが……。
「そ、それで、女性は花を好むと聞いたので、花束を買ってきた」
「お花!!素敵〜。私、花束なんてもらったことないなぁ」
よかった。今度は彼女も多分に漏れず、花が好きらしい。
はやく見せて見せて!と催促され、背に隠していた花束を意気揚々と彼女に差し出すと、なんと見るも無残にほぼすべての花びらが散ってしまっていた。
「あ……」
「ありゃま」
そういえば買ったときと比較して、ここにきてからは随分と軽くなっていた気がする。まずい。流石に間抜けすぎる。花が生もので脆いものだということを完全に失念していた。呆然とする私をよそに、彼女は私の手から花束をするりと抜き取ってしまう。
「これは……チューリップ、こっちがガーベラ?バラもあるね、あ、これちょっと花びら残ってる」
わずかに残った茎と葉だけで花を判別する彼女を見て、ハッとする。謝らなくては。
「あ、す、すまない!貴方に早く会いたくて、速く飛びすぎたようだ」
「あはは!ありがと!んも〜、嬉しいこと言ってくれちゃってぇ〜」
「……怒らないのか、こんな無茶苦茶な花を手渡されて」
「なんで?会いにきてくれただけで嬉しいもん。喜びはすれど怒るなんてとんでもないよ〜」
きょとりと不思議そうにこちらを覗く瞳は、一片の曇りもなく慈愛に満ちている。随分とおおらかな人だとは思っていたがここまでとは。もし完璧な状態の花を渡せられれば、今以上に喜んでくれていただろう。いっそう花を散らしてしまったことが悔やまれる。
「お花が散っちゃったのは、まぁ確かに残念だけど、そんなしょげないでよ〜」
「しょげてなど……ただ、綺麗な花だったので貴方に喜んでほしくて」
そう伝えると、みるみるうちに彼女の頬が染まり、次第に口許がゆるゆると解れていく。
「ふふ、そんなかわいいことを言う子には、いい子いい子してあげよう」
そう言って少し背伸びをして私の頭を緩くなでる彼女の手は、ひどく暖かく柔らかい。その暖かさがあまりに心地よく、心の底から愛おしさがこみ上げてくる。
「……抱きしめても?」
「わざわざ許可とらなくてもいいよ」
堪らず抱き締めると、微かに残った花の香りと、彼女由来の香りが混ざったものが鼻腔をくすぐる。
「また、花を贈っても良いだろうか」
「もちろん、楽しみにしてるね」
聴覚ユニットのそばで彼女が甘く囁く。
「私はどこにも逃げないから、今度は焦らず、ゆっくりおいで」
2026/10/18 ▽こんな感覚聞いてない!
ファーストキスは、彼女からだった。彼女のほうはそうじゃなかったみたいだけど、生きてきた年数が数倍違うんだから、残念ではあるけれどしょうがない。
彼女の家で去年大ヒットしたという恋愛映画を観ていて、ストーリーの進み具合もほどほどに、なんとなくそういう雰囲気になって、ソファで横に座っていた彼女が、おもむろにボクにしなだれかかり、視線を交わらせた。人間ってこういう時にキスするんだ、なんて思ったのも束の間。唇が寄せられた時点で、あ、まずいかも、とは思ったけど時すでに遅し。
唇が触れ合った瞬間、今まで感じたことのない感覚に襲われた。ただ、数秒触れ合っただけで。
「ふぁ、は、ぇ?ちょ、っとまっ、て!!」
「え、やだった?」
慌てて彼女の肩を掴み、引き離す。
青天の霹靂、電撃が走るとか、そんなチャチなもんじゃなかった。なんだあれは。動力盤から過剰すぎる電力が供給されてそれが溢れてしまいそうな感覚。制御盤が壊れたのか、思考回路がめちゃくちゃになって何も考えられなくなりそうな──
人間たちって本当にこんな行為を日常的に交わしてるのか?こんなの、した後の生活ままならないんじゃないか?
さっきのキスの衝撃のせいか、頭のてっぺんから足のつま先まで妙に熱が篭もるし、そのせいで頭がぐらぐらしている気がする。
よだれ垂れてるよ、と言われ手の甲で乱雑に拭う。口開きっぱなしだったや。
「いやとかじゃなくて、その……」
いつもなら快活に動く舌も、今はうまく回らない。少し不安そうに彼女の瞳がこちらを覗く。
「なんかこう、ダメな気がする。うまく言えないんだけど」
「ダメ?」
「これ以上したらボク使い物にならなくなるかも……」
「ほぉ」
「ぞわぞわするっていうか、その」
「気持ち悪い?」
「不快感じゃなくて、でもショートしそうになるというか」
「じゃあ、もうしない?」
首を傾げながら、私はまだし足りないけど、と付け加えられ、ボクの彼女かわい〜!というあまりにも呑気な感情とあんなの続けたら今度こそ確実に壊れるという確信とその他諸々の感情がないまぜになる。
「それは……したい、けど」
もちろんしたくないわけではない。可愛い彼女の頼みである。叶えられることならば、可能な限り叶えてあげたい。
「あ、じゃあさ、二号からしてよ。自分からしたほうが、覚悟もできるだろうし」
「んん……わかった、やってみよう」
「じゃ、いつでもど〜ぞ」
ボクとは違って余裕だらけの彼女が、静かに目を閉じる。自分からあの感覚を迎えに行くのはかなり勇気がいるけど、やるしかない。
「よし、し、しつれいしま〜す……」
唇が触れ合い、じわりと彼女の温度がボクに移る。彼女の肩を掴む両手に、思わず力が入る。覚悟を決めてから触れ合ったおかげか、さっきよりはまだ耐えられた。相変わらず頭はぐらぐらしたままだし、全身をかけ巡る電流は普段より過剰な気がしたけど。
「ん、ふふ」
彼女の伏せられていたまつげがゆっくりと上がり、視線がかち合う。おや、と思っている内にれろ、と彼女の舌がボクの唇をなぞり、思わずソファから転げ落ちた。
「〜〜っっっっっ!?」
「ふふふ、かわい〜……」
「なん、なに、なんっっっでそんなことするんだ……」
「かわいくって、つい。ごめんね?」
ほんとは人間じゃなくて悪魔なのかな、この子。完全にいい様に弄ばれている。なんだか、なにかに負けた気がする。まともに彼女の顔を見ることができない。
「二号、なんか敏感すぎない?」
「そう……かも」
そこではた、と気づいた。というかようやくデータベースから情報を引っぱり出せた。以前ヘド博士が仰っていたこと。ロレンチーニ器官だ。ボクらガンマは鮫をモチーフにデザインされている。それ故、鮫に備わっている機能(生態?)の大体はボクらにも備わっているということ。ロレンチーニ器官のおかげで、どれほど微量な電流でも感知できてしまうということ。それってつまり、人間から発せられるちょっとの電流も感知してしまうわけで──
「これさぁ」
いつの間にか天井を背景にした彼女の顔がぐ、と近づき、揺らめく長い髪が檻のようにボクの周りに落ちる。華奢なオンナノコの彼女なんて、その気になれば簡単に退かすことができるのに。なぜか押し倒されたままボクは逃げられなかった。
「な、なに」
「してる最中に舌入れたら、一体どうなっちゃうんだろうね?」
悪魔のような思いつきだ。彼女が心底楽しそうに、意地悪く笑う。
テレビからは観客にハッピーエンドを報せる曲が、エンドロールと共に流れ出していた。
2026/10/18 ▽噛みグセのある1号
「わ、こりゃまた……」
ハデにやられたなぁ、とぬるいシャワーを頭からかぶりながら、独りごちた。浴室の鏡にうつる自身の至るところに、無数に咲かされた歯形は、見た目の鮮烈さとは裏腹に、痛みはあまり感じられなかった。彼が情事の際に噛むのだ、思いっきり。ひどいときには歯形の周りがうっ血して、痣のようになってしまうものもあった。初めて噛み跡だらけになった己を見た時は、それはもうぎょっとした。自分でも気づけないところまで噛まれては、日常生活に支障が出る。首筋の噛み跡を友人に指摘されたときには、顔から火が出るほどに恥ずかしかった。仏の顔も三度まで。今度こそしっかりと灸を据える必要がありそうだ。
「一号」
つとめて優しく、ほんの少しの怒りも声音から滲ませないように、私は声を掛けた。ベッドの上で正座した状態で待機していたであろう、一号の肩がびくりと震える。前回、前々回も彼はこうして私がシャワーを浴び終わるのを、身なりをきちんと整えて待っていた。そしてこの世の終わりだとでも言うような顔で本当に申し訳なさそうに謝るのだ。すまない、やりすぎた――と。その度にやんわりと、悪いと思うのなら、見えるところはやめてくれ、と注意した。情を交わした相手である。本当は私だってこんなこと言いたくはない。しかし今日こそは、心を鬼にして言わねばなるまい。私が息を吸うと同時に一号が口を開く。
「何度も、すまない……」
出た。正直言って、謝罪の言葉はもう聞き飽きた。反省している一号には悪いが、どれだけ心の底から反省しようとも、それが行動に表れなければ意味がないのだ。
「せめて見えるとこはやめてねって、言ったよね」
ゆっくりと彼の隣に腰を下ろすと、安物のスプリングが控えめな悲鳴を上げる。
「本当にすまない、抑えなければと、思ってはいるんだが……」
本当に思ってはいるんだろうな、ということは彼の沈んだ表情から伺える。けれど実際問題、私の全身はそれはもう、悲惨な状態なのだ。
「次噛んだら、しばらくシないよ」
服を選ぶのも大変だし、人に指摘されるのだって恥ずかしいんだからね――こんなことを言って、効果があるとは思っていないが、一応釘を刺す。
「……わかった」
約束する。まっすぐに視線を交え、はっきりと約束を口にした。その肩は落ちたままであったが。しょうのない人。ふ、と息を吐き出し、しょげ込んでしまった彼を抱きしめた。
あの日から数回ほど致したが、今の今まで、ただの一度も噛んでこない。なんだ、やればできるじゃないか、と初めの頃は思っていた。思っていたのだが――。
回数を重ねるごとに、違和感というか、明らかに加減されていることがわかってきたのだ。恐らく、噛まないようにという、交わした約束を守ろうとそちらに意識が向いているのだろう。そうなってくるとまったく満足していないわけではないが、少々物足りなくなってきた。我ながら自分勝手な女である。相手には我慢を強いておいて、自分を満足させろなどと。なにより最中の、彼の必死に固く口を噤む姿をみていると、なんだか申し訳なくなってきた。傷ひとつない自分の体を洗い流しながら、少しくらい譲歩してみようかな、と考えた。
「ね、一号」
シャワーを浴び終えた私は、早速一号に提案しようと声を掛けた。珍しく彼はいまだシーツに包まり、ボーっと天井を眺めていた。錆びついてしまったかのように、緩慢にその首が私の方を向く。
「……なんだ」
「あのね、私、自分の都合だけ考えて、一号に無理させちゃったかなって思って」
ベッドの縁に腰掛け、言葉を選ぶ。
「それでね、ちょっとだけなら、また……噛んでも、いいよ――」
聞くが早いか、気づけば私の両手首はやや乱れたシーツへと縫いつけられていた。
「頼む、逃げないでくれ」
綺麗に生え揃えられた歯の隙間から、藤紫の舌がてらりと覗く。敵機直上、急降下。あぁ、言わなければよかったかもしれない。
2026/10/18 ▽バグ
※ガンマの人権がない
「貴方を恋い慕っている」
私の告白を聞いた彼女の目が大きく見開かれ、次いで顔面がサァッと青ざめる。
今日に至るまで彼女の私に対する好感度は悪くはないと思っていたが、そうではなかったらしい。これは良くない反応なのだろう。人生経験というものが常人より圧倒的に足りない私にもその位は理解できた。
焦ったように彼女が口を開く。
「い、今の私以外の誰かに話した?」
「いいえ、まさか」
「ヘド博士にも?」
「ええ」
「ちょっと来て」
手首を掴まれツカツカと歩き出す彼女に引っ張られる形で私は足を踏み出した。
「一体どちらへ?」
「博士に報告をしに」
こちらを振り向かずに彼女が答える。
"博士に報告"ということは告白は承諾してもらえたということか。彼女の反応から断られるのではと思っていたがどうやら違うらしい。
所謂ご両親に挨拶を、ということか。博士はなんと仰るだろう。いささか気が早すぎる気がするが、それならこの掴まれたままの手は握り返してもいいのだろうか。
「ここで待ってて」
結局手は握り返せないまま博士のラボまでくると、彼女は私を置いて一人で中へと入ってしまった。
何故別々に入室する必要があるのだろうか。
なにか私の知らない挨拶の作法でもあるのか。
彼女の不可思議な行動に考えを巡らせていると、それほど時間は経たずに扉が開き室内から声をかけられた。
「おまたせ、入っていいよ」
そう促され室内に足を踏み入れるが、博士の姿は見当たらない。
挨拶をするのではなかったのか?人の世の作法というものはまだまだ知らないことだらけらしい。
「博士はどちらに?」
「隣の準備室だよ。私達は先に準備してしまわないと」
一体何の準備を?そう問う前に「一度ポッドに入ってほしい」と言われ、勢いに押され指示通りに従うとすぐさまカバーが閉められ、彼女の事務的な声がマイク越しに伝えられる。
「現在時刻午後十四時二十七分、ガンマ一号の緊急メンテナンスを開始します」
「緊急メンテナンス?なぜ、私はどこも――」
ようやく異変に気づきポッドから出ようとするも、内側から開かないようにロックがかけられている。なぜ。私はどこもおかしくなんてないのに。
私の言葉を遮るように彼女の重く冷たい言葉が響く。
「ごめんね。正義のヒーローにその感情は不要なものなんだ」
「おはよう。ガンマ一号」
「おはようございます。#○○#助手」
システムを再起動すると、まず柔く微笑む彼女を視認した。次にここ数時間、いや、数日に渡っていくつかの記録データが存在しないことに気づく。まるで虫にでも食われたかのようにデータが抜け落ちている箇所が複数あるのだ。
幼子をあやすような声音で彼女が言う。
「どこか違和感はないかな?」
「異変は感じられませんが、あの……私は一体何を?いくつかの記録データが削除されているようです」
「深刻なバグが見つかってね。それの修正をしたんだよ。記録データもそれに伴って削除させてもらったよ」
「バグ?どういったバグでしょうか」
数日分の記録データを削除しなければいけないほどのバグとは一体どういったものなのか。記録データを削除しているので当然ながら身に覚えがなかった。
彼女は言葉を選んでいるのか言いにくそうに答える。
「う〜ん、特定の人物を贔屓してしまう、みたいな?ヒーローが誰か一人を特別視するのはダメでしょう?」
「なるほど、理解しました。お手数をお掛け致しました。ありがとうございます」
「いえいえこれも仕事ですから。けど、どういたしまして」
「それでは、失礼します」
メンテナンスが終わったのなら、ここに長居する必要もない。
本来の業務へと戻るために扉へと足を向ける。
「ああ、そうだ」
何か伝達し忘れていたのだろうか。
退室しようとする私に、思い出したかのように彼女が声をかける。
なぜそのような顔をするのか皆目検討もつかなかったが、気のせいかその表情は口元は引き上げられているのにどこか暗く悲しげに見えた。
「さっきの返事だけど、私も同じ気持ちだったよ」
2026/10/18 ▽
気に入らないな診断メーカーさんのお題を使わせて頂いております。
気に入らない。
スマホを覗き込み一喜一憂する表情。
果てには慈しみの篭ったその微笑みも。
きっと想い人からの連絡なのだろう。
私にはそんな表情一度も向けてくれたことはないのに。
彼女に想われるその人間も、なによりこんなことを考えてしまう自身の思考回路も、なにもかも気に入らない。
2026/10/18 ▽
紅茶の淹れ方・インスタントコーヒー診断メーカーさんのお題を使わせて頂いております。
紅茶の淹れ方
茶葉の量、お湯の温度、蒸らす時間──
それらをどれだけきっちり測っても、ボクが淹れた紅茶は彼女の淹れたものには到底敵わなかった。隠し味を入れてるからね。そういう彼女に、隠すなんてずるい、ボクにも教えてと迫ると、愛だよなんて宣った。
ならボクの君に対するこの感情は一体なんだって言うんだ。
インスタントコーヒー
インスタントコーヒーなら、誰がどう淹れても味に優劣はつくまい。珍しく紅茶以外が飲みたいと言った彼女に、ボクはコーヒーを淹れた。
一口嚥下し「もしかして隠し味入れた?」と驚いたように言うキミ。やっと気づいてくれたか。
キミに初めて紅茶を淹れたあの日から、ずっと入れてたよ。
2026/10/18 ▽
掴む手診断メーカーさんのお題を使わせて頂いております。
※死ネタ
差し出された手を思わず握り返す。
もうすぐこの女はこの白亜の病室で、永遠の眠りにつくのだろう。
「ふふ、ピッコロさんの人生、十分の一ももらっちゃった」
今まで一緒にいてくれて、ありがとう。そう言って女はゆっくりと瞼を閉じた。
掴んだその手は、初めて出会った頃と同じく、柔く華奢であった。
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