悪夢見る時はだいたい疲れてる時


子どもの叫び声が聞こえる。大人の怒鳴り声が聞こえる。私はこれを知っている。一番嫌いで、一番大事な記憶だ。何年経とうとも、時たま夢に見る。松明がなければ何も見えない暗闇で、星だけが綺麗な夜だった。

私には片割れがいて、いつも一緒にいた。村の人間たちは私たちを遠ざけるようにして、けれど死なないように食べ物は与えた。心が休まる場所なんてものはお互いにしかなかったし、夜になれば二人で抱き合って寝た。お互いしかいない極限状態で、よく心が死ななかったものだと思う。
村の人間たちは私たちを遠ざけはしたけれど、忌み嫌うわけではなく、ただ不干渉だった。声をかけることはなかったし、こちらから何かすることもなかった。ただ私たちがそこにいれば彼らは離れていくだけ。何故か食べ物だけは置いていったけれど。そうしてずっと二人でいるのだと思っていた。

やけに静かで、虫の鳴き声すら騒がしい夜だった。その日も変わらず、二人で抱き合って寝ていた。けれど、その日はいつもとは違って、村人が面と向かって食べ物を渡してきたのを覚えている。うつらうつら、としていたら、ざり、と草履が砂利を踏む音がした。ふ、と目を開けると私たちは村人たちに囲まれていた。
そんな夜は初めてで、起きていたらしい片割れの手を強く握った。片割れの握り返す力が、ひどく心もとなかった。大人たちは私たちに手を伸ばし、引き離そうとしてきた。そんなことは絶対に許されなかったし、私たちも必死に抵抗したが、所詮子どもの力で大人に勝てるわけがなく、あっさりと引き離されてしまった。大人たちは私を捕まえて、片割れをどこかへ連れて行こうとした。喉が痛くなるほど声を上げたし、首が痛くなるほど片割れのもとへ行こうともがいた。それでもどんどんと離れていく片割れとの距離に絶望を感じ始めた時、片割れが私に向かって叫んだ。

「────絶対ェ迎えに行くから待ってろ!」

ああ、これは逆らえないのだと気付いて力が抜けてしまった。逆らえないのだ。片割れが連れて行かれることにも、私たちが引き離されてしまうことにも。でも、それでも。片割れは絶対に迎えに行くと言ったのだ、私は片割れを待ち続けなければいけない。だって、私たち兄妹が引き離されるなんてことは許されないのだから。






「総ォ悟ーーー!!!」

酷く大きな音がして目が覚めた。怒鳴り声が頭に響く。きっとまた沖田くんが土方くんに向けてバズーカを打ったに違いない。どこかが惨状になっているはずだ、片付けをしなければ。嫌な寝心地のうたた寝だった、起こされて良かった。ああ、テレビを見ていたんだった。サボりがバレる前に早く片付けに向かわなくては。

「てめっ、燐子ーー!サボってんじゃねェぞーーー!」
「なんで沖田くんバラしちゃったのーーー!?」

仕事は賄賂のマヨネーズを準備してからにしよう。たった今そう決まった。

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