気分だけで動いてもだいたいろくなことにならないけどたまにいいことあるからやめられないよね


池田屋で身柄を拘束した例の3人組は結構すぐに釈放されたらしいと風の噂で聞いた。あれだけ何も出てこなかったのに、と不思議に思ったが無実なら仕方ない。土方くんの機嫌が悪くならないといいなあなんて思っていたのに、それより少し(土方くん個人にとって)厄介な気にかかる種ができてしまった。真選組局長、つまり近藤さんがここのところ姿を眩ませることが増えたのだ。最近どこか元気がないような様子だったのに、そんなことは忘れたとでも言うようにすごく元気になった。元気が出たのは良いことだけど、なんだか気になるような。鼻の怪我はぶつけたのだと笑っていたが。
数日後、近藤さんが親知らずを抜いた次の日かのように、顔を派手に腫らせて帰ってきた。ここ最近の様子は、近藤さんに好きな人ができたことが原因らしかった。何でもその人を賭けた決闘で、銀髪の侍に汚い手を使われて負けたのだとか。人を景品にするのは良くないと思うけど、それはとりあえず置いておいて。近藤さんは真選組の一番上に立つだけあって、その腕は確かだ。それが卑怯な手を使われたとはいえ負けるなんて、よほどの不利な状況だったか、その銀髪の侍が強かったかのどちらかだ。銀髪の侍。あの人が脳裏をよぎった。どちらにせよ、局長がそんな間抜けな負け方をしたと隊士たちに周知されてしまえば士気に関わると土方くんが箝口令を出した。
はずなのに。

「局長が女にフラれたうえ、女を掛けた決闘で汚い手使われ負けたってホントかァァ!!」
「女にフラれるのはいつものことだが、喧嘩で負けたって信じられねーよ!!」

次の日には屯所はその話で持ちきりだった。銀髪の侍のことまで知られている。あれ?他ならぬ土方くんによって口止めされていたはずなのに。原田くんたちが詰め寄っているが、土方くんは煙草をふかしてシラをきっていた。あの場にいたのは近藤さんと土方くん、たまたま居合わせた私だけ。しかしみんなが沖田くんを指差し、スピーカーでふれ回っていたのだと食い下がっている。

「俺は土方さんにききやした。」
「コイツにしゃべった俺がバカだった…。」
「なんだよ、結局アンタが火種じゃねェか!!」
「なんでよりにもよって沖田くんに…。」

頭を抱えた土方くんをみんなが詰りだす。ぎゃいぎゃいと騒ぐみんなに、元々短い堪忍袋の緒が切れた土方くんは机を蹴り倒し刀を抜いた。零れたお茶やら吸い殻が畳に落ちる。染みになっちゃう前に雑巾取ってこなきゃ。随分賑やかな会議を抜け出すため腰を上げると、たった今渦中の人間──近藤さんがやはりひどく腫れ上がった頬を隠しもせずに陽気な声で部屋に入ってきた。大きなガーゼでも覆いきれないほど腫れた頬が痛々しい。そのあまりな風貌に一気に場が静まり返る。

「ん?どーしたの?」

土方くんの溜め息が部屋に響いた。
漸く部屋を出る。

「悪化しちゃったねえ、冷やすもの持ってこようか?」
「おお悪いな、ありがとう!」

いつもの調子で声を張ってから、いてて、と頬を押さえる。痛そうだなあ。雑巾もだけど、氷嚢も急いで取ってこよう。あれでは擦れ違う隊士たちにぎょっと目を剥かれただろうに。沖田くんのふれ回った噂の信憑性が上がってしまうというもの。
というか、隠すだけ無駄だったのでは?
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