色褪せた少女

二度目の生を受けて幾年が経つ。
私の前の両親とは似ても似つかない新しい両親に、両親によく似た弟。何の因果か、私の見た目は何一つとして変わらなかった。両親によく似た弟の髪は優しい香色で、どちらとも似ていない私は山吹色だった。けれどそんな私を両親は大切に育ててくれた。愛されているのだと、わかってしまった。
私の前の両親の訃報を聞くことはなかったから、私の死で悲しませたことだろうと思う。じゃじゃ馬な私をそれでも叱り愛し育ててくれた両親。そんな両親を忘れてしまうようで、捨ててしまうようで、新しい両親を受け入れることに抵抗があった。
両親が増えたところで前の両親を忘れることにはなるまい。そう気付けたのは、父に連れられて参加したパーティで出会った少年のおかげだった。少年──鬼道有人くんとはその後も顔を合わせ友人となった。鬼道くんは幼い頃に両親を亡くし、鬼道財閥の総帥である今のお父さまに引き取られたらしい。

「…新しいお父さんって、すぐ受け入れられた?」
「…いや。だが、父さんたちは俺の幸せを願ってくれているだろう、と思ってな。それに、俺が忘れさえしなければ、父さんたちが父さんたちでなくなるなんてことはないんだ。今の父さんも忘れようとしなくてもいいと言ってくれたしな。」
「忘れなければ…そうか、そうだよね。自分が忘れなければ良いんだもんね。ごめんね、こんなことを聞いて。」

目が覚めたようだった。彼は不思議そうにしていたが、憑き物が落ちたような感覚だったのだ。ただ私が忘れさえしなければ良い。この友人は、私の恩人だった。

彼との仲が深まるうち、入れ込んだ話も聞かせてくれるようになった。彼には生き別れた妹がいて、お父さまに引き取ってもらえるよう打診中なのだとか。溌剌とした子なのだと、彼は嬉しそうに話していた。大好きな妹さんとまた遊べるといいね、と返すと、その時は神童も一緒にサッカーをしよう、と言ってくれた。いつもは大人びた鬼道くんの少年らしい笑顔が可愛くて、信頼してくれているこの子に何も話せない自分が少し疎ましく感じた。
心優しい少年はさらに言葉を続ける。何か悩んでいることがあるのなら、話してほしい。神童は、自分のことを何も話さないから。なんていじらしいことだろう。前世の一生をかけて好いた人を忘れられずにいる、だなんて話し出せなかった。けれど、紅玉のような優しい目に負けてしまって。

「…会いたい人が、いるの。」
「会いたい人?引っ越してしまったのか?」
「遠くに行っちゃって、もう会えるかわからないんだ。すっごく大好きなの、誰にも内緒ね。」

嘘はついていない、脚色もしていない。少し、言葉を変えただけ。それでも、隠してしまったことが後ろめたくて、彼から目を逸らしてしまった。心優しい少年は困ったように、一言。

「…また、会えるといいな。」

可哀想なことをした、と思った。返事に困って当然の話だ。てんで掴みどころのない話なのだ。ありがとう、と返せば、こんなことしか言えなくてすまない、と彼は返す。優しさは時として罪だ。そんなことより、と強引に話を変える。以降、お互いがそれに触れることはなかったが、鬼道くんは少し気にしているようだった。
心優しい青年に育ってくれたらいい、そう思った。
prev next
top