個性把握テスト

「個性把握…テストォ!?」

確かに今日は入学式だと聞いていたはずなのに。
退廃的な風貌で、脱皮するように寝袋からぬるりと現れた男──担任教師の相澤先生は挨拶もそこそこに、体操服に着替えてグラウンドに出ろと言い放った。この雄英高校は担任教師から保健教師に至るまで、すべてがプロヒーローで構成されている。つまり相澤先生もプロヒーローである。あまりヒーローに明るくない私には一切見当もつかないけれど、教室の雰囲気を見るに有名ではない、メディア露出の少ないヒーローなのだろう。
困惑を隠さないでいる様子でも、急いで体操服に着替えてグラウンドに出た私たちに告げられて、冒頭に戻る。高校生活に心躍らせていた麗日さんは、入学式を既にすっぽかしている相澤先生に食い下がった。

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は"自由"な校風が売り文句。」

そしてそれは"先生側"もまた然り。
振り返って、把握テストの詳細を話し始めた。ソフトボール投げ、立ち幅とび、50m走、持久走など──中学でもやっていた体力テストの8種目。当時は"個性"を禁止されていたけれど、それを先生は非合理的な文部科学省の怠慢だと評した。手前にいた能面ブスと言い放った彼──爆豪くんに変わったデザインのボールを手渡し、思いっ切り投げさせてみせた。

「死ねえ!!!」

個性的な掛け声とともに放たれたボールは爆風に乗って、遠く向こうまで飛ばされた。高い機械音を鳴らした端末をみんなに公開する。画面には705.2mと表示されていた。自身の身体能力と"個性"によって出されたその数字は確かに、自分の「最大限」の数値だ。それを知ることが、ヒーローの素地を形成する合理的手段だと先生は言った。桁違いの数字を見てか、テストの内容を理解してか、一気に場は沸き立つ。増強系の"個性"ではない私にとって、このテストとは相性が悪い。自分を移動させることはできても、ボールの飛距離を伸ばすことはできない。
誰かの発した、面白そうという言葉を聞いた先生の雰囲気が一変した。酷く暗い目にその真意は窺い知れない。

「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう。」

絶叫があがる。
入学式の日にとんでもないイベントだ。推薦入学とはいえ、みんなの"個性"がわからない以上は私にもその可能性があることは否めない。好戦的な表情を見せる者もいれば、不安そうな面持ちの者もいる。先生の顔に嘘は感じられないし、勢いだけの発言とも思えない。普通に考えれば、嘘のような話だ。けれど、周りを観察し続けてきた私の目に狂いがないのなら。
先生は本気で、私たちを除籍するつもりだ。

「生徒の如何は先生おれたちの"自由"。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ。」
「入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!!」

思わずといったふうに、麗日さんが声を上げる。隣の焦凍も、文句ありげにねめつけている。先生はそれを鼻で笑った。
自然災害、大事故、ヴィラン。これらにヒーローたちは必ず駆けつけ、迅速に解決しなければならない。しかし、いつどこから来るかもわからないものに常に対応するのは酷く難しい。"個性"が発現して以降、日本はより多くの理不尽にまみれてしまった。
それを覆していくのがヒーローだと先生は言う。

「放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。"Plus ultra更に向こうへ"さ。」
全力で乗り越えてこい。

ヒーローが理不尽を乗り越えるものなのだと言うのなら。自分の家族に理不尽を強いる万年No.2プロヒーローは何と言うのだろう。
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