我が愛しき

「くしゅんっ」
魔王に姫抱きされたサクヤはくしゃみ一つ。それを見た魔王タイラントは呆れたようにため息をついた。
自分のコートをかけたとはいえずぶ濡れになった彼女を温めるには足りない。早く着替えさせねば。
「お帰りなさいませ」
メイドたちが出迎える。魔王に抱えられた女王──サクヤを見るなり心配そうな顔を浮かべる。
「奥様!? 」
「雨に濡れただけだ」
「すぐにお湯を」
「薪を足してきます」
たった一言ですぐに察したメイドたちはすぐにやるべき事を察してその場から走り去っていった。魔王の部下たちは優秀と言われるのも納得する。カタカタと震えるサクヤを見るなり魔王は暖炉に向かって歩いていく。
本来悪魔に入浴は必要ないのだが、人間であるサクヤには必要なものであった。かつて人間であった魔王含めたここの悪魔たちはそれを分かっている。だからこそ迅速な対応をしてくれたのだろう。それまでの間、暖炉の前で凍えないようにせねば。

サクヤを暖炉の前に座らせ、少しでも冷やさないようにする。魔王は人間擬態から本来の悪魔の姿に戻っていた。
濡れた彼女は自分のコートを握り、ぎゅっと包まれていた。別に乾かせばいい。だが、その姿がなんとも愛おしく……欲が増す。
今すぐにでも押し倒してしまいたい気持ちを抑えていた。
「タイラントさんのいい匂いがします」
へへっと笑う彼女が悪い。すぐ煽る。しかも無自覚というのが尚更タチが悪い。だが、悪いのはサクヤだ。
「魔王様、湯が湧きました」
サクヤの肩に手を伸ばそうとした瞬間、メイドがそう伝えてきた。メイドはこちらを見るなり察したのか申し訳なさそうに頭を下げ、立ち去って行った。
「お風呂入ってきます」
サクヤはコート、乾かしておきますねと立ち上がろうとしたが細い腕を掴んで抱き寄せる。バランスを崩したせいかすっぽりと魔王の胸の中に収まった。
「あ、危ないです……! 」
「私も行こう」
「へ? 」
再び姫抱きし、悪どい笑みを浮かべればサクヤは察したのか「ひ、一人で入れます!! 」と暴れるが魔王に力で叶う訳もなく、運ばれていったのだった。

結局何故か二人で入ることになり、サクヤは動揺していた。先程も説明した通り悪魔は本来風呂に入る必要がない、……のだが。
「なんで嬉しそうなんですか」
サクヤを背後から抱きしめる形で湯船に浸かる。洗ってやろうと散々言われた。それも何とか阻止したがこれだけはどうしても勝てなかった。魔王は鼻で笑うばかりで、サクヤは呆れた。

(おしりに当たっているものがすごく気になっている早く離れたい)

魔王の魔王……男性器がどうしてもサクヤの尻に当たるのは姿勢のせいである。身じろぐがビクともしない。こういう時ばかり男の力を発揮しないで欲しい。
「あの、タイラントさん……」
「なんだ」
「当たって……」
「わざとに決まっているだろう」
どこか楽しそうにな声が背後から聞こえる。きっと振り向けば悪どい笑みを浮かべているに違いない。
「…あの、本当に逆上せそうなんですけど」
半分本当だ。半分はこの姿勢から逃れたいという理由だが。
すると体を密着させ、後ろから耳元で「私が運んでやろう」と低くいい声で囁く。その声にゾクゾクし、下腹部が疼く。
「ず、るいです……! んひゃ…! 」
ヒューラン特有の丸い耳に舌を這わせ、ぴちゃぴちゃとわざと音をたてる。また抱きしめていた手は解かれ、両胸の膨らみを優しく揉んでいた。
「貴様が煽るのが悪い」
「あおって……んっ」
煽ってなんかない、と否定しようとすれば胸の突起をつままれ、高い声が出る。先程まで耳を舐めていた口はサクヤのうなじ、そして肩にまで移動していた。
「タイ、ラントさん……っ」
「なんだ」
息子が先程より元気になっているのは気のせいではない。片手を胸から離して腹に回すと、逃げられないよう、ぐっと引き寄せられる。
「せめて……ベッドで……っ」
「ほう?随分と積極的だな、我が妃」
「本当にのぼせそうでっ……! 」
あぁ言えばこう言う、そんなイタチごっこの限界を迎えたサクヤは珍しく魔王に反抗するべく短い爪を魔王の腕に突き立てる。だがそれは子猫の猫パンチくらい弱いものだった。
「…くくっ」
あまりに可愛らしい抵抗に思わず笑いが出てくる。愛する妃の願いならばと片腕で抱き上げて風呂から出る。
「あ、歩けます……」
「この方が早いだろう」
脱衣場にやっと下ろせばサクヤはタオルを持って、「もう」と怒りながらも魔王の背中を拭いていく。
「サクヤ」
「……なんですか」
「貴様が優先だ」
私のことなど後回しでいいと、背中を拭くサクヤの腕を掴めばバスタオルを被せる。
「でも……」
「でもじゃない」
ため息一つ。世話焼きなのは知っているが、風邪をひかせまいと風呂に入れた意味が無い。そんな事をボヤきながら拭いていく。

白く大きな胸に視線が行きがちなのは男の性だ。

「……えっち」
視線に気付いたのか、そんな事を言った。
「どの口が言う」
鼻で笑う魔王にサクヤは顔を真っ赤にする。そして口をパクパクさせながら何か反論しようとしているようだが言葉が出ないのかそのうち口をつぐんでしまった。
「貴様こそ期待しているくせに」
「なっ……! 」
にやりと笑えば肩を平手で叩かれた。ぺちっと軽い音をたてて叩いたその力の無さと彼女なりの配慮した反撃が愛おしかった。
服は着ない、どうせこのままするのだから。

再び抱えてベッドに向かう。綺麗に張られたシーツの上に寝かせれば視線を泳がせてタオルで体を隠すサクヤの上に覆い被さる。
「無駄な抵抗を」
「だっ、だって……」
バスタオルを取り上げれば「あぁ…」と情けない声で取り返そうと手を伸ばしてきた。身長差から考えてもリーチが長いのは魔王の方だ。諦めたのか、拗ねたように口を尖らせてそっぽを向く。
「サクヤ」
魔王は名前を呼ぶ、すると不機嫌ながらもこちらを向いたその素直さに笑いが出てきた。そして尖らせた唇に顔を寄せて軽く口付ける。
腕の半分まで黒く染まった自分よりも小さな手を握れば、握り返してくる。
「んっ……」
啄むように何度も口付ければ、そのうち空いた左手で魔王の黒い悪魔の角に触れてくる。
「……好きだな、これが」
唇が離れると、魔王は苦笑し、自分の角に触れる腕に視線をやる。するとサクヤはにこりと笑って「あなたとお揃いですから」と言ったのだ。

あの日うたた寝から目覚めたサクヤは悲鳴を上げた。指の先から腕の半分近くまでまるで炭のように真っ黒に全体が染まっていた。
魔王は最初こそドン引きしていたが、その原因……とは言わずとも何故そうなったのか薄々感じていた。
だが、それを口にすることはないだろう。
それを知れば彼女がどう思うのか、どうするのかを知っているからだ。
そして、彼女が言い放った「こんな醜い腕の女よりももっと白くて綺麗な女の子の方がいいじゃないですか」と自虐的に笑ったのだ。
それを聞いた魔王はサクヤの黒い腕を取り、手の甲に口付けこう呟いた。

『私の角と同じ色だ』

余程その言葉が嬉しかったのか、こうして体を重ねる度に魔王の角に触れてきてはニコニコと笑っている。
元より手放すつもりは一切ない。彼女がどんな姿になろうと、その魂をずっと愛しているのだから。

期待をしていたのか、濡れている秘部は魔王の欲をすんなり受け入れた。
ほぼ毎日していても飽きることがない。むしろ足りないくらいだ。
400年──彼女の生まれ変わりを探すのにかかった時間だ。かつて人間だった頃、守れなかった彼女だけをずっと想い、探し続けてきた。
歪になれど、手に入れたいという願いは変わらなかった。
悪魔に堕とされた時の絶望はいつの間にか消え去り、それ以上にただ愛する彼女を今度こそ守ると誓ったのだから。
そして、自分だけを見つめて欲しい、愛して欲しいという強欲さも膨らんでいってしまったが。
彼女はずっと優しい。悪魔に堕ちようと、こんな形でしか愛せなくとも、優しく抱きしめて可愛らしく「大好き」と愛の言葉を囁いてくれる。

「あっ、あっ、んっ! 」
体を密着させ、中を貪るように突き上げる。毎日しているせいか感度は十分に上がり、生理的な涙をこぼしながら甘い声を出す。
そして魔王の大きな背中に腕を回しては短く切りそろえられた爪をたてる。
パンパンと激しくぶつかる肌の音がより興奮させる。強く締め付けられた中はもっとと強請っているようだ。
「たい、らんと、さぁん……! 」
名前を呼ばれ、目を合わせる。自分の汗が顎を伝いぽとりと彼女の肌に落ちる。快楽に眉間に皺を寄せ、目を細めながら見つめた。
「……おめめ、好き……」
へにゃりと笑う彼女は本当に煽ってくる。しかも無自覚だから尚更タチが悪い。ビクリと中で反応するのが自分でも分かる。また彼女もそれを感じたのか「んっ」と小さく喘いだ。
「好き……大好き……」
「あぁ、愛している」
愛を囁けば、恥ずかしそうに笑う。壊してしまいたいと思うのは男の性か、悪魔の本能からだろうか。
止めていた腰を動かし、先程より早く打ちつければ彼女は空を仰ぎ、大声で喘ぐ。
「んあっ、あっ、だめっ……あぁっ! 」
ぐちょぐちょと聞こえる音がなんともいやらしい。彼女の奥を突き続ければ、足がビクビクと痙攣してくる。
「いぐっ、あうっ、いっちゃう……! 」
「あぁ、イけ」
「イく、イグッ、ん゛ぁぁぁっ」
ぎゅっと中を締め付けられ、そのキツさに魔王も小さく声を漏らして欲を放つ。どくどくと注がれるそれにサクヤは小さくビクビクと痙攣する。
注ぎ終えても尚足りない。魔王はチラリとサクヤの方を見る。蕩けた顔で息を切らしているが、まだ意識はあるようだ。魔王の視線に気付いたのか、頬を赤らめながら「キス……して」とねだってくる。
最初は羞恥から抵抗するのだが、1回達してしまえば随分と素直になる。それを分かっている魔王は微笑むと「愛しき"姫君"の仰せのままに」と抱き寄せて口付けるのだった。

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