#24_K



こまめに連絡を取りながら。俺は軽く杏の周りを調べていた。

が、これが意外に出てこない。意外にもセキュリティの高いマンションで、なんか芸能人でも住んでる所かのようにプライバシーが守られている。

なっかなかどーしたもんかなぁと思っていたところでピロリン、とLINEの着信音。開いてみると、『居残り……エックスデー……』なーんて悲壮感伝わるLINEがひとつ。思わずぶは、と吹き出して。

「どしたの快斗?」
「あ、いや、なんでもねぇ」

俺の様子に首をかしげる青子に気にすんなって、と一言言って。昼飯をかっこんだ。


杏から気になるLINEも来たことだし、ちょいと潜入しつつ調べてみっか!


そんな軽い気持ちで江古田東に潜入した俺は、女の子のが怪しまれないかなと、女子高生に扮し、易々と校舎に入った。

放課後だからか、人はまばら。部活動の励む音はよく聞こえる。

どのクラスかもわかんねぇし、ついでに杏のことを軽く調べてぇし、と軽い気持ちでそこら辺の子に「杏って子知ってる?ちょっと落し物拾っちゃって」と声をかける。
と、妙な返事が返ってきた。

「…あー、あの子?あんまし近づかない方がいいよ?なんか、呪われてるとか?」

「近くに寄ると怪我するらしいよ?」


はっきり言って、ムカついた。
化粧の濃いその女共は、明らかに杏を見下して、楽しんでいて。

確かに杏はすげードジだけど、ばっかじゃねぇの!そんなんでくそみてぇな噂たってるなんて、ふざけてんじゃねぇか!!

「へー…高校生にもなって、そんな噂で楽しんでるわけだ。あんたらの程度もしれるね」
「はぁ!?…っ!」

言い返そうとして来た女を冷めた目で一瞥すると簡単に怯んだそいつは、友達を連れて「もう行こっ!親切に教えてあげたのにっ」と文句を言って去っていった。

ちょっと女子高生相手にムキになってしまったけど、仕方ねぇ。どー考えてもあいつらが悪ぃ。

こうなってくると放課後残っている女子高生はなんか碌なの居なそうなので、部活動中の人に話しかけて、杏のクラスを把握する。
普通に答えてくれたし、特に杏に悪感情ももってなさそうだったので、さっきのは一部のやつらなんだろう。


でも。悪意は簡単に人の心に届く。杏は、大丈夫なのか?





クラスで変装を解いて待っていると、目があった途端に扉を閉められた。

いやいやいや。
慌てて廊下に出ると、ぐるぐる混乱していた。

やっぱこいつおもしれぇ。

杏は、前と変わらずドジが多いけど。
くるくる変わる表情が、なんとも可愛くて、揶揄いたくなるんだよな。

「パンツ」
「うそ!?」

ほら、この反応。可愛いっつーかなんつーか。


どうやら、数学で居残りさせられて、プリントをやる羽目になったらしい杏。
仕方ねぇなぁ、と教えてやりつつ、ひーひー言いながら問題を解いてる杏に、つい、言葉をもらす。


「ガッコ、楽しいか?」

思わず聞いてしまった言葉に、杏はきょとんとした表情で、その後笑った。


「どしたの黒羽君、そんなこと聞くなんてお父さんみたい」

あははと笑う杏をみて、うっせーよ、と返し。

あんなこと言うような奴らが周りにいても、明るく笑っていられんだな。

全然素振りも見せねぇし。えらいっちゅーか、強ぇっちゅーか。仲良い友達もいるって言ってるたしな。
気にしてねぇなら、それでいいんだ。

なんか話に出る友達は色々と凄そうだし、きっと杏を守ってそうだ。


でも胸糞悪ぃし、これからは辺に調査せず、杏と仲良くなりつつ聞いてきゃいいな。

そう決意した、江古田東での出来事の後。




家で次の獲物について調べていた俺は、次に狙う現場がスイーツミュージアムだということを知って。

交流を深める為にも、今度の現場の下見ついでに、杏をデートにでも誘ってみっか。と、独りごち。

そんなわけで、スイーツミュージアムへのお誘いをLINEで送信。おなじみのお気に入りの鳩スタンプを一緒に付けて、と。

どんな反応してんのかねぇ、と。見えない姿に、想いを馳せる。





こういう時、今までだったら青子を誘っていた。

それが、杏を誘ったという事実に、俺は特になにも思っちゃいなかったけど。


もしかしたらもう既に、この時から。













思ったより早く駅に着いたので、そのまま校門前まで迎えに行くことにした。
杏、ドジだしな。出来る限り一緒にいた方が安心だ。

今回は潜入せず、ちゃんと校門前で待つ。


なんだかザワザワしてるな、と思ったら、えらいべっぴんがなんか引きずってこっちに向かって来ていた。

てか、引き摺られてるのって杏じゃね?


「ドジっ子一名、お届けにあがりましたー」

ああ、この子が。

ずい、と出された杏をしっかり受け止めつつ。噂の友達なのか、とすぐにわかった。
冗談を混じえつつ俺を見定める目が、光っていて。

こーいう友達がいるなら、あんな奴らにも負けねぇよな、と一安心したり。

俺にもしっかり釘を刺していった友達を見送りながら。
文句を言いながらも友達の事を楽しそうに話す杏に、安心して…って、俺、本当親父か?

なんか、杏って、守ってやりたくなるんだよなぁと自問自答しつつ。


「離れるな、っつー事だったろ?」


なんだか照れ臭いことを自分でもしている自覚はある。

でもほら、こいつ、すぐこけっから!

手繋いでる方が安心っつーか!


迷うように伸びてきた手を、しっかりと握って。


「よし、OK! 目指すはケーキだ!」
「あはははっ。了解であります隊長っ!」



赤い顔の杏を見て、なんだか自分の鼓動が妙に大きく聞こえる気がした、土曜の午後。








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