リボンのシンプルな可愛いやつだ。
ネックレス付けて来たのか、それって俺の為?
なーんて自惚れた事思いながら。
目的地に着いた途端、興奮しまくって目がケーキになってんじゃねえかって感じの杏に、な訳ねぇかな、と思い直した。
こいつ食うことしか今頭にねぇな、と思わず笑う。
「色気より食い気、だねー杏君」
俺の言葉に、う、となる姿は可愛かったけど。
「まずは色々見て周って、んでから決めよーぜ。ケーキは逃げねぇからよ」
笑いながら、はいはい進んだ進んだ、と手を引っ張って。
ただでさえドジなのに、んな風にキョロキョロしてたらどこぞでぶつかり転げるかわかんねぇ。こいつのドジは並じゃねぇから。
なんか自分が過保護度増してる気がして他ならねぇけど。っとに目が離せねえ奴なんだから仕方ねぇよな。
そんな風に思いながら、目に留まったチョコレートの店。なんかここのチョコアイス旨そう。
ここは杏の候補に入れてもらっとこ。
「あ、このチョコレートカフェは必須ね」
「へ。黒羽君チョコ好きなの?」
「おー。チョコアイスねチョコアイス」
「へーそうなんだ!」
嬉しそうな杏の声。
俺がチョコアイス好きってだけで、なんでそんなキラキラした目で応えるのかねぇ杏ちゃんってば。
なんか可愛くて困るんですけど。何が困るかわかんねぇけど。なんかもう、杏の頭ぐしゃぐしゃ、ってしたくなる感じ。
そんなことをぐるぐる考えてると、お目当ての場所に着いて。
ショートケーキがモチーフであろう、様々な貴金属・貴重品で作られた美術品の、イチゴの部分と思しき部分に悠々と佇んでいるのが、今回の獲物。
赤紫色のソイツはもちろんガラスケースに入っていた。
まあ、展示中だし、そのまま置いとくなんてしねぇよなー。
俺にとっちゃ、そんな守りは紙屑同然だけどな!
んー、見る限りだと、鍵付で、多分むやみに開けようとするとセンサー反応するタイプだよな。あとは…。
──っと、とりあえず一旦ひとりになって下調べと準備だな。と、そこでさっきまで凄い凄いとショートケーキモチーフのあの美術品を見ていた杏が、キョロキョロしていた俺が気になったのか、こちらの方へと向いていた。
うーん。こいつ、一人にすんのはすげー不安だ。
どっかの誰かとぶつかって、いちゃもん付けられて襲われでもしねぇよな。
「どしたの?」
「いや──トイレ、どこかなーって」
「へーこの綺麗な宝石を前にして、トイレ、ですか黒羽君ったら。ロマンの欠片もないですねー」
…人が心配してたらこのアマ。
さっきの仕返しとばかりのしてやったりな表情が可愛くて腹立つわー。
生理現象は仕方ねぇーの、と軽く頭を小突いて。
「ちょっと探してくっから、そこで宝石見ながら待ってて」
ぜってぇ動くなよっ!そんな思いも込めつつその場を離れ。
「ここら辺でいいかな」
さっとトイレで変装して元の場所に戻る。
あいつ、ちゃんと無事でいるかな、とバレない様に見てみると。
「──まじありえねぇ」
見た先にある光景に、思わず絶句した。
蹴躓いた杏をガラスケースから守る様に、白馬が支えていて。
その手が杏の肩に添えられて、まるでナイトみてぇじゃねぇーか。
──何、白馬なんかに助けられてんの?
今すぐあの野郎から杏を引き取りに行きたくなったが、変装してるし、調査がまだだ。
ムカムカする気持ちを何とか抑え込みながら、何かと目に付く2人を横目に、ビックジュエルを調査していくが、気持ちは上滑りするばかり。
あーくそ。明日朝イチもっかい調べに来るしかねぇな。とあちらを見遣ると。
──あの野郎!
見えたのは、白馬が杏の手の甲に口付ける場面で。
あのキザ野郎のその挨拶は散々見てきたが、杏にされると、無性にムカついた。
その理由には、気づきもしねぇままで。
情けなくも、暫く平常心に戻れずに。
元に戻って杏と合流した俺は、イライラとしたまま杏にあいつが触れた方の手を、強く握っていた。
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