#3

どうも。杏です。

ただいまお家で絶賛悩み中です。
理由はただ一つ。

『よう杏。ずっこけてパンツサービスとかしてないだろーな?これ、俺のLINEだから既読無視とかすんなよー?貴女の黒羽快斗より』


そんなLINEがクルッポーと動く鳩のスタンプと共に入っていたのが、どうやら、今日の朝だったみたいで。普段あまり携帯みないから、お昼まで気付かなかったわけで。

これはLINEを返すべきなのか、否か。
あれ、こういうLINEって普通はどうするの?スタンプだけ返すものなの?



お昼休みの時間に携帯のロックを解除した際。あ、LINE入ってると何気なく開いた先に黒羽快斗と書かれた新しい友達のトークが入っていて。


思わず机を挟んでパンを頬張っていた馨ちゃんの目の前で、叫んだ。


クラス中が私たちに注目したが、お構いなしに私は「うぎゃー!うそー!!馨ちゃーん!!?」と叫び続けて、携帯を持って震えている。

馨ちゃんは、耳をふさぎながら、パンを咀嚼し続けて。ごくり、飲み込んだ。

「杏、ちったぁ黙って飯食えっての」

煩い。と、ばしーんと頭をはたかれて、やっと我にかえる。


馨ちゃんはお父さんがプロボクサーだからか、小さい頃から鍛えられていて。そこらへんに居る大男くらいだったら軽々やっつけられるくらい強い。
そんな馨ちゃんのはたく、は結構痛いのだ。でも、今はそれどころではない。

「いや、だって、馨ちゃん! こ、これ!!」


ずずいと携帯を突き出して馨ちゃんにLINEを見せる。
携帯を持ち、へー、としげしげと見つめる馨ちゃんに、「どどどどうしようか!ねぇ、どうしよう!」とわたわたしている私。

「よかったじゃん。脈あんじゃね? コレ」
「え、ええ!?」


いやだって、私たち昨日出会ったばっかりでですね!


あたふたする私を尻目に、馨ちゃんは携帯に早くも興味を失ったのか、パンを再び頬張り始める。

「え、ど、どうしたらいい馨ちゃん!?」
「知るか。返事返せば?」
「え、ど、どうやって!?」
「知るか。自分で考えろ」

しゅーりょーとばかりに携帯を私に投げ返す。

落として壊れでもしたら大変だ!(私のドジっぷりは並ではないのだ)と慌てて携帯をキャッチする。
その時、お弁当から私の玉子焼きちゃんが馨ちゃんに奪われたが、携帯が無事で良かった。

お前が無事でなによりだ、と携帯に唇を寄せていると、馨ちゃんがドン引いていたが、気にしない。


でも、どうしよう……!

お昼も終わり、午後の授業も終わり、LHRも終わっても、解決策が浮かばない。

馨ちゃんに駆け寄って助けを求めたら、「今日彼氏とデートだからダメ」と一蹴された。


女の友情って……!




──そんなわけで、家に帰って絶賛悩み続行中だったのだ。

ベッドで寝転がりながら、LINEを開いてトークを見つめる。


「てか、貴女の黒羽快斗って……」


どういうつもりか。からかっているのだろうけど、冗談なんだとはわかってるけど。まんまとドキドキしてしまったのですけども!


『こちらこそよろしく。貴方の#name2杏より』とでも書けってか!うわー!!

いや、無理無理!

だめだー!なんて返事したらいいのかわかんない!早く返さないと本当既読無視になっちゃうのにー!



ごろごろごろごろとベッドを右往左往。考えるのは黒羽君の事ばかり。

昨日初めて会ったばかりなのに、こんなに意識してるのは、絶対おかしいのだろうけど。

彼の蒼い瞳が真っ直ぐで綺麗で。マジックが楽しくて。からかわれてドキドキして。でもすごく優しくて。

どうしよう。LINE一つでこんな事では、次会ったら心臓が壊れてしまうかもしれない。



その時。LINEが着信を告げた。

誰、と表示を見ると、黒羽快斗、の文字。


「うそっ!うわ!電話じゃん!ってうわわ!」


着信表示を見て動揺した私は、ごろごろ転がっていた勢いもあいまって、見事ベッドから落ちた。

どしーんと音を立てて落ちたから、お尻を打ってちょっと痛い。
いたたた、とお尻を擦りながら携帯を見ると……通話中ぅ!

「うわわわわ!も、もししも!」

噛んだぁ!と凹んでいると、携帯から笑い声が聞こえる。

「もししもってオイ。てか、すっげー音聞こえたけど大丈夫か?」

黒羽君の声だ。すごい。本当に黒羽君なんだ。少し感動しながらも、「大丈夫だよ」と答える。

「ちょっとベッドから落ちちゃって」
「ほんと、杏はドジだなー。怪我してねぇか?」
「お尻ちょっと打っただけだから大丈夫」

慣れてるし、と続けると、少し呆れた声。


「痛いのは慣れちゃいけねーんだぞー。杏が今日を無事過ごせたのかが心配で今日一日気になってたけど、マジでそそっかしいよなー。LINEも既読無視するし」


気、気になってたって!


どうしよう違う意味だとはわかるけどなんか嬉しい。顔がにやけるのがわかって、思わず頬を押さえる。
電話越しだから、気づかれないとは思うけど。

「ご、ごめん!返そうと思ってたんだけど、なんて返して良いかわかんなくて!」
「別になんでも良いって。あ、今日のパンツの色とか?」
「い、言わないよ!」
「ちぇー」

ちぇってなんだよ。もう、なんか可愛いじゃないか!言わないけど!


「じゃ、せめて俺の居ないところでパンツ見せんじゃねーぞ?」

「見せないってばもう!」

「へへっ。じゃな、杏。またかけっから」




ツー ツー ツー




通信が切れる音を聞きながら、ばふんっ、とベッドに横たわった。


「もう、本当、心臓止まるっ!」



私がどれだけドキドキしているかなんて、きっと黒羽君は知るわけもないのだ。








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