#45

自分でもびっくりするくらい動揺してしまった。


私は、自分が思っているよりも。
快斗君に異質な自分を知られたくなかったみたいだ。

快斗君が自分から離れていって欲しくなくて、都合の悪いところは隠して。

結局ドジで迷惑かけてるっていうのにね。



哀ちゃんに、格好つけて、「相手が言いたくないなら聞かない」みたいなことを言ったけど。


多分、本当は怖いんだ。


何も知りたくなくて。今の幸せに浸かっていたくて。
逃げてるだけ。


なんて、弱虫。













「…しけた面して」

「え?」

「ここ、跡つくわよ」

ずし、と人差し指で眉間を突かれ、生理的な涙が滲む。馨ちゃんは自分の馬鹿力の加減をもう少し考えた方がいいと思う。

「…寄ってた?」
「めちゃめちゃ」

なんてこった。
気をつけないと、心配かけちゃうのに。
ほら、現にこの目の前の大事な友達が、敏感に反応しちゃってる。

ほんと、私の周りの大事な人は、心配性が多い。


「そりゃ、寄りもするよ!モリチョーの期末の範囲聞いたでしょ?あんな広範囲、どこから手をつけていいかもわかんない…!」

大袈裟に頭を抱えると、馨ちゃんは、ああ、そっちね。と呆れたように笑った。

良かった。その笑顔を見て、小さくほっと息をつく。


「今度あんたん家にテストのヤマかけ教えて貰いに行くわ。クロバしょっちゅー来るんでしょ?」
「そうだ!私には頭まで良いすごい彼氏が居たんだった!」
「どうどうとノロケんな」
「えへへ」


ついでにご飯も食べてってね、と馨ちゃんをお誘いして。
快斗君にも助けてコールをLINEしておこう。

『大先生お助け下さい!』

よし。あとは土下座スタンプでも送っとこう。






この前は快斗君にも余計な心配をさせてしまった。
自分の弱さが情けなくなる。

この体質のことで、もうそんなに動揺することもないと思ってたのに。
好きな人に対してはこのザマらしい。恥ずかしい。

どんな私でも側に居たいと、気障な台詞で言ってくれた快斗君は、どこか必死な様子だった。

あまりに気障な台詞だったので、思わず笑ってしまったけど。

酔っ払ってる時にホテルが云々言ってたし、何かと快斗君はロマンチストだ。

にしても、あの時そんなにひどい面してしまったのだろうか。


まるでお父さんがたまにするような、あんな必死な表情で、気障な台詞を言うなんて。


お父さんは、快斗君にどこまで話したんだろう。

私も知らないことまで、快斗君は知っているのかな?


変わらず接してくれているから気付かなかった。
そうだとしたら、どんな私でもって、覚悟を要する台詞なんじゃないかな。
快斗君はどこまで私を喜ばせれば気がすむんだろう。


私がお姫様かどうかは置いておいて。

快斗君は私にとって、いつでも王子様だ。


幸せな魔法をいつもかけてくれているから、魔法使いでもあるかも。


なーんて、快斗君の影響か、ロマンチストな思考に頭がボケたところで、次の授業のチャイムが鳴った。














ヘルプLINEについて、うちでご飯を食べながら快斗君に説明をした。
快斗君はご飯をかきこみながら、ふーん、とやる気なさそうに返事をしつつ。

おかわり、と茶碗を差し出してくる。

ちょ、こっちの必死さちゃんと伝わってますかー?


「で、数学と、英語と、生物が杏のヤバいやつ?」
「そうです!助けて黒羽大先生!」
「馨さんは?」
「数学と現代文。…なんでさん付け?」
「いや…なんとなく…あの拳かな」

どういうことだ。まあ、深くは聞いたらいけない気がするので、スルーしておこう。

「わーった。ほんなら、馨さん来てもらうの明後日でいいか?赤点でクリスマスデート出来ねぇとか嫌だし、杏は暫くスパルタすっからな」

「クリスマス!デート!」

「え、何で驚くの。しねぇの?」

「し、したい!」

「うん。よろしい。俺の親父の仕事仲間だった人がさ、22〜25までオウハマベイホテルでディナー付きのマジックショーやるみてぇで。ペア招待券もらったから、行かねぇ?」

ぴ、と2枚のチケットを指で挟んで、こちらに向かって笑う快斗君。

そこには、よくテレビにも出てる指先の魔術師として有名な、バイ・グレイの名前が。
それ、チケット入手困難でネットで凄い高値で回ってるやつじゃないのか。


「ええ!?こんな、え!?」
「ま、俺の親父のがすげぇけど。この人のマジックも中々すげぇからな。一緒に楽しもうぜ」
「うわー…すごい楽しみだけど、こんな、いいの?」


ネットでえらいことになっていた金額を知ってる私は、恐る恐るたずねる。だって桁が違った。海外旅行いける。

転売、ダメ、ゼッタイ。


「招待券だから、気にすんなって」

笑いながら、頭をぽんとされる。

「テストも目標あった方が頑張れるだろーし、全科目平均点超えたら、昼は杏の行きてぇとこ連れてってやるよ。どこ行きたい?」
「え、いいの!?」
「だから頑張って勉強しろよー」
「うん!頑張る!!えっとね、水族館行きたいっ!」

「──水、族、館?」

マンボウと、シロイルカとジンベイザメが見たい!

オウハマの水族館、一体型のパークみたいになってて凄そうで気になってたんだー。
馨ちゃんはそういうのは男と行けって一緒に行ってくれなかったし!


ウキウキと水族館に思いを馳せる私は、この時快斗君がどんな表情をしているか、全く気付いちゃいなかった。




「──うし、わかった。水族館な…!」

なんだか妙に力のこもった声で言われた。
水族館、快斗君も嬉しいのかな?



「ちなみに、マジックショー行くのは23日日曜だかんな。振替休日で24も連休だし。その日はそういうつもりで来てな」


にっこり。


いい笑顔でそんな風に言われ。快斗君は食器を片しにキッチンへと向かっていった。


残された私はといいますと。


そういうつもりって…そういうこと!?

え、そういう事だよね!?




期待と緊張で、既に心臓がはち切れそうになっていた。







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