わー!すごい!デカい!楽しそう!
マジックショーを見る予定のホテルに荷物を預け。
やってきましたオウハマシーワールド!
大きな階層建ての水族館に、様々な海のアトラクション達。
ふれあいランドや、ペンギン島など、特化した屋外施設もあるっぽい。
1つの島のような水上のテーマパークに、心が弾む。
まずはやっぱりマンボウだよね!と快斗君に向き直ったところで、にっこりと笑顔を返された。
──ん?
なんだかその笑顔、わざとらしい。
そして、繋いでいる手が、この寒いのになぜか少し湿ってきている。
これは…汗?
「…どうか、した?」
「──ん?いや、なんも?早く行こうぜ」
ぐい、と引っ張られて、入場ゲートへと進んで行く。
──やっぱり、なんだか様子が変だ。
スイーツミュージアムの時にちょっと違和感を感じた時は、それどころじゃなくて聞けなかったけど。
どうしたんだろ。なにかあった?
「わー!すごい!」
入り口入ってすぐの様々な大水槽に、様々な海洋生物がお目見えした。あ、上の方!マンボウいたー!マンタも!
思わず前で見たくて、先を急ぐ。
すると、引っ張ってしまった繋いでいた手が、次はとても冷たくなっていることに気付いた。
さっきから、明らかにおかしな手の温度。
──もしかして、体調が悪い?
「快斗君、大丈夫?」
「──何が?大丈夫に決まってんだろ〜?」
ハハハと軽快に笑う快斗君だけど、目が全然笑ってない。
こんな快斗君、初めて見た。
「え、いや、本当。無理してない??」
「大丈夫大丈夫〜。前で見てぇんだろ?行こうぜ」
そう、私を引っ張り前へと進んでいく。
大水槽がほん目の前まで来たところで、ちょうど私たちの所に鰯の大群が寄って来た。
わー、凄い!
思わず興奮してそちらに意識を向けていると、快斗君が急に私の肩に額を押し付けて来た。
体重が肩にかかる。
熱い吐息を鎖骨に感じて、どきりとする。
え!どしたの快斗君!ここ!人前!!急激に頬に熱が集まっていく。だめだよ、そんなこんな場所でなんて…!
「あ、あの、だ…」
「──もうダメ。…お魚さん、コワイ」
…なんですと?
「──落ち着いた?」
なんだか小刻みに震えてんじゃないかという快斗君を支えながら建物を出て。
外にあったベンチに座ってもらって。
まずは何だか冷たくなっている身体を少しでも温めなければと、コンポタを自販機で買って、快斗君に手渡した。
「わりぃ、ありがとな。──あーっ!くっそ、かっこ悪りぃ…」
コンポタを持ってそのまま項垂れた。
イケメンは項垂れても様になるなぁ。たとえ、お魚さんを怖がって震えた後だとしても。
にしても。
快斗君が魚が苦手だったとは。
どうやら、あのギョロリとした目がダメらしい。
あの目を見ると全身に怖気が立つとかなんとか。
そういえばカレイの姿煮とかは作ってなかったな。
作っとけば先に気付けて良かったかもしれない。形さえ分からなければ魚料理も食べられるとのことらしく、全然気づかなかった。
ああでも。
快斗君には大変申し訳ないんだけど!
さっきの快斗君可愛かったなぁ。
「私が水族館行きたいって言った時に、言ってくれれば良かったのに」
「言えるかよ、かっこわりぃ」
快斗君って、結構ええ格好しぃだもんなぁ。
こういう姿も、付き合ってるからこそ観れる姿だったりするんだろうか。
…ふふっ。
ああダメだ、楽しくなってきた。
「──杏、なんで笑ってんの」
あ、バレた。
私の様子にちょっと怒ったのか、声のトーンが低い。
「いやだって…快斗君って私にとってスーパーマンだったからさ。快斗君にも苦手なものあるんだなってわかって、嬉しくて」
しかもお魚さんコワイとか、可愛いすぎるし。
「…嬉しいって何。かっこわるくね?」
「嬉しいよ。好きな人のそういう姿も、女子は見たいもんなんですー」
ああだめだ。ニコニコを抑えられない。そんな私に、快斗君は横へ座れと促して来た。はーい、とちょこんと隣へ座る。
すると、ぎゅ、と軽く頬をつねられた。酷い。
「いきなりあんま可愛いこと言うな。ここで襲って欲しいわけ?」
そんな風に言う快斗君は何かが恥ずかしかったのか、頬が少し赤くなっていた。
…今日の快斗君は可愛すぎていけない。悶え死ぬ。
頬つねってくれてて良かった。きっとヤバイ顔になってるよ。
「でも、せっかく来たのに…結局なんも見れねぇのはまじごめん」
「全然っ。あ!快斗君お魚さんじゃ無ければ大丈夫?アシカとか哺乳類とか」
「ん?ああ」
「ここ、シャチのショーが外でやってるみたい!白イルカも観れるよ!なんか面白そうな乗り物もあるし!うん、水族館の周りの施設で遊ぼう!十分楽しめそう!!」
早く早くっ!
そう手を差し出す私の手を、快斗君は笑って繋いでくれた。
いつも差し出されるばかりだったので、なんだか嬉しい。
きっとこの日は、忘れられない日になる。
そんな予感がした。
さすがにでかいテーマパークだけあって、外の施設だけでも十分楽しめたオウハマシーワールドを後にして。
戻ってきましたオウハマベイホテル。
いっぱい動いたので、現金な私は何気にお腹がすいてきた。
マジックショーも楽しみだけど、ディナーも楽しみだな。
快斗君がチェックインをしている横で、キョロキョロとロビーを眺めていたところ。
ふと、小さな人影が目に入った。
「あれ?」
あの、赤毛の超絶美少女は。あ、今日はワインレッドのボレロ付きワンピース着てる。かわいー!
思わずそちらへと足を進める。
「哀ちゃん、久しぶりっ!」
「あら。どうしたのこんなところで──って。…ああ、そういうこと、ね」
どういうこと?わからないが哀ちゃんは何か1人で納得している。
隣に居る眼鏡の男の子は彼氏だろうか、その子も不思議そうに哀ちゃんを見ていた。
「──ちょっと、怪盗さんに同情しちゃうわね」
「杏っ、一人でうろつくなーーって、哀ちゃん、と坊主!?」
快斗君の声と哀ちゃんの声が重なって、独り言みたいな哀ちゃんの言葉は聞き取れなかった。
ん?ていうか、知り合いなの?
「オメーはっ!なんでこんなとこに!」
「いやほんとそれこっちの台詞なんですけど。え、まじ、哀ちゃんどしたの?」
食ってかかりそうな勢いの男の子を軽くスルーしながら、快斗君は哀ちゃんに尋ねた。
哀ちゃんは私と、快斗君と、男の子をひと回し見た後「──本当、やることが、せこいわ」と、何だか何かに呆れたご様子で呟いたあと、続けて口を開いた。
「…今日ここでやるマジックショー、招待券を博士が頂いたのよ」
「え!そうなの!?私たちもそのマジックショー見るんだよー!」
すごい!偶然!
驚いていると、快斗君が苦虫を噛んだような顔をしていた。
どうした。
その時、後ろからがやがやとした声が聞こえた。
「なー博士!腹減った!マジックショーって旨い飯も出るんだよな??」
「元太君ったら!食べ物の話ばっかり!あのバイ・グレイさんだよー!テレビでみたことあるでしょ!」
「そうですよ!マジックショーなんて、僕初めてだから楽しみです!」
「ふぉっふぉ。元太君、ちゃんとディナーも出るから安心してくれのぉ」
あ、阿笠さんだ。なにやら子供を3人引き連れて、こちらにやってきた。
「この子達も一緒にそっち付いて行っちゃったけど、無事チェックイン出来た?」
「もちろんじゃよ」
「哀ちゃん聞いて!ホテルマンの人が丁寧で、お姫様みたいに扱われちゃった!」
嬉しそうな女の子が、可愛らしく哀ちゃんに興奮を伝えている。
哀ちゃんも優しく女の子に「そう、良かったわね」とか返していた。なんか和む光景。
どうやら、この6人でマジックショーを見にきたらしい。大所帯だ。
そちらをぼんやり眺めていたら、快斗君は眼鏡の子と、なにやらボソボソ話をしていた。眼鏡の子が何か「いつも俺のせいじゃねぇーよ!」とか怒っている。
何だ。仲良しか。
快斗君の交友関係広いな。
「まじ、本気で頼むぜ、コナン君よ。ーー杏、とりあえず一旦部屋行こうぜ」
「あ、うん。じゃ、哀ちゃん、また後でね!」
ひらひらと手を振る哀ちゃんに笑顔で手を振り、快斗君に連れられて部屋に向かった。
窓からは、少し薄暗くなってきた空と、先程居たオウハマシーワールドが一望できた。
コートを脱いで、窓へと進む。
「わー!!すっごい!」
「夜景はもっと綺麗だろーな」
あー、つっかれた。とぼすり、とベッドに腰掛けて快斗君は言った。
意識してしまった私はそちらの方へと目は向けれず。とにかく窓の外を眺めている。
「杏も座れば?」
「あー、いやー」
ちょっと、心の準備が…。
だってこの部屋、わかっちゃいたけど、セミダブルベッドが1つしかないんだもん。
そんなの、もちろん、緊張しちゃいますよね。
「ばっか、今からマジックショーだろ?まだ何もしねぇーよ」
「わ、わかってるよっ」
うわ、まだって言った!
まだってことは、後ほど!?
「ほら。いいから、おいで」
窓際に隅に逃げて居た私はぐい、と引っ張られて。
結局快斗君の足の間に腰掛ける事に。
あれれ、これは素直に横に座った方が良かったパターン!?
「この服、可愛い。下の方ひらひらしてんのな」
「──あ、ありがとうございます…」
言いながら、快斗君の手はワンピースの裾の方に伸びている。
膝に手を置かれて、さわさわとタイツ越しに膝を撫でられた。こしょばい。
肩には快斗君の顎が乗っている。この体勢好きなのかな、快斗君。私は毎度緊張しますが。
いつか慣れるかな。
この、吐息を首筋で感じる感覚が、どうももぞもぞとしてしまうのだ。
一通り撫でて満足したのか、快斗君が肩から顎を外した。
「せっかくディナーだし、アップにしとくか?」
「へ?」
「ちょっと櫛貸してみ?」
「え?」
「──うし、こんなもんか」
なんだか満足そうな台詞とともに、手鏡を渡される。
備え付けのブローのドライヤーと、櫛と、持ってきてたヘアアクセサリーと、アメピン。
それだけで快斗君はささっとサイドアップのヘアアレンジを施した。
後ろを確認すると、くるリンパみたいに捻られてヘアアクセで纏められている。少し崩してあるので、かっちりとした印象ではない、ゆる可愛いようなまとめ髪だ。
サイドに残した髪もご丁寧にブローとワックスで動きをつけてくれた。
そして、そのままノリに乗った快斗君にメイクも直された。
渡された手鏡で、確認する。
ナチュラルに見えて、目元はぱっちり、頬は柔らかなピンク色。私より遥かにメイクするの上手いって。どゆこと。
自分で言うのもなんだが、凄く可愛いくなってる…いやほんと、違うの、ナルシスト的な意味じゃなくて──快斗君が凄すぎる。
え、ほんと、何者、この人。
どんだけ引き出しあるの。
「あとは、仕上げの──っと、その前に」
パチン、と指を鳴らしたと思えば。
しゃらり、と首元にわずかな重みと、少しひやりとした感触を感じた。
「少し早ぇけど、クリスマスプレゼントっつーか、まあ、付き合って始めての外デート記念っつーか」
ちょっと照れながら、そんな風に言って。
ドキドキと首元を確認すると、キラキラとストーンが輝く小ぶりなハートが、4つ連なったシルバーネックレス。
うわ。可愛い!
「杏がドジって転んでもそうそう切れない特殊加工を施したネックレスだかんな。安心して使ってくれ。クロバ印の特別製!世界にたった1つのオリジナルよー?」
「え、て、手作りってこと?」
この、売物のようなクオリティで?このシルバーアクセが?この人引き出し以下略。
「そ。んで、こいつをちょいっと合わせると……だな」
そう、快斗くんがハートの部分を軽く合わせた途端。
──ハートの4連ネックレスが、クローバーの形に変貌した。
「──っ、え!!?」
「──ハートと、クローバーのワンポイントのツーウェイってやつ。一つのネックレスが変わるって、マジックっぽくていっかなーって。ど?気に入った?」
「っ、す、凄く!!え、本当凄すぎて言葉が出ない」
やばい、なにこれ。ここまで、凝ったすっごいの……考えて、作って、くれたんだよね…っ、もう、何から何まですごすぎだよ……感動して泣きそう…!
そう呟いて下を向いた私に、「せっかくメイク直したんだから、頑張って我慢して」
そう、嬉しそうに快斗君は笑った。
お父さんに、初デートの記念に貰ったのというネックレスを娘にまで惚気てたお母さん。
正直、そんな二人をずっと憧れていた。
ねえ、お母さん。お母さんもこんな気持ちだった?
泣きたいくらい嬉しくて、思わず笑い出したいくらい愛おしい。
宝物だ。例えばキッドさんが盗む、どんな大きな宝石よりも。
私にはこのネックレスが1番の宝物だよ。
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