「ドジっ子一名、お届けに上がりましたー」
ずるずると馨ちゃんに引き摺られたまま黒羽君の待つ正門まで来た所で、馨ちゃんはずい、と黒羽君に私を差し出した。
まるでピザの配達人のような言いようと、襟首を掴まれて爪先立ちになって差し出されている形に、まずは突っ込みを入れたい。
「私はピザかー!てか馨ちゃん、首、しまってるしまってる!」
最初、目を点にしていた(当たり前か。黒羽君と馨ちゃんは初対面だ)黒羽君だったが、すぐにぶは、と吹き出して。
ああ、あんたが。とか呟いていた。
私がしょっちゅう話題に出す馨ちゃんと、実物が一致したのだろう。
前にいかに馨ちゃんが私をいじって楽しんでいるかをこんこんと愚痴った時もあったような気がするし。
確かその時も黒羽君は笑っていた。他人事だと思って!と憤った覚えがある。
笑いを隠そうともせずに、黒羽君は私を受け取って馨ちゃんに声をかける。
「サンキュ。お代は?」
「って、黒羽君ものっかるのー!?」
「数学のテスト対策でいいわ。杏と二人分よろしく」
「オッケオッケ」
「話が早いね。まいどありー」
「馨ちゃんてばもしかして最初からそれ目当て!?」
私の言葉、というより突っ込みか。を無視するかのように、二人は会話を続けている。
ちょっと酷くない?軽く悲しくなっていると、馨ちゃんがにたにた笑っていた。
そんな時の馨ちゃんは碌なもんじゃないと、私は知っている。
「あんたがクロバか。ふーん。顔はまぁまぁ及第点だね」
「ちょっ!? 馨ちゃーん!?」
良くまあ初対面でそんな事言えるな!曲がりなりにも、親友の気になってる男の子に対して!あわあわと首を動かしながら二人の表情を伺う。
「ははっ。お褒めに預かり光栄なこって。話に聞くより良い男だろ?」
「自分で言うやつに碌なもんはいないけどね。私みたいに」
「あはははは!!」
馨ちゃんだよ!!な馨節に、一人あせる私を他所に、黒羽君は楽しそうに返していてほっと息を就く。
「あ、あと。杏の事、離さないでね」
だからさっきから何を言っちゃってるの馨ちゃんっ!?
さらりといきなり爆弾発言した馨ちゃんに思わず動揺するが、差し出された時に支えられたままだった肩に感じる手の感覚に、下手に意識しているのがバレるのも恥ずかしくて、心の中で突っ込みを入れるに留めた。
続いた言葉に、慌てて突っ込みを入れなくてよかったと、心から思った。
「目を、ね。この子、危なっかしいから。──軽く見てると、痛い目みるよ?」
言うだけ言って、ひらひらと手を振って帰って行く様に、最後、ちょっと意味深に言ったのは絶対私をからかって面白がってるんだと思った。
やっぱり、絶対楽しんでた。うん。
「ごめんね、馨ちゃんが」
「いんや?話に聞いてた通り、おもしれぇ女だったし」
「黙ってれば美人でスタイル良くていい女なんだよ」
「はは、それ本人の前で言ったら怒りそうだな」
「見た目が良いのはわかってるから、正直に生きる事にしてるんだって」
「うははっ! さ、さすが杏の友達、一筋縄じゃねー感じだよな」
「何か褒められてない気がする……」
「いい友達もってんな、って事だ。──釘も、さされたし、な」
「え?」
「いんや、なんでも。じゃ、行くか」
顔を覗き込まれ、うん!と勢いよく返事をする。
そのまますっ、と出された手に、目を瞬かせた。
「離れるな、っちゅー事だったろ?」
少し照れているように見えるのは、私の願望かもしれないけれど。
差し出された手は、つまりは。
おずおずと手を伸ばすと、ぐいと引っ張られて。
「よし、OK! 目指すはケーキだ!」
「あはははっ。了解であります隊長っ!」
どきどきする鼓動が、収まらない。
手のひらの熱さが、どちらのものかもわからない。
それでも、嬉しさの方が大きくて。
あんな事言った馨ちゃんに、これは感謝だな。
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