…多分、先輩も、達したのだと思うのだけれど。
いつもだったら顔やら頭やらを撫で回されて、「希夜、えろい、可愛い」とかなんやら甘い言葉が降りそそいで、ぴろーな感じになるんだけど。
先輩は、私の股に先輩のイチモツを突っ込んだまま、どこかぼんやりとしてる。
眉間に若干のシワ付きで。
…いつもより、どこか張り詰めた顔で。先輩らしくない荒々しい行為。
いや、まあ。なんか乱暴な感じで、これはこれで私はまんまと興奮してしまったんですが。
でもなんかやっぱ様子がおかしい気がする。
快楽に溺れてぼんやりしてたときには、そこまで考えられなかったけど。
…これは、あれ?
もしかして。
与作呼び、怒ってらっしゃる?
「──すいません。いくらなんでも先輩に与作はな…っぁん!」
「こんな時にほかの野郎の名前なんて聞きたくね…ん?」
私が話を切り出した途端、止まっていたはずの指がぎゅっ、と強く乳首を抓って。身体がひときわ大きく跳ねる。
ああ、エビっ…。
すると、そのまま乱暴に再び攻め立ててくるのかと思ったエロい指が、力を無くしたように私の乳房の上にぽすりと落ちた。
そのまま先輩が、声のトーンがいつもの感じに戻ったように、言葉を切り出して。
どこかこちらを伺うような蒼い瞳が、私を映す。
「──希夜、与作っちゅーのは、あれか?」
「すいません。木こりはなんか違いましたよね。漁師…狩人?」
「いや待て。意味はつかめねぇけどよ…へいへいほーのあれがなんでか、俺を指してたっちゅーわけ?…与作って呼んだのは、そゆこと?」
「はい。本当すいません。私というエビの上に跨る先輩は、なんだろなーって。つい考えてたら口に出てたみたいで」
がっくり。とそんな効果音がつきそうな感じで先輩の首がかくりと落ちた。
「──そうだよな。希夜はそういうわけわかんねぇ思考飛ばす奴だって、ちいっと考えればわかんのに。つうか、こいつはこういう奴だって、わかってるつもりだったのに」
何かひとりで納得したっぽい先輩の目元が、なんだか少し紅く染まってる。
「あーくそ、余裕ねぇの」
そんな言葉と共に、ぼすり、と私の胸元に先輩の頭がうずまった。
あごの辺りに柔らかな黒髪が触れてくすぐったい。
ぐりぐりと先輩が胸元で顔を動かして、それだけで何だかひゃ、とか声が出そうになる。
イッたばかりで、まだ身体が敏感なので。
しかも腕バンザイだし。
もぞりとお尻を動かしていると、先輩がこちらに顔を上げた。
へにゃり、と形相を崩した、どこか照れも含んだ、柔らかな表情が、私を見つめていて。
──ぞわぞわ、と。全身の産毛が総毛立つような。
毛穴が全部開くんじゃないか、ってくらいの。なんていっていいかわかんないけど、すごく衝動が走った。
「せ、せんぱい…!やばい、手っ、手、ほどいて…!」
「え、どした?」
わたしの切羽詰まった様子に、先輩が慌てて両手首を結ぶネクタイをほどいて。
自由が利いた瞬間、その柔らかな黒髪ごと、胸元でぎゅーっ、と抱きしめた。
わふ。と先輩の驚いてるっぽい声がきこえたけど、今それどころじゃない。
「へ…え?」
どこか掠れた上擦った声とともに、問いかける先輩の言葉。
押し付けるようにぎゅーっと頭ごと抱きしめているので、胸元に、先輩の息がかかって、すこし熱い。
驚いてる先輩には悪いけど。きっと、どくどくどくと激しく脈を打っているだろう私の心臓が、先輩のせいできゅーーーーっと締め付けられたのだからしょうがない。
「先輩のせいです。どうしようもなく、ぎゅーーーー!ってしたくなったんです」
それはもう、ほんと、どうしようもないほど。
あの、へにゃ、と崩した、嬉しそうで、どこか照れてるようなそんな表情を、みた瞬間だ。
「なんか、わかんないけど。先輩の全てが、欲しいって、心が叫んでやまなくて。そんなわけで、失礼します」
そう、一声かけて、ぎゅーーー!!っと脚まで絡ませて、上に跨る先輩に巻きつくように、しがみついた。
「快斗さん、快斗さん、快斗さ…」
「ちょ、たん、ま!」
ぐ、と頭が持ち上がった。なにさ。ぎゅ、とさせてくれても良いじゃないか。先輩のケチ。
「挿れっぱなしのちんこが復活して暴発しそうだから、ホントたんま」
まだ使用済みのゴムつけっぱなしだしよ。
そういって、ずるり、と自身を引き抜いた。抜く瞬間、妙に悲しくなる。ずっと挿入ってて欲しかった。
そんな私の心をつゆしらずに、先輩は後ろを向いて、がさごそと処理しながらなんか独りごちていて。
「ちゃんとゴムする理性がギリ残っててよかったなぁ俺…つうか。──ごめんな。なんか、乱暴にしちまって」
「いえ。あれはあれで、なんか興奮しました」
うん。荒っぽい先輩も良い。あっというまにイかされてしまうけど、なんかこう、性急なのもエロい。
「…。希夜はあんま、俺を甘やかさねぇ方がいいぞ?なんでも許してくれっから、俺調子に乗っちまう」
「甘やかしてるつもりは…」
私の考えなんていつも簡単に読めるはずなのに。先輩、どうしたの。
ここはいつも、おめぇはホントエロにアグレッシブな、とか呆れられて言われるシーンなはず。
「顔見て無くてもなんとなく言いてえことはわかるぞ。どーせ、どうした先輩。とか思ってんだろ」
「さすが先輩やっぱりエスパー!」
「…まあ、おめぇのエロに対するアグレッシブさっちゅーのはわかってんだけどよ。──大事にしてぇの、ちゃんと」
後ろを向いてごそごそと処理しながらなのに。
そんなことを言うなんてずるい。
だめだ。
なんかもう、さっきから、ぐわわって、心臓鷲掴みにされてるみたい。
ああもう。
ぎゅって、したい。
欲望のまま、ぎゅ、と背中越しにしがみついた。
カッターシャツ越しの背中の温もり。細い腰に、硬いお腹。
先輩のうなじ。形の良い後頭部。
ああもう。後ろ向きでも、先輩は先輩で。
身体中がきゅんきゅんと訴えてる。
ああ。そうか。愛しいって、こういうことか。
「快斗さん、好き。すごく、好きです」
「──っ、へ、え?」
またも、どこか上擦った声。
いつもめちゃめちゃ余裕そうなのに。こっちには甘い言葉ガンガン吐くのに。
わざわざそんな大きくリアクションして下さらなくても。
あれ。
…そういや。先輩に好きって、まともに言ったことなかったかもしれない。エロいとかしか。
でも。いま、伝えたくて仕方ない。
「好きです。どうしよう。好きすぎておかしくなりそうなくらい。快斗さん、好──」 「わーった、わーったって!」
私の言葉を遮って「ほんとなに、コイツいつもアホなのに…!」と聞こえる声。
ぐるりとこちらに向き直った先輩に抱きすくめられ、まるであやすようにぽんぽんと背中を叩かれた。
「希夜、いきなり大サービスしすぎ。何、どした。さっきから急に」
「…だって。気持ちが、きゅーーって、なって」
溢れてやまない。
好き。大好きだ。
先輩が、快斗さんが。
「…好き」
「──っ、ほんっと…!!」
ぐ、と顔を持ち上げられて、柔らかな唇が重なる。
相変わらず、大音量でBGMが流れているけれど、それすらわからなくなるくらい、先輩で口内が満たされて。
先輩の舌も、唇も、あつい。
気持ちいい。
好き。
私、すごく先輩のこと好きなんだ。
絡んでいた舌が離れ、「これ以上は、まじでちょっとやべえ」と先輩が唇を離した。
「いくらなんでもマイク音量ゼロで大音量のまま二回戦突入したら、多分店に怪しまれっから」
そんなセリフとともに、先輩が私の身支度を整える。
「バースデー割使ったけど、延長したから一緒だなー」
と呟きながら、私のセーラーにネクタイを結んでくれた。
おお。私より上手。
──そういえば、もうすぐ先輩誕生日だ。
「先輩、何か欲しいものあります?誕生日。去年は結局処女しかあげてないですし」
むしろ童貞を頂いてしまったわけで。ハツチンゲットだぜ。
「あー。…なんか、もうすげえ今日もらっちまった感じだし。別に、なんもいいかなー」
ぽりぽりと、頬を掻きながら。そんなつれないことを言う。
「え!ダメですよ!私の彼女としての存在意義が!ちゃんとお祝いしたい!!なんか言って下さいよ!」
「いや、本当、なんか今日色々と…うん」
そこで、こちらを向いて。ぽんぽん、と頭を撫でられた。
そのままわしわし、と頭を撫でくりまわされて。
「思った以上に、おめぇからの好きって、威力抜群なんだよなぁ。──あ、じゃあ。俺の部屋でも、また、言って。それが欲しい」
名前呼びでな!と先輩は満足そうに笑って、ソファから立ち上がった。
──安い。安すぎる男だ、先輩。そんなんがプレゼントなんて。
そんな軽い気持ちで請け負ったけれど。
改めて名前呼びで、好きだと伝えようとすると、無性にはずかしくて。
結局、先輩によりぐっちゃぐちゃに溶かされて、頭まっしろにさせられて。
そこでやっと伝えた言葉に、先輩は溶けたように笑ってくれた。
── Happy Birthday Kaito Kuroba !!
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