「先輩って、歌めっちゃ上手いですね!というか──もはやモノマネ王者決定戦レベルでそっくりに歌ってますけど。どうやって声出してるんですか?」



バースデー割が利くからと、学校帰りに連れてこられたカラオケボックス。

何か聞きてぇのある?と聞かれて、先輩いい声してるし、と思わず色々入れてみると、まさかの歌声に感動通りこして驚いた。

美声とか、上手いとか。そういうレベルじゃない。

そっくりさんだ。そっくりさん。

もしやと、女性ボーカルも入れてみたけど。
ええ。それすら完璧に本人みたいでしたよ。


──モノマネ王座出れる。優勝賞金狙える。
…勝手に応募出してしまおうか。


悪いこと考え始めた私に、間奏中に声がかかる。


「声帯を意識して狭めたり拡げたりしてんだよ」

「そんなの意識して出来るものなんですか!?」

「おー。ちなみにこんなんも出来るぜ?」


そう言いながら、喉仏をぐーっと上下に動かしてくれた。
まるでビー玉が喉の中を上下してるみたいだ。

なんて多芸なんだ。



「すごすぎる…先輩合コンでも行けば一番人気間違いなしですね」

「まあな。全員の視線をこっちに持ってこれるぜ?」

「野郎すら熱い瞳で先輩を見つめちゃいそう!」

「…それはあんまし嬉しくねぇな」



そんなこんなで、間奏が終わり。
先輩は再びマイク片手に鼻歌でも歌うかのように、かるーい感じで歌いだした。
軽く歌ってる感じなのに、あいも変わらず本人に生歌歌ってもらってるみたい。

いやー。なんて贅沢。

でも。



「…先輩の美声を聞こうと思ってたのに」


そう、ぼそりと呟いた声が、どうやら聴こえてしまっていたみたいで。


一瞬歌が途切れたので、あれ?と思った瞬間に。
先輩が私の隣へとあっという間に距離を詰めた。


にぃ、と口角を釣り上げた、不敵な蒼い瞳が私を映す。


そうして、私の隣に座って歌いだしたのは、先輩の、歌声で。




…やっぱ、普通に歌っても先輩めちゃめちゃ上手いんだ。



先輩の、特徴的なよく通る声が、どこか色気を孕んだ歌声となって、私の鼓膜を響かせてくる。


うあ。なんて威力。

歌だけで、耳が犯されそうだ。





歌う姿を思わずガン見してしまう。

長い指が、マイクを包むように握ってる。
マイクに、唇に触れるか触れないかの距離感で歌っている姿がかっこよすぎてもうだめだ。

相変わらず指はエロいし。



ああもう。なんてこった。
指が絡むマイクが羨ましい。歌声を通すマイクが羨ましすぎる。

ああ。マイクになりたい。






最後まで歌い終わった先輩は、どう?とばかりに得意げにこちらに笑いかけた。
自分のイケ声具合をよおっくわかっていらっしゃるに違いない。

いやもう、ほんとご馳走さまです。



「──エロいです先輩やばいです」

「そ?濡れた?」

「ぐしょぐしょです!」

「…いやうん、聞いたのは俺だけどよ」



…恥じらうっちゅーもんがねぇのよなーこいつは本当によ。
わかってたけどよー。
んなキラキラした瞳で答える台詞じゃねえだろ。


なんやらぶつぶつぶつぶつひとりごちていらっしゃる。


先輩が聞いて来たから答えたのに。どこが間違ってたというのか。


一通りぶちぶちと言って気を取り直したのか、先輩が私にマイクを向けてきた。


「つうかよ。希夜も歌おうぜ」

「え。先輩の歌声聴いた後に私とか、羞恥プレイですか?」

「なにが羞恥プレイだよ!」

「そんな上手い歌聴いた後に私の下手くそな歌歌わせることがですよ!」

「は?カラオケなんて楽しんだもん勝ちだろ。しゃーねーな…声マネは難しいだろうから、せめて声出すコツ教えてやるよ」


そんな言葉と共に、おら、こっち向け。とぐい、と顎を持ち上げられた。


「ほれ、口開けて」

「ふへ」



そうして向かされた先には、至近距離の、先輩の顔。

こちらは思わずそのイケメンぶりにドキドキとしてしまうというのに、先輩は通常運転な顔してる。
くそ、ヤリチ…いや違ったんだ、えっと、そう、モテ男は余裕だな!


心の中でぶちぶち思いつつも、言われるがままに口を開ける。


「あー、って声出してみ?」

「あーー」

「そんときに、腹に力入れて声だすんだよ。ほれ、あーーって」

「あーー!」


え。なんだこれ。
なんのレッスン受けてんの私。ボイトレ?
ん?てことは、先輩が先生?

なにそれ滾る。


『イケメンティーチャーと2人っきりのカラオケボックス──秘密の個人レッスン──』とか、なんかエロい漫画でありそうだ。
あ、先輩絶対メガネにネクタイとか似合う。
ちょっとネクタイ緩める仕草とかされちゃったらどうしよう。
やばい。色々やばい。


私がそんなことを思いながらやっている所為なのかどうかはわからないけれど、どうやら発声がいまいちのようで。

ううむ、と先輩が唸ってる。



そうして言われた一言に、思わず固まった。


「んーー。なんつうか、のどちんこ震わせる感じでやってみ」

「え」

「え?」



おうむ返しのえ、を受けながら、どした?とこちらを伺う先輩。


いや。え。え?
うそ。もしかして自分の発言に気付いてない?



「いやいやいや、先輩。のどちんこって、男の人しかないですよね?」




もー。先輩ったら何言ってんですか。

そんな気持ちで先輩の顔をみると、ものすごく残念な子を見るような瞳でこちらを見ていた。


「…んー、あーー…希夜さんよ。その、のどちんこが男の人しかねぇっちゅーのは」

「だって、ちんこですよ!ちんこと名がつくものが、女の人にあるわけないじゃないですか!」


やだなぁ先輩ったら!と、ばしばしと肩を叩いて見上げると。

もはや何の感情も映していないような、スンっと効果音が付きそうな顔をしていた。


え。どしたの先輩。



「お前…。いや、いい。そうだよな、希夜だもんな、うん」



どこか無理やり自分を納得させているような感じで、うんうんと1人頷いたあと、「えー、希夜君。僕の口をご覧ください」と、どこか先生めかした風な口調で、先輩は大きく口を開けた。


わあ。白くて歯並びよくて綺麗な歯!歯の標本になれそう。


「ちげえ、見るとこ歯じゃねえ、口の奥。ほら、あんだろ?真ん中にふるふる震えるのどちんこ」


よく口を開けたままはっきり話せるな、と関心してしまうのだけど。
先輩はそんな凄技をしながらも、あー。と大きく口をあけていて。

──赤い舌の奥、たしかに円錐型の赤く震えるかわいいのどちんこがあった。


おお。
先輩ののどちんこ見ちゃった。



「ありました!!先輩の下のブツとはちがって可愛い赤ピンクののどちんこ!」

「俺のだって平常時は可愛らし──じゃなくて」


ああもう、おめぇと話すとすぐおかしい方向になる。そうひとりごちながら、どこからともなく手鏡を取り出して。


「ほれ。もっかい口開けろ──そう。見えるだろ?自分ののどちんこ。まーったく希夜はよー。のどちんこは男女平等に人間の器官なんだっつの」


あー、とあけて手鏡で覗いてみるけど、角度が悪いのか、先輩ののどちんこのようにはっきり見えない。本当に私の口内にもあるのか。


「へんはい、よふみへまへん」

「は?どれ」


そうして、あー、と口を開けてる私の口内を、先輩が覗き込んだ。


「あんだよ。ちゃんとあるじゃねえか。赤いの」


…先輩が!先輩の蒼い綺麗な瞳が!私のちんこと呼ばれる器官を見ている…!!


「へんはい、えっひ!!」
「はあ?何がだっつの。つうか、喉の奥赤くね?腫れてる、か…?おめぇもしかして風邪引いてる?」


なにやらじっと覗き込まれつづけてる…!!
なんだこれ。無防備だし、見られてるのはちんこだし…どんな色形してんのか、じぶんじゃ知らないし…。

腫れてるって…変な形とかしてないよね?
ちんこ腫れてるとか。
膨張してるとかならいいけど、なんか腫れたちんことか、情けなくないか。

うわ、心配になってきた。どんなんなんだ、私のちんこ…!
先輩だけ見られてるって、ああ、私の大事なところを丸裸に覗かれてる気分に…!!


「んー…そんな酷くは無さそう、か…?でも、歌って喉使うのはやめとくか──って、希夜、おまっ…」

なんつー顔して…と先輩が思わず、と言った感じに自分の口を押さえた。
いやいや押さえてほしいのは私の口だ。隠したい。


「ひぇんはい、も、はふかひ…」

「──裸にひん剥いても、何言っても恥ずかしがらねぇのに…絶対おめぇの恥ずかしがるポイントおかしいけど…」


──まさかおめぇからその台詞を聴ける日が来ようとは。

と、ほんのさっきまで口を押さえて軽く動揺していた気がした気がする先輩は、ふーん。と、どこか悪い顔して口角を吊り上げて。


そうしてそのまま、私の口に指を突っ込んだ。

抉じ開けるように、人差し指で舌を押されて唾液が溢れる。


「ふぇんはい!?」
「──ほら、もっと良くみせて?おめぇの口ん中、奥の方まで、な」


そんな腰にくるエロボイスで!なんてことを!

先輩は確実に私の様子を見て楽しんでいる。蒼い瞳が楽しげに細められているもん。そんな瞳で、私の口の中をじろじろと覗いてるんだ。

からかってるんだろうと、頭ではわかっているのに。
私ののどちんこを見られてると思うと顔に熱が集まるのが抑えられそうにない。
そしてなぜか下腹部がきゅんきゅんとしてる。

え、のどちんこ見られてるだけで濡れ始めてたらどうしよう。
さすがちんこと呼ばれる器官だけある…興奮作用が?


「ひぇんはい…」

「あーあ、エロい顔。…おめぇ、病院の診察んときに喉見せるとき、んな顔すんじゃねえぞ」


──病院?なんで、病院が。お医者さんごっこ?と脳内が働いたときに、どこか逃げ腰に身体を後ろで支えていた私の手が、ソファからずり落ちた。


そのまま、背中がソファに沈んで。


背中がずり落ちた拍子に、思わず口を閉じてしまう。そのまま先輩の指が口の中で私の上顎をくすぐった。


「ふぁ、んん…」
「希夜は快楽に素直だよなー」


ぎし、と音を立てて、先輩が私の上へと馬乗りになった。
寛いだ詰め襟から覗く喉仏が、ゆっくりと上下してる。

先輩はどの角度から見てもイケメンだけど。こうして、覆いかぶさるみたいな体勢で見上げる時の先輩は、反則気味にかっこいい。

すっきりとした顎のラインをこうしてまじまじと見れるのは、先輩ヤリチンではないらしいので。多分、私の特権で。
それを喜んでしまうのは、多分、独占欲だ。

ああ。かっこいいなぁ。


何曲か予約を入れっぱなしのカラオケが、歌い手を無視して流れ続けている。
ちょうど一世を風靡した振り付けの曲が流れて。こんな状況にそぐわない、妙にアップテンポのその曲が、なんだか間抜けなBGMだな、とぼんやりと思った。



「ほれ。ちゃんと口開けて」

くちくちと、先輩の細くて長い指が、私の口内を遊び回って私の口を開けようと画策してる。


「ん、ぁ」

歯の裏側を擦られて、思わず口を開けると、指を引っこ抜いた先輩が、そのまま身を屈めて舌を合わせてきた。

ふんわりとした黒髪が、おでこに触れる。



ああ。先輩の、舌だ。相変わらず柔らかくて、あったかい。少しざらついた、ぬめる感触が気持ちいい。

ぎしり、と合皮のソファがしなる。
先輩の舌が、いつも以上に執拗に、私の舌に絡ませて、喉の奥へとすすんでく。


口の中が、先輩の舌でいっぱいだ。余すとこなく、粘膜がひっついてるかんじ。
すこし苦しいような気もする。でも、口いっぱいに先輩の舌が入り込んでるって思うだけで、じんと身体の芯が痺れた。


…下手すりゃ、のどちんこまで届くんじゃないか。のどの奥に隠れてる、私のなんやら卑猥な器官。
やばい、私のちんこ先輩に犯されちゃうんじゃないか。

先輩は、舌まで長くて器用なんだから。
なんてこった。どこもかしこもエロいなんて、歩く猥褻物じゃないか。


奥をなぞられて、少し苦しい。
でも上顎の奥に先輩の舌が触れると、ぞわぞわと、なんとも言えない感触が身体を走る。

苦しいのに、それだけじゃない。なんだこれ。

それでも、舌の奥を押されるような勢いに、思わず嗚咽が漏れでてしまった。


それに気づいた先輩の舌が離れて。

もっと、と先輩を見ると、小声で「わり、つい熱くなった」と、どこか熱を孕んだ声で先輩が呟いて。


「希夜があんだけ恥ずかしがってたとこ、触れたくなっちまって。キツかった?」

「…いや、はい。なんというか、苦しいけど、なんか変なかんじでした」

「…へぇ。どんな?」


どこか妖しさを含んだ瞳で私を見据えた先輩が、私の唇を軽く舐めて。そのまま次は労わるように、舌の裏側や、歯の裏側をなぞり始めた。


「ふぁ、んん、ひっ…」

「──ここ、好きだよな。ここと同じくらい、なんか感じた?」

「っ、んっ…ひっ、んぁ…ぞわぞわ、っ、って…」


先輩の舌使いに翻弄されながらも、必死で返答する。

すると、再び深く、のどの奥。その上側を、先輩の舌が覆った。
ぞわぞわとする感触に、腰が妙に落ち着かない。
ソファから落ちないようにか、逃げないようにか。
先輩の腕が私の両肩を抑える力を、ぐっとこめた。


くちゅり、と唾液の音が漏れ出るくらい深く舌を擦り合わせて。
頭がボーっとしてきた、その時だった。



トゥルルル トゥルルル トゥルルル



機械的な電子音に、思わずびくりと肩が跳ねた。