なんかものすごく良く寝た気がする、と目が覚めたら知らない天井でした。
うちのアパートの見慣れた天井と違って蛍光灯が裸で縦二列に並んでいるし、色も黄色っぽい。
ジプトーン天井って言うんだっけ?どうにも事務所っぽい感じの天井だ。
視線を回すと、一つだけある窓はブラインドが閉められていて、アイボリーがかったクロスの部屋に、カーキ色のソファが一つ。低めのソファにあわせて、これまた低めのテーブルと。部屋の角に置かれたテレビ。
ベッドで寝ているらしく、羽毛布団だろう、やわらかな感触なそれはシンプルな茶色だった。
事務所っぽい内装なのに置いてあるインテリアは格好いいなおいとか思いながら、いやいやいやていうかどこだよここ!とヒヤリと背筋に汗が伝う。
え、何これドッキリ??と思わず体を起こそうとすると右足に鈍い痛みを感じた。
「痛っ」
「ああ、目覚めましたか?」
あ、やっぱこれドッキリ?と開いた扉の先に佇む人を見た瞬間に思った。
いやでも私一般ピーポーだから、ドッキリとかないよね。
となると。
「……怪盗キッドのコスプレした誘拐犯?」
ずべ、とキッドコスの野郎がずっこけた。怪盗キッドなんだから、ちったぁらしくしたらどうだ。
動揺しているはずなのにそんなとこだけどこか冷静な頭が突っ込む。
目の前の人物はでも、姿形はとても様になっていて。まるで実際に怪盗キッドが現実に存在したら、こんなんなんじゃないかと思うくらいだ。
冷静さを取り戻すかのように、こほん、と一つコスプレ野郎が咳払いした。
「私のこと、ご存知なのですね」
「まぁ、私もそれなりにテレビ見るし」
コナンも主要人物ぐらいは知っているが、どうにも推理物はあまり得意分野ではなく。ルパンとか子供のころは怪傑ゾロリとかが好きだった私はどちらかというとまじっく快斗の方が好きだった。だからコナンに出てきた時は嬉しかったなと思い出す。
にしても、冷静になった途端なりきるな、こいつ。
なんていうか、纏っている雰囲気が、凄い。人を寄せ付けないようなぴりりとした雰囲気の中、でも物腰は凄く柔らかくて声のトーンなんてすごい惹きつけられる。
それがまた、ただもんじゃないっていう感じでなんていうか、キッドっぽい。てか声まで似てるよな。だからコスプレしてんのかな。
うーん、顔はわからないけどこれで格好悪かったらちょっと嫌だな。なんか。
モノクル越しの感じはイケメンな気がするけども。
まるで本物のキッドのようなその姿に、自分に危害を加えそうにはない気がして、少し気が緩む。
まあでも、こんな格好している時点で大分危険人物だろうけど。危ない危ない。変態注意。
誘拐ではなさそうだけどでも、私がここに居る理由はまだ判明していないんだから。
どっかのだれかと朝チュンしちゃったにしちゃ、コスプレーヤー相手じゃちょっと待てと昨日の私を問い詰めなきゃならなくなる。
「で、なんで私はここに?」
「……昨夜の事、覚えては?」
「は? 昨日? 昨日って……」
え、まじで私このコスプレーヤーと朝チュンなわけ!?私身持ちは硬いほうだと自負してたんだけど!?とそこで頭を巡らせる。
昨日は、うん。何してた??
そうだ、私は飛行機に乗ってたんじゃなかったか?
店の研修旅行でイタリアで本場のイタリアンだーってなって。
初日はちゃんとしたとこでイタリアンの超高級レストラン連れてってくれるってオーナーが太っ腹なこというから飛行機乗る時から気合入れて正装してた。ら、仲間から早すぎしかも気合間違った方向に入れすぎって馬鹿にされたような目でみられつつ。
初海外旅行で初飛行機ってのもあって、隣のチーフにフィッシュとビーフと両方食べたいので、半分こして下さいとお願いして機内食も美味しく食べて。んでテンション上がってるから飲み放題なワインとかもせっかくだからとボトルで飲んじゃってちょっと出来上がっちゃって。
ほろ酔い気分でいい気分な所に、急に機内放送が入って。機内が騒然として。酔いも一気にさめて。
暫くすると、機体が思いっきり揺れて……そっから物凄い浮遊感を感じて――そこから先の、記憶がない。
……いや、一つだけある。そうだ。薄れてく記憶の中でこいつが目の前にいたような。
真っ白なマントとシルクハットに、モノクル。
わー、まじっく快斗だって思って、そこでまたブラックアウトしたんだ。
あれ。じゃあ……。
「……ここ、イタリア?」
「……日本、ですが?」
……まじか。
何が起こっているかは全くわからないけれど。一つだけ確かなことがわかって、愕然とする。
コスプレキッドが不思議そうな表情(モノクル越しで見えないけど、そんな気がした)で見ているのも相まって、もうどうしようもない気持ちが沸いてきて。
「……イタリアは?」
「え?」
「本格イタリアンは!? スペシャルディナーは!!?」
「え、ちょ……」
「パスタは!? ピザはー!?」
ありえないありえない!!めっちゃ楽しみにしてたのに……!!
多分、このコスプレーヤーが悪いわけではないのだろうと、昨日の記憶が叫んでいるのだけど。
でも、当り散らさずには居られなかったわけで。
「私のイタリアン返せー!!!!」
叫んだ声は、事務所みたいなこのビルに、響き渡った。
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