「…ですので、例の一件は科捜研の方に回してあります」
「解析にはどれくらいかかる?」
「明日には結果が出るだろうとのことです」
「わかった。会議用に資料をまとめておいてくれ」
「了解です」

端的なやり取りをして、そのまま軽く頭を下げてから自分のデスクに戻る。デスクに戻ってからちらりと上司の方を見たけれど、彼は自分のパソコンと向き合ったままだ。先程のやり取りの間も、彼の視線が私に向けられることはなかった。私なんかとは比べ物にならないくらい忙しい人だから仕方ないとは思うけど。
私の上司の名前を、降谷零と言う。警察庁警備局警備企画課、通称ゼロに所属。階級は警視。驚くなかれ、二十九歳という若さにして警視という階級を与えられているのだから彼の実力は想像に容易い。いや、逆に想像も出来ないかもしれない。一体どれ程の実力とどれ程の功績があれば二十九歳にして警視などという階級にのし上がれるのか。
彼に気付かれないようにこっそりともう一度視線を向けて、私は小さく溜息を吐いた。彼は視線や気配に聡い人だから、あまりじっと見つめていたら気付かれてしまう。気付かれないうちに視線をパソコンのモニターに向けて、彼から頼まれた会議資料に取り掛かることにした。

随分と、遠い人になってしまったものだ。
私が降谷零と出会ったのは、警察学校でのことだった。同じ鬼塚教場のメンバーで、女子と男子で班別討議なんかは別だったけどそれ以外ではわりとよく絡んでいた。きっかけは拳銃訓練の時だったと思う。拳銃訓練は私の得意とする科目で、つい好成績の降谷と張り合ってムキになってしまったんだ。でもそれは私だけじゃなくて降谷だって同じだったんだけどな。
警察学校での生活はもちろん大変なことばかりだったけど、降谷を通じて諸伏や松田、萩原、伊達とも知り合って、楽しい半年間だった。
卒業後、全然違うところに配属されることになったにも関わらず、連絡先を交換したのは彼ら五人だけだった。最初の頃は何度か集まって、近況報告を兼ねて一緒に飲んだりしていたのだ。それが、ある時から降谷、諸伏と連絡が取れなくなった。六人で集まっていた飲み会は二人が抜けて四人になり、そのうちに萩原が殉職して三人になった。松田と伊達と私で飲んだのは結局一度だけ。話が弾むはずもなく、結局松田を誘いづらくなって自然と飲み会はなくなった。飲み会がなくなってしばらくして、松田も殉職してこの世を去った。
残されたのは、私と伊達の二人。松田が亡くなった後に伊達とは一度飲みに行った。自分と同じ名前の可愛い後輩の話や、お付き合いしているナタリーさんの話をしてくれて、暗かった気持ちがほんの少し浮上したのを覚えている。伊達と二人きりだったけど楽しく飲んで、また連絡するよ、なんて笑って別れて。その後、伊達までもが交通事故でこの世を去ってしまうだなんてどうして想像出来ただろう。
最初は六人。最後に残ったのは私だけ。日々は目まぐるしい程に忙しく、彼らが居ない世界を悲しむ間もなく仕事に追われる日々。忙しさは私の悲しさや寂しさを誤魔化してくれたけど、胸にぽっかりと空いた穴が埋まることは無かった。
そんな時だ。私が、公安部に異動になったのは。
本日付で公安部に配属になりました佐山ミナです。よろしくお願いします。そんなセリフを、まさか警察学校時代の同期に向かって述べることになるだなんて思ってもみなかった。
消息を経って五年余り。再び私の目の前に現れた降谷は飛び抜けた昇格を果たし、私の上司としてそこに立っていた。
同い年だろうと、警察学校時代の同期だろうと、今の降谷が私の上司であることに変わりはない。当然気軽に口を利くことは許されない。七年前は気軽にタメ口で話し、降谷、なんて呼び捨てにしていたが、今では敬語で話しかけ降谷さんと呼んでいる。最初の頃は慣れなくてむず痒くも思ったものだが、人間は慣れる生き物である。彼に対して敬語で接するのも、降谷さんと呼ぶことも、すっかり慣れてしまった。まぁ、未だに一人で考え事をしている時は降谷と呼んでしまうけれど。口に出さなければオールオッケーだ。

「疲れた顔をしているな」

コト、とデスクに置かれたのは好んで飲むブラックコーヒーの缶だった。パソコンから視線を剥がして見上げると風見さんが立っていた。
疲れた顔をしている、なんて言う彼の目元にも隈が浮かんでいる。疲れているのは皆同じだ。

「いえ、風見さんこそ。…コーヒーありがとうございます」
「さっきの件、降谷さんはなんて?」
「科捜研の解析結果を待つようです。詳しくは今私が会議資料としてまとめています」

忙しいも忙しいに決まっている。
降谷が潜入していた国際的犯罪組織、通称黒の組織が瓦解したのはつい先日のこと。組織との決着をつける最終作戦はFBIやCIAとも手を組み、当然公安も総出で駆り出された。私の役割は離れたところでGPSを確認して皆の位置を把握し、それぞれどこに向かうのが良いか指示を出すことだった。つまり戦場には出ていない。当然ながら私に怪我はなかったが、病院送りになった仲間も何人もいる。
総合的に無傷とはいかなかったものの作戦は無事成功。組織のボス、ナンバーツー以下コードネーム持ちの幹部のほとんどを捕縛。組織の末端や数人の幹部の取り逃がしはあれど、組織の復興は限りなくゼロに近いだろう。つまり、事実上の壊滅である。

とは言え。組織が壊滅したとて、それでめでたしめでたしという訳ではない。取り逃した幹部や末端の組織員を放置するわけにもいかないし、組織に関する報告、資料の作成、今まで行なってきた違法作業の処理、FBIやCIAとの情報の擦り合わせエトセトラエトセトラ。
食べる間も寝る間も惜しんで日夜仕事に追われる日々。私や風見さんなんかはもちろん、組織の中枢に食い込み内部から崩壊させた立役者であるバーボンこと降谷零の顔にも疲労が浮かんでいる。

「資料をまとめ終わったら少し寝てきたらどうだ」
「お言葉はとてもありがたいんですけど、私よりも降谷さんに休むように進言してください。あの人が休んでくれないと部下である私達は休めませんよ」

ちらりと事務所内を見回せば、皆虚ろな目をしてパソコンと向き合っている。一刻も早く休まないと死屍累々の光景が広がることになるだろう。
風見さんは私の言葉に苦笑すると、「それはそうだ」と軽く肩を竦めて降谷の方に向かっていった。その背中を見送ってから、私は視線をパソコンへと戻す。
降谷が仮眠から戻ってくる前に、この資料を完成させないと。


***


降谷ではなく、更に上の上司から潜入捜査を言い渡されたのは、忙しい日々を何週間か過ごしたある日のことだった。まだまだやるべき事は山積みだが、それでも急ぎの案件はある程度片付いた。定時退社とまではいかなくても仮眠室を使うことが減ってきた直後のことであった。

「潜入捜査、ですか」
「違法ドラッグの取引が行なわれているという米花町のクラブに、かの組織の末端数人が出入りしているとの情報が入った。今までも何度かそういった情報は入っていたが、すぐに雲隠れされてしまってな」

話によると、公安で深い調査をしようとすると途端に尻尾が掴めなくなってしまうらしい。というのも、最終作戦の時に実力のある公安部所属の警察官はほとんど奴らに顔を知られてしまっている。当然、バーボンが公安警察官である降谷零だということも。
末端とは言え国際的犯罪組織の人間だ。核となる人物をごっそり失った今、慎重に慎重を重ねてこちらの動きに目を光らせているのだろう。

「つまり、奴らに顔を知られていない私が適任というわけですか」
「女性だということで奴らも多少は油断するだろう。今回の件において、お前以外に適した人物はいない。受けてくれるか」
「わかりました。やらせてください」

今回の潜入捜査において、直接仲間の手を借りることは出来ない。顔の割れた公安警察の姿を奴らに見られれば即座に逃げられてしまうだろうし、警察官を配備するにしてもクラブに近い場所には無理だ。よって、件のクラブに乗り込むのは私一人。私に与えられた任務は、クラブに出入りしている組織の残党が誰で何人いるのか、クラブに出入りする理由は何なのか、違法ドラッグの取引を行なっているとしたらどんな薬をどこに流しているのか…そういったことを調べること。盗聴器とGPSは身につけての潜入になるが、こちらから仲間にコンタクトを取るのは難しいだろうし、恐らくクラブ内での状況や会話を伝えるだけになると思われる。イヤホンマイクを使って指示を受けることはまず出来ないと思っておいた方がいい。
降谷みたいな優秀な人物であれば三日もあればある程度は探り出せるだろうけど、私では三日はさすがに無理だ。せめて一週間は時間を貰いたいことを告げて、上司の部屋を後にする。

事務所に戻れば、やたらとイライラした様子の降谷に捕まった。
来い、と一言だけ言われて掴まれた腕を引かれる。風見さんや他の同僚達のやや心配そうな視線がこちらに向いていたが、状況が全く読めない私はただ降谷について行くしか出来ない。廊下でFBIの赤井捜査官やスターリング捜査官とすれ違ったが、挨拶をすることは叶わなかった。二人の視線を受けながらも降谷は足を止めない。
やがて小さめの会議室に押し込まれ、何がなんだか分からないままドアを背にした降谷を正面から見つめる。彼の眉は不機嫌そうにきつく寄せられていたが、数日前まで濃く刻まれていた目の下の隈は大分薄くなっていた。

「確認するまでもないが聞こう。何を言われた?」

苛立たしげに靴底を鳴らしながら降谷が口を開く。常人であれば彼の圧に震え上がるかもしれないが、正直私には何の効果もない。今の関係が上司と部下であっても、根底は警察学校を共に過ごした友人、だと思っている。私だけかもしれないけど。

「米花町のクラブに組織の残党が出入りしているとの情報があり、潜入捜査を行なうことになりました。奴らに顔の割れていない私が適任とのことです」
「それで?お前はそれをあっさり受けたのか」
「当然です」
「今からでも遅くない、撤回してこい」
「は?」

そもそも、直属の上司である降谷に今回の潜入調査の件が伝わっていないわけがない。彼は当然知っていたはずだ。だからこそ確認するまでもないが、と最初に言ったのだ。なのに撤回してこいとはどういうことなのか。

「申し訳ありません、おっしゃっている意味がよくわからないのですが」
「お前では無理だ」
「はい?」

顔をしかめてしまったのはしょうがないと思って欲しい。言うに事欠いて「お前では無理」と来たか。そうか。

「聞こえなかったか?お前では無理だと言ったんだ」
「恐れながら申し上げます。何故、降谷さんは無理だと思われるのでしょうか?その理由をお聞かせ願えますか」
「お前が公安に配属になってどのくらいになる」
「…間もなく一年になりますが」
「それが答えだ。経験不足だとわかり切っている人間に潜入捜査なんてやらせるわけにはいかない」

さすがにちょっと腹が立ってきた。なんだ、経験不足って。
確かに私は公安に配属されてまだ日も浅い。年下の先輩に囲まれながら仕事をこなす日々にようやく慣れてきたところだ。だからと言ってそんな言い方はないだろう。

「…公安としての経験は浅くとも警察官としての経験はもうすぐ八年になります。経験が不足しているからと言って、それを理由に仕事を選ぶような警察官になったつもりはございません」
「その心意気は評価しよう。だが認めない。今すぐ撤回してこい」

この男は。
おかしいな、昔はまだもう少し可愛げというものがあったはずなのだが、いつからこんな話のわからない奴になってしまったのか。
この一年間、私は従順に彼の下で役目を全うしてきたつもりだ。立場も変わってしまったし、私達の関係性を変えるには七年という時間は充分過ぎた。彼も私に必要以上に話しかけることはなかったし、私もあくまで彼を上司として敬ってきた。
けど、何も思わなかったかと言われたらそんなことは絶対にない。だって、嬉しくないはずがないじゃないか。
皆いなくなって、一人になって。そんな時に、笑顔の再会ではなかったけど降谷にもう一度会えて、嬉しくないはずがなかった。昔のように何でも言い合えるような間柄で無くなったとしても、彼が生きて、私の目の前にいるということがどれほどに嬉しかったか。
だと言うのに。だと言うのに、この男は。
ふつふつと腹のそこから湧き上がってくる怒りを感じながら、私はゆっくりと息を吐き出す。
このパツキン野郎。私の脳内で、私の代わりに松田が吠えた。

「つまり。潜入捜査を認めない理由は、経験不足だとそうおっしゃるわけですね?」
「無駄話をするつもりは…」
「お言葉ですが降谷警視。降谷警視が黒の組織に潜入したのは警察学校を卒業後まもなくだったと伺っております。経験不足で潜入捜査が認められないのであれば、矛盾しているとお思いにはなりませんか。卒業したての新米警察官が潜入捜査に携われるような経験をお持ちだとは到底思えません」

にっこりと笑って口火を切れば、まさか言い返されるとは思わなかったのか降谷は少し驚いた顔をしていた。
彼に口を挟ませることなく私は更に追撃する。どうせここには私と降谷しかいない。

「もちろん主席で卒業のあなたと私では実力には雲泥の差があると思います。そうですね、卒業後すぐに黒の組織に潜入させられるのも納得出来るほどあなたは優秀でした。教養もある、体術も拳銃の腕も飛び抜けていたし、…あぁ、爆発物処理だけは私の方が得意だったっけ」

まぁそれは、萩原と松田が教えてくれたからだけど。

「今でも自分があなたと肩を並べられるような実力があるとは一切思っていません。でも潜入捜査を認めない理由が経験不足だと言うなら私は全力で反発します。経験は積み重ねないといつまでも不足したままです。そんなこと、あなたが一番よく知っているでしょう」

誰よりも、いろんな経験を積んできたであろう降谷に問う。

「私は、経験不足という言葉で一蹴してしまうほど、あなたにとって役に立たない、信頼できない、ちっぽけな存在なんですか」

かつて肩を叩き合いながら笑った日々。萩原、松田、諸伏、伊達、そして降谷と共に過ごしたあの日々は、間違いなく私にとっての青春だった。彼らのことを信頼し、また信頼されていると思っていた。
思っていたのは私だけ?降谷にとっては、そうじゃなかった?
きゅう、と胸が痛んで強く拳を握り締める。降谷の表情は変わらない。じっと私を見つめているけど、それはどこか惚けているようにも見えた。

「…降谷には見送れなかった苦しみがあるのかもしれないけど」

ぽつりと呟いた声は、情けなく震えていた。
ああ、言わなくてもいいことまで口にしてしまう。降谷に再会してからこの一年間、ずっと心の奥にしまい込んで蓋をして閉じ込めていた気持ちが溢れてしまう。

「一人ずついなくなるのを見送った私の苦しみだって、あるんだよ」

萩原も松田も伊達も、降谷は見送ることが出来なかった。私はその三人を見送って、一人になった。
諸伏だけは降谷と私で立場が逆だけど、だからこそ降谷は両方の苦しみをわかっているはずなのだ。
見送る苦しみと、見送れなかった苦しみ。その気持ちを分かち合えるのは、私には降谷しかいないのに。

「お前を、信頼できないちっぽけな存在だなんて思ったことはない」

はっきりとした降谷の声が会議室に響く。いつしか無意識に下げていた視線を上げて降谷を見れば、降谷は真っ直ぐ私のことを見つめていた。

「信頼してる。警察学校を共に過ごしたあの時から、それが揺らいだことなんてない。お前が公安に配属になるとわかった時、柄にもなく浮かれたよ。萩原や松田、伊達が逝ったと聞いて、お前が生きていることは知っていたけど実際にこの目で見るまでは不安で仕方なかった。佐山まで逝ってしまうんじゃないかって」
「勝手に殺さないで」
「そうだな、俺が臆病だったんだ」

降谷は視線を落として苦笑した。

「俺は臆病だよ。だから万が一でもお前が危険な目に遭うかもしれないという状況はなるべく避けたいんだ」
「警察官が危険な目に遭わないわけないでしょ」
「理解の上だ」
「しょっちゅう愛車をボコボコにするような危険な現場に出てる人のセリフとは思えない」

風見さんから聞いた話だけど建設中のビルの上層階から愛車で飛び出したこともあるらしいし。私としては降谷のそういう状況こそなるべく避けたいものなんだけど。思わず小さく吹き出せば、降谷も肩を揺らして笑った。その表情には先程までの苛立った様子はなく、私の知る友人としての懐かしい気配を纏っている。
臆病なのは、私も同じだ。公安に配属された時点で、降谷に踏み込もうと思えば踏み込めた。それをしないと決めて、選んだのは私だ。それは、私が臆病だったから。友人ではない降谷の表情を見るのが、怖かった。

「そんなに私のことが心配なんだ」
「失いたくない」
「大丈夫だよ、私悪運強いし」
「説得力に欠けるな」
「降谷私のこと好きすぎじゃない?」
「否定はしない」

ぶは、と吹き出せば降谷はなんだか複雑そうな顔をした。その顔がおかしくて余計に笑いが込み上げる。
こんなに笑ったのはいつぶりだろう。目尻に浮かんだ涙を指先で拭って、ふぅと一息。
胸がぽかぽかとするような心地を感じながら、私はじゃあさ、と口を開く。

「降谷も一緒に潜入すればいいんじゃない?」
「そうしたいのは山々だが俺の顔はバーボンとして奴らに割れて、」
「ベルモットに教わった変装術があるでしょ」

ぱちぱちと目を瞬かせる降谷はなんだか珍しく察しが悪い。

「こないだ赤井捜査官から教えて貰ったんだ。チョーカー型変声機、なんて便利なものがあるんだって?」
「……おい、待て。まさか」
「バーボンはダメでも、褐色ブロンドの綺麗なお姉さんなら奴らも油断するんじゃないかなぁ」

奴らもまさかバーボンが女装して自分達に近付いてくるとは思うまい。むしろ、バーボンだけは絶対に接触してこないと踏んでるだろうからバーボン似のお姉さんでも油断してくれるかも。
頬を引き攣らせている降谷の顔が面白くて、私はまた笑った。

そんなに私のことが心配なら、片時も離れず私のことを見張っていたら良いのだ。なんて、盛大なブーメランなのだけど。


***


そして数年の時を経て、私と降谷はこんな会話をすることになる。

「そんなに私のことが心配なら、零が片時も離れず私のことを見張ってたらいいんじゃない?」
「ミナの気持ちはよくわかった。なら結婚しようか」

指輪を差し出す零の顔は柄にもなく緊張しているのか少し強ばっていて、それが面白くて私はやっぱり笑った。

「よし、じゃあ私も零の傍を片時も離れずに見張っていてあげよう」

笑いながら左手を差し出せば、苦笑した零が薬指に指輪を嵌めてくれる。嬉しくなって飛び着けば、突然のことに少しよろめいたもののさすがは現役警察官だ。しっかりと私を抱き締めてくれた。

「女に二言はないな?」
「当然」

挑戦的にそう返せば噛み付くように口付けられる。
二言なんてあるわけない。今更この人を手放すことなんて、私には出来そうにないものですから。