「そう言えば珍しいよね、ミナが合コン参加するの。頭数合わせってわけじゃないでしょ?」
「ミナって彼氏いるんじゃなかったっけ」

合コンの会場である居酒屋に向かう道すがら、私と同じ合コン参加者である大学の友人二人に脇を挟まれた。いかにも平然と問いかけてます、そこまで気になりませんみたいな声色だけど、二人の興味が強くこちらに向いているのをひしひしと感じる。
両脇を固められては逃げることも叶わず、私は曖昧に頷きながら視線を落とした。

私は今日、人生初めての合コンに参加する。
今まで別に興味がなかったとか、合コンに誘われないほど友人がいなかったとか、そういうわけじゃない。合コンというものに興味もあったし、何度か誘われもしたが全部断ってきたというだけだ。
興味のある合コンに参加してこなかった理由。それは先程友人が口にした通りである。
私には、降谷零という名前の彼氏がいる。それもとびきりイケメン。学生の私とは違って立派な社会人で、詳しいことは教えて貰えないがこの国を守る警察官。料理が得意で多分出来ないことなんて基本的になくて、私なんかでは到底手の出せないようなスポーツカーを所持していて当然運転も上手い。たまに暴走するけど。
高身長、高収入、容姿端麗で優しくて、まるで非の打ち所のない誰もが羨むような素敵な彼氏。彼は何も悪くない。悪いとしたら、きっと
それは私の方なのだ。

「……ちょっと、気分転換、みたいな」
「気分転換〜? 彼氏がいるのになんで気分転換に合コンを選ぶのよ」

まぁ、その反応が普通だろうな。気分転換なら彼氏とデートでもすればいい、それが当然の答えだと私もわかっている。
でもその。私と零さんの間にはちょっとした問題があって。いや、もしかしたら零さんは問題とも思ってないのかもしれないけど。

「その、私の彼……結構年上でね、今二十九なの」
「えっ、アラサー? 十近く離れてるじゃん」
「初耳〜! ……というか、ミナってあんま彼氏の話しないもんね。それで?」
「んと、……なんというかほら、年齢的にも働き盛り……みたいな?」

私がそこまで言うと、両脇の友人は顔を見合わせて「あぁ〜……」と声を漏らした。息がぴったり。

「つまりあれか。彼は仕事に忙しくてあんまり構ってもらえてないと」
「んで寂しくなったから浮気ってか〜?」
「う、浮気なんてつもりはないよ!ただ、その」

零さんと最後に会ったのは一ヶ月近く前のことだ。遠距離恋愛でもない。会おうと思えばいつでも会える距離にいるのに、私と零さんのデートの頻度はとても低い。メッセージアプリで連絡を取り合ってはいるが、お休みなさいの挨拶さえ三日ほど既読にならないこともざらにある。既読になってもなかなか返事が返ってこないこともある。
彼が忙しいのはよくわかっている。たまのデートの日にだって、彼の目の下に薄らと隈が出来ていることが多いし、疲れているだろう時に私のことを構ってくれるのは嬉しいと思う。
でも、彼のことが好きだからこそ、あまり無理をして欲しくない。でも、彼に会いたいという気持ちは会えない時間の分だけ私の中で膨れ上がっていく。膨れ上がった気持ちは、ほんの少し会えるだけのデートで発散し切れる大きさじゃない。

「……彼氏にとって、私ってどういう存在なのかな、って」

寂しいだけならまだいい。私が我慢すればいいだけだから。でももし、この感情が私から彼への一方通行だったら? 本当は仕事に全力で取り組みたいのに、私がそれを邪魔してしまっていたら? 零さんは学生の私と違ってとてもとても多忙だ。多忙な毎日の中で、彼にとって私の存在が足枷になっていないかと考えた時、私はそれを否定出来る材料がない。
もしかしたら迷惑なんじゃないか。零さんから見た私はきっととてもガキだろうし、そんな私に付き合っていて本当に良いのだろうか。たとえ零さんがそれで良いと思ってくれていても、私が彼の負担でしかないとしたら。
今は良いけど、いつか「お前なんていらない」と言われる日が来てしまうかもしれない。そう思ったら、私は正直怖くてたまらないのである。

「……忙しい人だし……私みたいなちんちくりんと付き合ってるの、何でだろうっていつも思うんだ」
「……恋するが故の不安ってやつねぇ……」
「まぁ、そういうことなら良い気分転換になるかもね! 今日は彼氏のことは忘れて、飲も飲も!」

そう言って私の背中を叩く友人に、私は曖昧に笑った。
浮気のつもりなんて全くないし、本当に気分転換のつもりでこの合コンに参加したわけだけど、私のこの行動は浮気になってしまうのだろうか。
でも、友達との付き合いでもあるし、と考えて、私は私を無理に納得させた。


***


`場所は変わって、合コンの会場である居酒屋にて。メンバーは私と友人二人の合わせて三人の女性陣と、他大学の男性陣三人の計六名。
今回の合コンはそこそこ名門の大学の男の子を誘っただけあって、皆成績優秀者の人達ばかりだった。大学生特有の、と言うと偏見があるかもしれないけど、そういう調子に乗った部分はあるけど多分皆いい人。
ビールで乾杯して、その後適度にお酒を進めながら楽しくお喋りをして、程よく酔い始めた頃である。

「よーし!席替えしよっか!」

友人の一声で、男性陣と女性陣で向かい合わせに座っていた席をシャッフルすることになった。適当に席に番号を振って、箸置きで作った簡易的なクジで席番号を決める。私は一番通路側の席になり、隣には男性が座ることになった。最初の方から、私にちょこちょこ声をかけてくれていた人だ。
……零さんのことが気になって少しぼんやりしていたせいで、名前は聞き流してしまっていてわからないのだけど。会も中盤だし、今から改めて名前を聞くのも気が引ける。

「あれ、佐山さんグラス空いてるよ。次何飲む?」

向こうは私の名前をしっかり覚えてくれているというのに情けない話だ。

「あ、えっと……少し酔ってきたから少しペース落とそうと思って」
「え? でも明日休みでしょ?」
「あ、う、うん。休みではあるんだけど……」
「じゃあ大丈夫だって。すみませーん」

私がおろおろとしている間に、彼は店員さんを呼び止めて自分の分と合わせて私の飲み物の注文を済ませてしまった。こういう時にはっきりと断りきれないのは私の悪い癖だ。
程なくして私と彼の前にはビールの中ジョッキが運ばれてきた。仕方なくそれを手に取って口に運ぶ。

「なあ、佐山さんって趣味とかないの?」
「趣味? う、うーん……そう、だなあ……。休日に出かけたりするのは、好きだよ」
「へぇ! ショッピングとか? あ、映画とか?」
「あ、いや……日比谷公園、に……ピクニック? みたいな……」

思わず語尾が弱くなるのは仕方ないと思う。
ピクニックって。よりによってピクニックって。恥ずかしくなって誤魔化すようにビールをぐいっと喉に流し込む。

「……日比谷公園? なんでそんなところに」
「えっと、好きなの。日比谷公園」
「……ふぅん……?」

はぐらかすしか無かった。
何故日比谷公園なのかと聞かれたら、ちゃんとした理由がある。零さんの働く警察庁から程近いところにある公園だからだ。
零さんから教わったレシピでハムサンドを作って、それを持って日比谷公園でのんびりするのが私の休日の過ごし方。彼の職場に近い場所で、彼のことを思いながら過ごすなんて我ながら女々しくて情けない。
帰る時には警察庁の近くまで行って、「零さんが体を壊しませんように」と念を送るのも忘れない。あのへんをうろうろしていたら、もしかしたら零さんに会えるんじゃないかなんて下心もあるが、残念ながら零さんに遭遇したことは今までに一度もなかった。
虚しくなることもある。それでも私は、少しでも零さんと繋がっていたいんだと思う。

「そんなことよりさ、俺と一緒に今度出かけようよ。日比谷公園なんかに行くより絶対楽しいって」
「え、えぇ?」
「ベタだけど映画とか。ショッピングも付き合うし、美味い店とかもリサーチしとくからさ」
「え、えぇっと……」

困ったな。この合コンには気分転換で来ただけであって、デートの約束とかを取り付けるために来たわけではない。楽しくお酒を飲んで解散、それで私の気は晴れるはずだった。
お誘いを受ける流れも考えていなかったわけじゃないけど、さすがにお断りさせてもらいたい。滅多に零さんに会えないとは言っても、彼と恋人という関係である以上不誠実なことはしたくない。
助けを求めるように友人に視線を送ったものの、友人達は友人達で男の子と会話が弾んでいるようで私の方には見向きもしない。
どうしよう。

「あ、あの……いきなりデートっていうのは、ちょっと」
「あれ、段階とか手順とか気にするタイプ? いいじゃん、一緒に出かけるくらい」
「えっと……」
「じゃあ、この後の二次会は来るよな? そこでゆっくりデートの話は決めるとして、まずは連絡先交換しようぜ」
「えっ」

二次会? そんな話は聞いていない。軽くご飯を食べて帰るつもりでいた私は突然の二次会の話に目を点にした。
というか、この男の子すごくグイグイ来るな。酔いも回ってきたし思考も鈍ってきたから、あまりグイグイ来られると頷いてしまい兼ねない。
私が戸惑っていることにも気付いているだろうに、彼の攻めの姿勢は変わらない。ぎゅっと距離を詰められて、思わずびくりと体が震えた。体が触れるのが嫌で身を捩るも、彼に気にした様子は見られない。

「な、ほら。スマホ出しなよ」
「あ、あの、私本当に……!」

距離を詰めた彼の腕が私の背中に回される。肩を抱かれそうになって、思わず目を瞑りながら体を通路側に大きく反らしたその瞬間だった。

「っイテテテ!!」

彼の悲鳴が聞こえてはっとして目を開ける。体を反らしすぎてバランスを崩しかけるが。そんな私の背中を大きな手のひらがそっと支えてくれたのがわかった。

「いッ、ちょ、なんなんだよ……っ!!」
「嫌がっている女性に無理矢理触れようとするものではないよ」

聞き覚えのあり過ぎる声に息を飲んだ。恐る恐る自分の肩口に視線を向ければ、私の肩を抱こうとした彼の手の甲を抓る褐色の指。そのままつつつと視線を上に上げれば、じっと彼を睨む……零さんの顔が、あった。
突然の乱入者に、それまでわいわいと話をしていたテーブルの全員が動きを止め、零さんに視線を向けてぽかんとしている。
恐らく何かを言い返そうとしたであろう私に詰め寄っていた彼も閉口してしまっている。というか、そろそろ彼の手を離してあげてほしい。
零さんはグレーのスーツに身を包んでいて、仕事終わりなのかなと思った。

「……えっと……あの、どちら様……?」

誰もが声を発することを躊躇している中、私の友人がゆっくりと零さんに問いかける。零さんは友人に視線を向けるとにこりと人好きのする笑みを浮かべ、抓っていた彼の手の甲からぱっと指を離した。

「初めまして。いつもミナがお世話になっています」
「……え、ミナって……え、」
「えっ、……えっ、お兄さん、ミナの彼氏さん!?」
「二十九歳!?」
「アラサーの?!」

にじゅうきゅう!?とその場は騒然とする。友人達だけではない。男の子達も目を剥いてあんぐりと口を開けている。驚く気持ちは痛いほどわかるので、私は口を挟むことも出来ない。二十九には見えないよね。わかる。零さんものすごくイケメンだし肌も綺麗でぴちぴち(死語)だから……。

「やだな、俺のこと話したの? なんだか恥ずかしいな」
「あう、あの、ちょっとだけ」
「それで、これは何の集まりなのかな?」

にこにこと笑ってはいるけど、零さんの声にはっきりとした棘を感じて身を竦ませる。友人二人は顔を見合わせ、やはりおずおずと口を開いた。少し萎縮してる感じもあるけど、ビクビクしていると言うよりは想定外のイケメンが現れて少し混乱しているように見える。ほんのり顔赤いし。

「……そのぅ、大学の合コン……なんですけども」
「へぇ、合コン。若いっていいね」
「よ、よかったらお兄さんも一緒にどうですか?! 一杯飲んでくだけでも……!」
「気持ちは有難いけど、遠慮するよ。あぁ、ミナは連れてっても構わないよね?」

疑問符を付けながらもその声には有無を言わせない圧がある。友人二人は零さんを見つめながらこくこくと頷いている。完全にイケメンの笑顔にやられている。
零さんは財布を取り出すとその中から一万円札を抜き取り、テーブルに置いた。

「少なくて申し訳ないけど、足しにして。それじゃ、騒がせてごめんね。この後も楽しんで」
「えっ、あっ、あっ、待って…!」

零さんは私の手首を掴むとそのまま悠然と歩き出す。引っ張られた私は慌てながら鞄を掴み、縺れる足を動かして零さんに続いた。背後から聞こえてきた友人の「……ホスト?」という声。次に会った時にそれは違うと訂正しなければならない。
私の彼は国家公務員なのだから。


***


「わ、ま、待って……零さん、待ってったら!」

零さんは私の声に視線を向けることなくずんずんと進んでいく。居酒屋を出てしばらく進んだところにあったパーキングに停まっている真っ白なRX-7が目に入り、居酒屋にいたのに車で来たんだ、なんてちょっとズレたことを考えた。
車の側まで来ると、零さんはようやく私の手を離してくれた。咄嗟に見上げた彼の顔はさっきの笑顔とは程遠く、眉間には皺を寄せてじっと私を見下ろしている。機嫌が悪いことは言わなくてもわかった。

「乗れ」
「はい」

そんな彼に逆らうことなどできず、私は素直に車の助手席に乗り込んだ。零さんはパーキングの精算を終えるとそのまま運転席に乗り込み、アクセルを踏んだ。何も言わずに沈黙のまま走り出す車の中で、私は鞄を強く抱きしめる。
……怒ってる、のかな。

「……あの、……零さん、」
「なんだ」
「……どうして、あのお店に……いたんですか」
「部下と食事。君が入店してくるのが見えて驚いた。女友達とかと思えば、まさか合コンだったとは」

う。この声色はやっぱり、怒っている。
それでも沈黙が続くのがなんだか耐えられなくて、私は鞄を抱きしめたままそっと言葉を紡ぐ。

「……助けてくれて、ありがとうございました……」
「困るくらいなら最初から行くなよ。あのまま押し切られたっておかしくなかっただろ」

反論の余地もない。

「……どこに、向かってるんですか……?」
「俺の家」
「えっ」

思わず顔を上げて零さんの方を見れば、彼はちらりと私を見てすぐに視線を正面に戻す。まぁ、運転中だもんね。よそ見運転はいけない。さすがお巡りさん。
沈黙は嫌だったけど、これ以上何を話したらいいかわからなくて私はとうとう黙り込んだ。私が口を開かなければ零さんは何も言わない。重苦しい沈黙に支配された車内の中で、私の思考はぐるぐると回る。
やっぱり、合コンなんて行かなければ良かったかな。零さんとの関係を続けていく自信が無くなりかけていたのは事実だ。気分転換だなんて言いながら、零さんと向き合うことから逃げていたのは私。零さんは何も悪くない。悪いのはやっぱり、私の方で。

「なんで、合コンなんて行ったんだ?」

ぽつりと零さんが呟く。気付けば、車は零さんのマンションの駐車場で停まっていた。エンジンを切り、シートベルトをはずした零さんがハンドルに腕をつきながらこちらを見ている。

「……気分転換、の、つもりでした」
「なかなか会えない彼氏なんてもういらないって?」
「そ、そんなわけないじゃないですか!」

零さんにいらないと思われているかもしれないと考えることはあっても、私が零さんのことをいらないだなんて思ったことはない。そんな考えに至ることなんて、今までもこれからも絶対にないと自信を持って言える。
好きになったのは、私からだった。私の一目惚れだった。零さんのことがその時から変わらずずっと好きでたまらないのに、いらないだなんてどうして考えるだろう。

「……むしろ、いらないって言われるのは……私の方なんじゃないですか」
「は?」
「私は零さんみたいに立派な大人じゃないし、ガキだし、ちんちくりんだし……なんで零さんが私みたいなのと付き合ってくれてるのか正直よくわからないし、いつだって私の存在は零さんにとって邪魔なんじゃないかって」

開いた年齢差は、一生埋めることが出来ない。追い付きたいと思っても、追い付ける日など来ない。一生懸命大人っぽく背伸びしようとして、物分りのいい彼女になりたくて、それでも私はやっぱりどこか幼稚で……零さんみたいな、かっこいい大人にはなれなくて。
もどかしくて悔しいと思っても、でもだって、どうにも出来ないのだ。願えるのなら、せめてあと五年早く生まれたかった。その五年が、私を立派な大人たらしめるものになるかは、正直わからないけれど。

「少しでも零さんに近付きたいのに、上手くいかない」
「ミナ」

いつしか私の口調は、拗ねた子供のようになっていた。これでは本当にガキでしかない。
零さんの目を見るのが怖くて俯く。名前を呼ばれても顔を上げる気になれなくて、私は鞄を抱きしめる腕に力を込めた。

「俺の愛情が伝わっていないというのは心外だな。君は、自分の気持ちが一方通行だとでも思っているのか?」

伸ばされた零さんの指先が私の頬を撫でる。ゆるりと視線を上げれば、じっと私の瞳を覗き込む零さんがいた。車内は薄暗いのに、零さんの瞳は僅かな光を受けてきらりと輝いている。

「君が悩んでいることくらいちゃんとわかっている。君は僕と付き合い始めたきっかけは自分の一目惚れだと思っているようだが、その他の可能性を考えたりはしなかったのか?」
「その他の……可能性?」
「俺だって、君に一目惚れだったってことだよ」

ふわりと微笑む零さんの表情に、ぶわっと頬が熱くなった。

「う、嘘」
「嘘じゃない」
「だって、有り得ない」
「何が有り得ない?」
「零さんが私に一目惚れなんてするはずない」
「何故そう言い切れる」
「だって、だって零さんは私みたいなちんちくりんに釣り合うような人じゃない。カッコよくてスマートな大人の人で、そんな人がガキみたいな私なんかに」
「君は俺をなんだと思ってるんだ」

混乱した私の言葉なんてさらりと流しながら、零さんの腕が私の後頭部へと回される。優しい力で抱き寄せられて、私は彼の肩口に顔を埋めて目を白黒させることしか出来ない。
よしよし、宥めるように繰り返し頭を撫でられる。

「男である前に、大人である前に、年上である前に、俺だって一人の人間だよ。人間として君という存在に惹かれた。それがわからない?」

私の心に染み込んでくるような優しい言葉に、きゅうと胸が痛くなった。
彼のスーツやシャツから香る、香水とほんの少しの汗の匂い。私の大好きな匂いだ。この香りに触れるのも久しぶりのことで、まるで体が爪先から頭の先まで満たされていくような錯覚を抱く。

「君の不安を払拭出来ないのは俺に原因があるんだろう。でも、俺は君を魅力的な一人の人間として愛している」
「あ、あっ、あい……」
「俺から逃げられると思うなよ?」

真っ赤になった私の顔を覗き込んで、零さんがにっと笑う。ここが薄暗い場所で良かった。でなきゃきっと、耳まで赤くなっているのが丸わかりだっただろうから。
優しいキスが降ってくる。瞼に、頬に、鼻先に。やがて私の唇に辿り着いたキスは甘く、やんわりと啄まれて背中が震えた。
きっとこれからも不安になって、私なんてって思うこともあるんだろうな。零さんはとっても魅力的な人だから、そう思ってしまうのは仕方の無いことなのかもしれない。
でも、零さんが私のことを想ってくれている気持ちは……きっと、信じられる。信じさせてくれると思うから。

「……とりあえず。今後、合コンに行くなら事前に俺に連絡すること」
「え、……合コン禁止じゃないんですか?」
「付き合いもあるだろ?連絡をくれるなら構わないよ。それに、ミナが他の男に目移りなんてしないくらい、俺がたくさん愛すから」

あぁ、私の彼氏って本当に、世界一かっこいいなぁ。