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2025/10/24 ▽春月と桜
春月と桜
ハルトは桜の花びらが舞う中、静かに立っていた。
そんなハルトの姿に、満月は胸をときめかせた。
「綺麗だな……」満月はポツリとつぶやいた。
その呟きを拾ったのか、それとも偶然なのか、ハルトは微笑みながら満月のところに向き合った。
「桜の花びらが舞うと、私は何か新しい始まりを感じるような気がするよ」
「…………それは、きっとハルトがそうだから、だろうな」満月はハルトに向けた瞳が、やわらかな色に染まっていた。
ハルトは、満月の瞳を見つめながら、近づいてきた。彼は満月の手を優しく取り、桜の木の下に誘った。
「一緒に、桜の下で過ごそうよ」
ハルトは満月の耳元で囁いた。
満月は、ハルトの傍にいることが、どれだけ心地よいかを感じた。寡黙な彼は、ハルトの温かな手に握られたまま、桜の下で静かに過ごした。
桜の花びらが風に舞い上がる中で、互いの距離を縮めていった。
しばらくしてから、せっかくの散歩ということで満月とハルトは一緒に公園を歩きながら、桜の木々の下を通っていった。
ひとりで歩くハルトの手はぶらぶらで、満月はその手をいつ掴もうか、考えていた。満月はハルトの事を心から愛していた。
それでも、長年に渡る、大人達の、悪意の無い人間達の無差別な攻撃をひとりでに受けていた満月にとっては、ハルトの手を掴むことすらまだ躊躇を感じていた。
しかし、風が吹くたびに、桜の花びらがひらりと舞って、二人を包み込んだ。二人は桜の花びらに包まれた、幻想的な世界の中にいた。
「綺麗だね。」とハルトは桜を見上げ、本当に心からそう思ったのか翡翠の目をキラキラと輝かせた。まるでハルトが自分の今まで見ていた桜とは違うような反応に、満月は少し不思議そうにしつつも彼の様子を見惚れていた。
「…………あァ」と満月は短く答えた。
「私達のこと、周りの人には理解されないかもしれないけど……シャチョーさんがいるから、全てが輝いて見えるんだ。もう何が来ても怖くないし、シャチョーさんの事は私が守るよ」と言葉を強くし、ふんふんと鼻を鳴らし言った。
そう言われた満月はとても嬉しかったのか、ハルトの手を掴み、強く握りしめた。ハルトは満月の思い切った行動にかなり驚くものの、満月はそのまま続けた。
「オレ達は互いに理解し合ってる。それだけで……オレは十分に幸せ
二人は一際大きい桜の木の下で立ち止まり、お互いを見つめ合った。そこには互いを愛し合う気持ちが満ち溢れていた。
「……シャ……満月……に会えたの……本当に幸せなことだと思う……」
とハルトは少し自信無さげにそう言った。
その代わりに握ってくれた満月の手を優しく包み込むように気づかれないように握りしめ返した。
「…………愛してるよ、満月。私、すごく幸せ。ありがとう」全部、勝手な自分の思いで始めた初恋だったのに、今お互いに愛し合って結ばれているなんて夢みたいだ。
初恋は結ばれない、なんてジンクスを誰かが言い始めたのだろうか。そんなの言ってる人が居たら、嘘だって言いたいくらいに自慢したかった。ハルトはそれくらいに嬉しかった。
「オレも幸せだ、ありがとう……愛してる、ハルト」自分の発言に驚く満月が居た。人に感謝する気持ちがまだ、残っていたことに。それを思い出させ、教えてくれたハルトと出会えたからかと、少し胸が痛んだ。
あまりにも嬉し過ぎて胸が苦しくなる、なんてハルトには到底言えそうになかった。
そして、二人は桜の木々の下、桜の花びらが舞う中で二人はお互いにキスを交わした。
その瞬間、桜の花びらが祝福するかのように満月とハルトを包み込み、彼らは桜の中で愛を誓ったのだった。