私はバスに乗っていた。
とても長閑な田舎道。
右側の座席に座っていた私は、窓の外を眺めた。
見えるのは田んぼばかり。
そのままふと下を覗き込むが、道路は見えない。
きっと、バスが通れるギリギリの道幅なのだろう。
左側の車窓を見れば、たくさんの家々が小さく見える。
そちらは斜面になっており、ガードレールが設置されている様子もない。
バスは穏やかに走り続ける。
今日はとてもいい天気だ。
緩やかな上り坂を進んでいたバスは、やがて終点まで辿り着いた。
どうやら頂上のようだ。
バスを降りると視界に広がるのは、一面に芝生が敷き詰められた広場だった。
安全柵など設置されていない。
一歩間違えれば転がり落ちるだろう。
だが、そんな心配は必要ない。
それにしても本当に気持ちの良い天気だ。
芝生に寝転がって昼寝でもしたいくらいに。
でも、寝過ごしてしまったら困る。
家に帰れなくなってしまうから。
その時、広場の奥に建物が建っていることに気が付いた。
前に来た時はなかったはずだ。
そう、私は前にも一度、ここに来たことがある。
乗客は私だけではなかったようで、数人の人影が建物の中に入っていくのが見えた。
私も自動ドアを潜り、建物の中へと入った。
ここは休憩所のようだ。
入口を入って左側には、ローテーブルとそれを囲むようにして置かれたソファ。
既に誰かが談笑している。
真っ直ぐ進んでいくとコーヒーショップが見えた。
無人ではなく店員がいるようだ。
カウンター内には、きちんと身なりを整えた女性の横顔が見える。
そして、そのさらに奥にはゲームセンターだろうか。
きらびやかな照明と、様々な音が聞こえていた。

さて、どうやって時間を潰そうか。
コーヒーを飲みながらゆっくり過ごすのも良いが、今は飲みたい気分ではない。
かといって、ゲームセンターで遊ぶ気にもなれない。
ふと右側を向くと、2台の自動販売機とトイレが見えた。
バスの運転手が、ちょうどトイレから出てくるところだった。
私は運転手に歩み寄り、帰りのバスの出発時間を尋ねた。
暇を持て余していたのは私だけではなかったようだ。
運転手の周りには3,4人程の人が集まっていた。
濡れた手をハンカチで拭きながら“まだ出発までには時間がある”と言う運転手に着いて歩きながら、私たちは建物を後にした。
隣を歩く女性と何気無い会話を交わしつつ、広場を横切っていく。
バスまで戻ってくると、そのまま車内へと乗り込んだ。
バスの中で一眠りすることにしよう。
そうすれば、乗り遅れる心配もない。
そう決めた私は、座席に座り静かに目を閉じた。

[2015年1月〜3月の間]

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