私は少年から話を聞いていた。
長めの髪を上方でひとつに纏めた、顔立ちの良い少年。
年齢は中学生、高校生くらいだろうか。
彼は、現状に至るまでの経緯を話してくれた。

事件は彼の携帯に掛かってきた一本の電話から始まった。
それは知らない男からの電話だったらしい。
内容は『いつも君のことを見ている』といった気味の悪いもので、彼のストーカーではないかと思われた。
彼が電話をしている最中、階下からガラスの割れる音と母親の悲鳴が聞こえてきたそうだ。
急いでリビングへと駆け付けると、そこには血を流してうつ伏せに倒れている両親の姿があった。
広い一本道に面した窓ガラスは、外側から何かを投げ入れられたかのように割れていたらしい。
何故2人が血を流していたのかは分からない。
しかし、彼の両親はそのまま息を引き取った。

そして身寄りのなくなった彼は、牧場経営をしている近所のおじいさんの家でお世話になることとなった。
血の繋がりはないが、おじいさんは彼にとても良くしてくれたそうだ。
おじいさんは二十歳過ぎの孫娘と一緒に住んでいた。
彼女もまた、本当の家族のように優しく接してくれた。
彼には友人もいた。
特に仲の良かった2人の友人は、あの事件があった後も、今までと何ら変わらぬ態度で接してくれた。
毎日のように彼の家まで迎えに来ては、くだらない会話を楽しみながら学校へと向かう。
そんな平凡な毎日が続いている、ように見えた。

しかし、実際はそうではなかった。
彼は、あの事件の日に掛かってきた電話の事、電話の最中に起こった出来事を、おじいさんと孫娘に話していたのだ。
その話を聞いた2人は、彼に協力して犯人を探し出すことにした。

毎晩、皆が寝静まった夜中に出掛けては犯人を特定するための証拠を探す。
場所はどこでもいい。
心当たりのある所をすべて探すのだ。

平凡に見えた毎日の裏で、そんな日々が続いていた。

そこまでの話を聞いた所で、私の脳裏にある人物が浮かび上がった。
多分この人物が犯人で間違いない。
しかし困ったことに、はっきりと覚えていないのだ。
確かに何処かで会ったはずなのだが…
ぼんやりと浮かぶ犯人像を探し出すように、私は自らの記憶を順に手繰り寄せていった。

[2016年1月10日,自宅にて昼寝中]

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