そこは真っ白な部屋だった。
床も壁も天井も白一色。
窓や扉も見当たらない。
私は一体どこから入ったんだろう?
部屋の角が見える。
きっと四角い部屋なのだろう。
少なくとも円形ではないはずだ。
私は、真っ白な部屋の中央に一台のピアノが置かれていることに気が付いた。
部屋の色とは対照的に、真っ黒なグランドピアノ。
何故か気になってピアノへと歩み寄っていくと、いつの間にか青年が座っていることに気が付いた。
全体的に色素が薄く、どこか儚げな雰囲気を持った青年。
白い入院着を身に纏い、身体中に巻かれた包帯が痛々しい。
包帯の隙間から僅かに見えた彼の肌は、今まで一度も日の光を浴びたことが無いのではないかと思うほどに白かった。
灰色をした彼の片目が私に向かって微笑みかけた。
何を話したかは覚えていない。
ただ、彼は始終嬉しそうだった。
どれくらい話し込んでいたのだろう。
そう長くはなかったと思う。
彼は、私のためにピアノを弾いてくれると言った。
私は彼の傍らに立ち、ピアノの音色に耳を傾けた。

[大学時代,自宅にて]

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