やわ肌の あつき血汐に ふれも見で 寂しからずや 道を説く君



放課後の教室は、廊下をたまに通る人間がいなければ昼間の喧騒からは想像もできないほど静かだ。

「ねえ知ってるー?」

本部に行く前に終わらせようと英語の課題に取り組む荒船は、正面から飛んできた言葉に顔をあげる。椅子を漕ぎながらシャーペンを回すミョウジと目が合った。

「会長と綾辻ちゃん、付き合ってるんだってえ」

妙に間延びした喋り方はミョウジの癖だ。最初は気にかかることもあったが、もう慣れた。

「単なる噂だろ。二人とも否定してたぞ」
「へえ。そーなんだあ」

自分から話を振ったくせに興味なさそうな相槌。その目が自分を通り越して何かを見ているように感じて、荒船は課題の邪魔をしてくる意趣返しをすることに決めた。

「嫉妬か?」

目の前の女が今しがた話題に上がった男の方を好いているのはわりと有名な話で。

「アハ」

ミョウジが笑う。口を開けて、口角を上げて、白い歯の奥に赤い舌が蠢くのが見えた。そこに光る銀色がチラチラ光を反射する。

「会長は私のものじゃないのに、どうして嫉妬できるのお?」
「嫉妬に相手との関係は影響しないだろうが」
「確かに〜」

何が面白いのかケラケラ笑うミョウジの手元の課題はもう終わってるのが一番腹立たしい。しかもミョウジはA組で荒船たちB組に課されたものよりも少し多いのが、また。

「私はねえ、ただ、私だって同じくらいの距離でいたのに、噂にならなかったなあって」
「まごうことなき嫉妬じゃねえか」
「そっかあ」
「つーか噂になりたかったのかよ」
「お似合いだねーって言われたらその瞬間だけでも嬉しいじゃ〜ん」
「…虚しくね?それ」
「虚しいよお」

なんというか、負け犬根性ここに極まれり。ハナから付き合えるだなんて考えてすらいない態度は荒船には理解できない。彼は自分の望むものを手に入れるためにキチンと計画立てて実行してフィードバックして修正していく特技があるから。

「さっさと告れよ」
「やだあ、荒船くんてば恋バナしたいのお?」
「茶化すな。俺課題終わってねえからちょっと黙ってろ」
「そんなの五分で終わるよお。教えたげよっかあ?」
「………」
「無視よくなぁい!」

わーわー喚く声は無視して荒船は課題を終えることにした。優秀なやつのダル絡みほどめんどくさいものはないし、この女の思考回路はさっぱり理解できないので荒船に有用なアドバイスはできない。


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