Triangle -1-

政宗と同じ年に生まれたかった…。


私は今日何度目かの溜息を吐いた。

幼馴染の政宗は、幼い頃から私を姉のように慕ってくれて。
5つ年上の私は、そんな政宗を可愛がり、勉強を見てあげていたりしていた。
少し生意気な政宗は幼い頃から顔立ちが整っていて。

成長するにつれ、幼さが抜けていき、精悍な顔立ちになっていく政宗に惹かれるようになるのに長い年月がかかったけれど。
政宗が成長するにつれ、次第に惹かれていくことに私は怯えた。

だって、政宗は、私のことをお隣のお姉さんくらいにしか思っていないもの。


その予感は見事的中した。


今年、いつものように、二日参りへ誘いに家を訪れた政宗の隣りには。
とても綺麗で可愛らしい女の子がいた。
政宗と同じくらいの年頃の。
ううん、もしかしたら年下かも知れない。
その後ろに、がやがやと政宗と同じくらいの年頃の男の子達がいる。


もしかしたら、その子も、後ろにいる男の子達と同じようにただの友達なのかも知れない…。

そう思ってみても。
政宗がふとその子を見遣る視線がとても優しくて。

ああ、あの子は政宗の特別なんだと思い知らされた。

ずっと、優しくて時に生意気な視線は私に向けられていたのに。
政宗を手放す日が来たのだと。
祝福してあげなければならないのに。
どうしようもなく寂しかった。


「Hey, 仄香、二日参り行くぜ。お前がいねぇと落ち着かないから誘いに来た」
「何それ。お友達と行ってくればいいでしょう?」
「俺はお前と行きてぇんだ」

後ろから冷やかしの声が上がる。
隣りにいる彼女もくすくすと笑っている。
けれど、その瞳の奥に少し寂しげな色が見え隠れして、私はやるせなくなった。

政宗…。
その子を大事にしたかったら、私なんて誘ったらダメだよ…。

「おおっ!!あんたが噂のお隣のお姉さんか!独眼竜から噂は聞いてるぜ!」
「まるで政宗殿の姉君のような御方だとか!!お噂はかねがね!某は真田幸村と申す!」

異様なほどのテンションについて行けなくて、ああ、私も年を取ったな、としみじみ思う。

「政宗の大学のお友達?」
「おうよ。俺は長曾我部元親だ。暇なら俺たちと二日参り行かねぇか?」
「まあ、暇と言えば暇だけど…」

だって、私は政宗を待っていたから。
去年と同じように。

去年は、政宗の合格祈願を兼ねて、小十郎も一緒に二日参りに行った。
今年もまた三人でって思っていたけれど。
時の流れはあまりにも無情だ。

「じゃあ、行こうぜ。独眼竜の噂の初恋のお姉さんとゆっくり話がしたかったんだよ」
「Shut up!!その話はするんじゃねぇ!!」

政宗が薄っすらと頬を染めて叫ぶ。
『初恋』との言葉に胸がきりきりと痛む。

政宗が好意を向けてくれているのは知っていた。
でも、それは幼馴染だから、と。
きっと姉のように慕っているだけだ、と。
5つも年が離れているのだから、政宗を受け入れたらそのうち捨てられる、と。
そう思って、ずっと気付かない振りをしていたのだから。

そして、今年、私の予想通りに。
政宗に、彼女が出来た。

ただの幼馴染の関係ですらこんなにやるせないのだから。
きっと、政宗の想いを受け入れていたら、その傷はもっと深く。
立ち直れないほどに残酷に私を傷つけただろう。

だから、これでよかったんだ…。



元親と幸村に交互に話しかけられながら、神社への参道を歩く。
二人とも、とても真っ直ぐでいい子達だ。
政宗の友人に相応しい。
政宗にこんなにいい友達が出来て本当に良かった。

それが嬉しくて、表面上は笑っていたけれども。
私の前を仲が良さそうに歩く、政宗と女の子の姿が目に入る度。
胸の奥が重たく苦しくなっていく。

私も早く政宗から卒業しなくちゃ…。


神社の参道はものすごく混んでいて。
私達は参道にある屋台に入った。

「おでんを食べながら、ビールが飲みてぇな」
「政宗、親父っぽいよ。未成年はビール駄目」
「いつも正月、一緒に飲んでたじゃねぇか」
「ここは家じゃないんだよ?補導されたらどうするの?」
「Ha!!高校生じゃあるめぇし。お前さえ黙ってれば何も問題はねぇ、you see?」
「はぁ、仕方がないね」

私が呆れたように首を振ると、政宗はニヤリと笑い、ビールやらおつまみやら注文する。
乾杯をして、ひとしきり飲むと、私は外をぼんやりと眺めた。

喧騒が遠くに聞こえる。
政宗達の輪の中にいても、私だけ隔絶された気分だ。
これがジェネレーションギャップ?
私は盛大に溜息を吐きたくなって、席を立った。

「Hey, where are you goin'?」
「大人の事情」
「煙草か?」
「そうよ」
「じゃあ、俺も」
「政宗は駄目」

政宗が隠れて煙草を吸っているのは知っているけれど。
そんな政宗を普段は大目に見ていたけれど。
でも、今、私は一人になりたかった。

「近所の目があるでしょう?お酒は大目に見てもらえても煙草は駄目だよ」
「チッ、分かった。すぐに戻って来いよ」
「戻って来られればね。はぐれたら、私は気にせずにお参りしてらっしゃい」


私は外へ出て大きく深呼吸した。
肺がきりきりするほど、空気が冷たい。
私はその場から一刻も早く離れたくて。
足早に喫煙所に向かった。

ポケットから煙草を取り出して火を点ける。
煙を肺いっぱいに吸い込んで吐き出すと、やっと、先ほどまでの緊張が少し緩む。
それでも、冷たい空気はきりきりと胸を締め付け。
政宗への想いと。
この凍えるような冷たい空気と。
どちらが一体より胸を締め付けているのか分からなかった。

あまりの胸の痛さに。
そして、緊張が解けたせいもあるのか。
何だか、ものすごく悲しくなって。
目の奥がじんとする。

「おい、何て顔して煙草吸ってやがる」

俯き煙草を吸っていた私の肩にぽんと大きな手が置かれた。

「小十郎…?何で…?」

顔を上げると、小十郎が呆れたような顔で私を見ていた。
prev next
しおりを挟む
top