お久しぶり、お元気そうで。
家族と縁を切るように、逃げるように曲がった私は7年前に実家の辛気臭い寺を飛び出した。
昔、仲の良かった年上の友達も大分前に実家を出て都会で " 働いて " いるらしい。
無造作に何時もカバンに入っている5年程前の求人募集の冊子は表紙が取れ、私の荒んだ青春を表しているようで笑えてくる。
当時、高校を中退した私が二束三文で無けなしの貯金を崩して引っ越した味玉県は思ったより都会で街行く人が苦しそうだった。
夕方から閉店に掛けてのスーパーのレジ打ち、深夜のコンビニ、深夜の牛丼屋、あと1回だけ風俗…etc。
どれも合わずに辞めては面接、辞めては面接を繰り返したのだから自分の人間性を疑う。
そんな中だ、その日も私はフラフラとそろそろ飽きたホームセンターのバイトの帰り道に夕飯である缶コーヒーを片手に駅周辺の雑踏を歩いていた。
「おや、そこの貴女…憑いてますねぇ。」
だなんて何処かで聞いた声が聞こえたのだから人混みの中を缶コーヒー片手に阿保面で振り返る。
「新隆…? 」
『竜頭蛇尾』と何故かプリントされた文字Tシャツに履き古したスキニーパンツで目を丸くする阿呆みたいな間抜けな私の姿に彼は、
「24にもなってその髪型は似合わねーぞー?てか、竜頭蛇尾ってお前…意味分かって着てる?」
と小言を挟んでは近付いて来る。
「まあ…久しぶりだな、懐夏。見た顔だと思って話し掛けたんだが、マジでそろそろ本気で死にそうな顔してるぞ。精神疲労にうってつけのマッサージ、Bコースをオススメする。」
顔見知り料金で、と付け足し私の顔をマジマジと見る新隆に変わりは無かった。
「余計なお世話。第一に明日の飯さえ不安な訳だしそんな余裕は無いよ。 新隆はサラリーマン?」
羨ましいったら、本当に。
私が明日のご飯は固形物を食べられるかどうかの心配をしている中で毎日コンビニのお握りを買えるんだろうな。と思うと尚さらに。
「違ぇよ、去年辺りから事務所経営を始めてる。」
「てっきりその良く回る口で出世コースを歩んでいるのかと。 でも、ちゃんと仕事があるだけマシ…私は自慢じゃないけどこっちに来て7年間、定職に就いた事何て無いんだからさ。」
新隆は顎に手をやり何やら考えていた、空になった缶コーヒーの軽さは新隆に会ってリフレッシュされた私の心のようだった。
「お前、俺より4つ下だから24だろ?7年って事は17でこっちに来た訳で…」
「そ、高校は中退。 家族とは一切連絡もして無いし…もう本当に1人なんだ。」
段々何だか悲しくなってきた、月の手取りの半分以上が家賃と保険と税金に持っていかれて残りは食費やら消耗品へ消えて行く。
私のポケットマネーは樋口一葉のみで、そりゃまあ…学生当時は大金だったのだけれど都会を生きる大人にとっては厳しいものだ。
「ふむ、つまり! 懐夏は職にも金にもそして飯にも困っている訳だな? 幸い、実家が寺…実家が住職の奴が従業員となると信頼性にも繋がる。」
ガシ、と肩を掴まれる。ああ…これはつまり…
「つまり、私に新隆の事務所で働けと?」
溜息混じりに見つめれば新隆は採用!と私にメールアドレスと粗方の職務内容が書かれた名刺を渡す。
「うおっ…と、いけね。 モブ待たせてるんだわ。 そんじゃ、明日の夕方5時に事務所に来てくれ。」
駅前の雑踏が学生やら定時で帰宅するサラリーマンやOLで益々溢れてきた。
私は胡散臭い名刺を見つめ、改札に向かう。
霊とか相談所…か。 霊 "とか" って何だろうな…。霊以外…妖怪とか? ああ、そうだ。メールアドレス入力しとかないとな…。
「あ、」
遂に電話が止められた。 こりゃ働くしかない。何故だろうか、久しぶりに会ったからだろうか。 新隆を見ると不思議な気持ちになる。
この人の為なら頑張りたいな、とか。
この人となら頑張りたいな、とか。
私は真っ暗な携帯を閉じて電車に揺られる。
Suicaのチャージと携帯の代金の支払い、来月はできるかな…とか考えて。
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