白影に滲む視線 // ep.03
青年の報告を聞いて、飛燕は腹を抱えて笑い出した。
彼の報告は至ってシンプルだった。
『俺は不死だ。後天的にこうなったけど、理由は知らない。気付いたらこうだった』
説明書を読み上げるような単調な口調で、彼は告げた。どこか他人事で──興味がないと言わんばかりの調子で。
飛燕がねえやに青年について調べさせたとき、彼の情報は簡単に掬い上げられた。情報屋としての顔は巧妙に覆い隠されていたが、青年自身の素顔は驚くほど無防備だった。これなら、美咲でも容易に調べられるだろう。
本名。生年月日。家族構成。出身校。交友関係。
唯一不明だったのは、その体質──背中を撃たれても平然と立ち上がるという特異性だった。
青年がヴァリアントかどうかなど、飛燕にとってはどうでもいいことだ。忌避する者もいるが、飛燕からしてみれば些末なことであり、むしろ中立的な立場だ。凰龍会もそうだろう。
それに、飛燕が青年に依頼することはない。外部を頼るまでもなく、飛燕にはねえやがいる。『情報屋』を本職としている青年に劣ったとしても、飛燕に必要な情報であれば、ねえやでも十分調べることができる。
「ふふ、はは……うん、そうなんだ。ありがとう。教えてくれて」
笑いの余韻を残して、飛燕は目尻に溜まった涙を指で弾く。
「どこまで俺について調べたのかはわかりませんが、これについては、特に隠しているつもりもないので」
「そうなの? 聞く人によっては、見過ごせないような内容だと思うけれど」
「──だとしても、俺みたいな一般人が死ななかったところで、どんな影響があるっていうんですか?」
冷え切った青年の視線が、飛燕に向けられる。怒りも、敵意もない。ただ、そこには熱がなかった。
「俺はただ、死ねないだけですよ。利用したいやつがいるのなら、すればいい」
「利用する人間なんて、世の中には君が思っている以上に大勢いるよ。しかも、ろくでもない連中がね」
「灼以上の変態がいるなら、連れてきてくださいよ」
大仰な仕草で青年が肩を竦める。
「ほら、恭。起きろ。帰るよ」
となりですっかり眠ってしまった恭の額を指で弾いて起こす。
恭は小さく抵抗するような声を漏らして、ゆっくりと目を開けた。
「ああ、そうだ。君の話はわかったけれど、その子は? 彼女も、ヴァリアントとは違うようだけど」
ソファから起き上がり、両手を天に伸ばして身を解す恭を見る。
「……さあ。俺も詳しいことは」
「水瀬ちゃん自身も知らないんですよう。けど、そうですねえ。ひとつわかってることと言えば」
恭は飛燕を見つめて、口角を擡げた。
「既に、死んでるってことくらいですかね!」
その場にいたのは、死を拒む青年と、死を越えた少女だった。
§
「──というわけだから、説明は終わった……え? ああ、本当に俺の体質が知りたかっただけみたい」
カーテンを閉め切った自室。青年はデスクチェアの背凭れに深く身を預けていた。肩と耳でスマホを挟み、空いた手で煙草を取り出してくわえる。
視線の先にあるソファには恭が座っていた。帰り際にメイドから貰った土産を広げ、もう口に運ぼうとしていた。
「それ以外は興味がないんじゃないかな。十束にとって俺なんて、羽虫程度でしょ」
自嘲でも卑下でもなく、事実であるかのように淡々と口にする。
「『情報屋』なんて、そんなもんだよ」
ジッポの蓋を開き、煙草の先端を近付ける。赤く燃え始めた先端を見つめながら、肺いっぱいに煙を吸い込んだ。
「あ、もう! いっくんってば、すぐに煙草吸うんですから! そんなんじゃ早死にしますよう?」
「できるものなら、してみたいね」
電話口から聞こえる声に被せるような、恭の声。咎めるような言葉に、青年は軽く視線を向ける。
口から白い煙とともに、乾いた笑みが漏れた。青年さえも意識しない感情が滲む。
それは、諦念にも似た、己の人生を嘲るような色だった。