Mythogenesis-XIII Eschaton Codex: Mira



 明日を信じていた。
 だれにも当たり前に来る、明日というものを、信じていた。
 
 真っ白い部屋。わたしのために誂えられたその空間は、人が暮らす部屋と呼ぶには無機質で、清潔すぎた。病院の無菌室のような、どこかの収容施設のような──もしくは、そう。まるで、人形を飾るガラスケースのような印象さえある。壁はガラス張りなんかではないし、こちらを覗く窓さえもないけれど、それくらい、この部屋は整いすぎていた。
 この部屋に足りないものはなかったのだろう。わたしが望むよりも先に、様々なものを与えられていた。洋服も、アクセサリーも、宝石も、ぬいぐるみも、何もかも。
 この部屋にないのは、きっと『生活』だ。
「オーレリア、欲しいものはなんでも言ってね」
 愛しむように彼は微笑んだ。わたしの頬を撫でて、甘く蕩けるような声で告げる。
 エイミーはわたしを愛していたのだろう。娘のように。恋人のように。愛玩動物のように。人形のように。もしくは、彼が標とする象徴のように。
 わたしは彼の信仰だった。わたしは彼の天使だった。わたしは彼の、神様だった。

「ねえ、エイミー」
 彼は答えない。わたしを見ない。
「エイミーは、ほんとうに、『わたし』を愛していた?」
 後悔に似たような感情を抱いて、持て余す。

 ねえ、エイミー。
 もっと、あなたとお話をしていたらよかったのかな。
 もっと、あなたの名前を呼んだらよかったのかな。
 もっと、あなたのことを見ていたらよかったのかな。

 明日を信じていた。
 その明日が来ることが、彼にとってのしあわせだと思っていたから。

 ねえ、エイミー。
 わたしがあなたの神様だというのなら、どうして、あなたを掬いあげられなかったのかな。