隣で動く気配を感じて、目蓋を押し上げる。僅かな気怠さに眉が寄った。
 カーテンが開かれることはもちろん、部屋の電気さえつけないところからするに、嘉月くんは俺がまだ寝ていると思っているらしい。
 何度か瞬きをすれば、薄暗い部屋に目が慣れてくる。嘉月くんが手元の明かりに、スマホの画面を点けたのもあるかもしれない。
 今が何時かはわからないけれど、朝ごはんにはまだ早いんじゃないかな。眠気で上手く頭が回らない。こちらを確認する気配がないことから察するに、俺を起こすような何かではなさそうだ。二度寝してしまおうかと考えながら、ぼんやりと嘉月くんの背中を眺める。
 俺の視線に気付かないまま、嘉月くんがベッドから抜け出した。
 そのまま部屋を出ていくと思っていたのに、なぜか、嘉月くんがその場で立ち止まった。どうしたのだろうと思ったところで、僅かに嘉月くんの影が揺れる。どうやら、床に散らばっているシャツを足で拾ったらしい。こういうところ、嘉月くんって意外と雑だよね。俺のシャツであれば皺になるだとか気にするのに。それどころか、セックスの前だって言うのに、わざわざハンガーにかけようとするほどだ。そのために安っぽいスーツをわざわざ着てあげたこともあるが、懐かしむような思い出でもないな。
 遠ざかる足音と、扉の開く音を聞いて、緩く目を閉じる。
 日常の些細な所作というのは、ふとした瞬間に表に出てしまうものだ。どれだけ体裁を整えようと気をつけていても、さり気ない癖を隠しきるのはそう簡単なものじゃない。指先の動きひとつコントロールしなくてはならないホストなんて職業についていればなおのこと、何気ない言動ひとつで姫の夢を壊しかねない。もし、それをギャップと捉えて姫がときめくなんてことがあるのだとしたら、キャストの計算だ。無自覚に、無意識に、なんてありえない。
 俺たちホストの言動というものは、全てが計算でできている。ふとした瞬間に見せたと思わせる素でさえも。
 裏返すと、計算でなくてはならないのだ。隙に見える表情や仕草も。
 けれど、癖というものは、自分が自覚している以上に隠せないものだ。だとすならば、どうすればいいか。常日頃から、己の振る舞いを意識しておけばいい。完璧であるというのは、そういうことだ。
 嘉月くんはホストには向かないだろうななんて、詮無いことを思う。振る舞いだけではなく、性格的にも、向かないだろうけどね。