ただっぴろい教室に、疎らに人影がある。不規則なようで、意外と規則性がある。仲良しグループでまとまっている生徒たちと、ひとりだけで席に座っている生徒。どちらがよくて、どちらが悪いということもない。
 講義という名目である以上、自分の仕事を邪魔さえされなければそれで構わない。黒板にチョークを走らせ、手元の資料に視線を落とす。真面目な生徒はいい。真剣に板書をし、必要な資料を読み込んでいる。質問をする姿勢も、好ましいものだ。己の好奇心に従い、欲を満たすために知識を欲する姿というのは、思考することできる人間として、ある種正しい姿だろう。己を支えてくれる助手とは違い、テンポがズレることは多々あるものの、咎めるようなことではない。彼が合いすぎるのだ。己の、リズムに。
 小虎の説明を遮るように、教室の端から下卑た笑いが聞こえる。不愉快そうに眉を寄せ、視線をそちらへ向ける。黒板はもちろんのこと、小虎の方さえ見ず、彼らは顔を見合わせて笑い合っていた。視線を落とす先が一ヶ所に定まっているところからして、スマートホンかなにかを見ているのだろう。
 その小さな機械のおかげで、随分と便利になった。その反面、こうした不具合も起きる。
 人間は完璧な生き物ではない。欠点も多く、こうした乱れも多い。
 浅く、息を吐く。冷ややかな視線を彼らに向けて、小虎はゆっくりと口を開いた。
「それは、俺の話を遮るほどに有意義な情報をくれるのか?」
 空気が重く、落ちる。騒ぎ立てていた生徒たちの目線が、小虎に向けられる。視線を合わすことなく、小虎は再度、同じ調子で言葉を紡いだ。
「俺にも聞かせて欲しいな。遮るほどに、有益な情報なんだろ?」
 緩やかに、静かに言葉を落とす。静寂が、広がっていく。
 誰も、口を開かなかった。生徒たちも息を飲み、隠すように手を背に回す。
 そうするくらいなら、最初から騒がなければいいものを。最後に一瞥を投げて、小虎はすぐに意識を切り替えた。