青い季節

夏休みといえばきっと全国の学生が待ち望んでいるはずだが、部活漬けの毎日を送るのには変わりない。まして強豪テニス部の正レギュラーともなれば尚更のことだ。

かいた汗を流そうとテニスコートから水道へ向かう。出来るだけ日陰を通って。疲労感は勿論あるが不思議と爽快感がある。きゅ、と蛇口を捻ってまだ微温いままの水にも構わず口をつける。じわじわと体の内側から温度を一瞬だけ下げていくのを感じていると、

「あ」

少し距離を開けたところから漏らされた小さな声が耳に届いた。顔を上げると見知った顔がある。

「桃城じゃん、お疲れ様」

「おーす、湊じゃねーか。お前も休憩中?」

「ううん、みんなが練習してる間にボトルとか洗おうと思ってさ」

彼女が抱えたカゴをほら、と軽く掲げる。桃城は知っていた。ウインドブレーカーに隠れた彼女の足にはきつくサポーターが巻かれ、今夏には試合に出られないことを。同時にそれが努力してベンチ入りを果たした筈の彼女の夏の終わりを告げていることを。

押し黙っているとそれを察したのか、

「……まぁ、今できることはこれぐらいしかないし。私も先輩たちのこと応援したくて」

と下手くそに笑って、隣でドリンクボトルを洗う。

彼女はいつもそうだ。笑いたくなくても無理をして笑っている。今だって本当は自分もコートに立ちたいと思っているはずなのにどうして。

「お前さ、」

「ん?なに?」

「……あんまり無理して笑ってんなよ。他人に嘘つくのもよくねぇけど、自分に嘘ついてんのはもっとよくねぇな……あぁ、よくねぇよ」

湊の顔が見られなかった。蛇口を締めるのが甘かったのか緩く流れる水を眺めていた。

「……ごめんね」

「なんで謝るんだよ」

「あ、そっか……じゃあありがとう」

声の柔らかさにつられて目線だけ向けると、困った顔をしてまだ笑っていた。目は何処か遠いところを見ていた。

「気をつけるね」

「……おう」

今までよりいくらか柔くなった表情が目に焼き付いたまま、じゃあね、と心做しか足早に立ち去る後ろ姿をただ見送った。

(自分に嘘ついてんのはもっとよくねぇな……あぁ、よくねぇよ)

言われた言葉が脳内で反芻されていた。上手く笑えていないことはわかっていた。でもどうしてかはわからなかった。自分の気持ちって何?そんなこともわからないまま、わかろうとしないまま過ごしていたことを突きつけられて動揺した。桃城はすごく正しくて、正しくて……だからこそ眩しくてまっすぐ目を見られない。

(……次会う時、どうやって笑ったらいいんだろ)

自分の頬に触れて、少し息をついた。

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