想い出いっぱい詰め込んだあたしたちの宝箱。
十年後、それを開ける時がきたら、きっと。
『タイムカプセル』
「シカマル、お誕生日おめでとー!」
「いの!」
「シカマルー、おめでと!」
「チョウジ!ふたりとも、ありがとな」
九月二十二日。
今日はシカマルの十回目の誕生日。毎年恒例になりつつある合同誕生日パーティー。親たちも皆集まって行なわれるため、毎回どんちゃん騒ぎになる。予てから、自分たちが飲みたいがために何かと理由付けして集まっているようだが。結局、ケーキを皆で食べた後は、主役の子供達そっちのけ。父親たちは飲んで騒いで、母親たちは世間話に夢中だった。こんなことは慣れっこだった いのとシカマルとチョウジ。いつものように三人でシカマル家の縁側で遊ぶことになった。
「あたしたちもう十歳になったのよねー」
「いのは明日だろーが」
「何よぉーたいして変わんないじゃない!ねえねえ!それより!」
いのは目をキラキラと輝かせながら、美味しそうなお菓子のイラストが描かれている四角い缶を持って来た。さっそく缶を開けてみるが中身は空。お菓子が入っていない事を確認すると、なあんだ、と肩を落とすチョウジ。
いのは、シカマルの部屋から当たり前のように慣れた手付きで紙と筆記用具を持って来た。そんないのの様子を見て、シカマルは顔を顰め、チョウジは首を傾げた。そんな二人の反応を見て、いのは得意気に言う。
「歳が二桁に突入!ってことでー、記念にタイムカプセルしましょー!」
「はあ?」
「タイムカプセル?」
眉間の皺を深くするシカマル。こんな顔をすると、ただでさえジジクサい雰囲気がさらに老けて見える。そんな顔に吹き出しながらも、いのは続けた。
「知らないの?タイムカプセル!自分や誰かに宛てて手紙を書いたり、宝物や想い出になりそうなものを、箱に詰めて土に埋めるのよー。そして何年か後にそれを取り出すの。」
「へえ〜」
「…で?それをやろーってことか?」
そうよ!と、満面の笑みで胸を張って言ういの。思わず溜め息が漏れる。そして、めんどくせ、といつもの口癖。
「なによお!いいじゃない!ねえ?チョウジー」
「うんっ!面白そう!」
ほらあ、と顔を向ける。二対一では自分の負けか、と諦めて渋々紙とペンを受け取るシカマル。この三人で多数決を取るといつもだいたいこのお決まりの結果に、シカマルは慣れていた。
「じゃあさっ!十年後のまたシカマルの誕生日に堀り出そーよ!手紙の内容は、十年後の自分!」
隣りからまためんどくせ、と聞こえた。横目で盗み見てみると、ペンを回しながら白い紙と睨めっこしているシカマルがいる。そんな横顔を肩に感じながら、はにかむ いの。その反対側を見てみると、笑顔で一生懸命書いているチョウジ。その口元からは今にもよだれが垂れそうで。相変わらず食べ物のことを想像しながら書いてるのかしら、と思わずこちらまで笑みが零れる。そして、自分の手元にある白い紙にペンを走らせた。
『十年後のわたし。
十年後のわたしは、上忍になって一流の くのいちになっています!誕生日パーティーするときに、チョウジに美味しいものをごちそうできるように料理上手になってます!
あと、シカマルと結婚して、わたしたちの花屋でたくさんの花に囲まれながら、毎日幸せにくらしています!
絶対、絶対です!』
いのが満足気にペンを置く頃、二人も書き終わっているようだった。
「シカマルー、なんて書いたのー?」
「ばーか、教えられっかよ」
「あっ!バカって言ったー!ひどーいっ」
「ボクね、世界中の美味しいものを食べてるって書いたよ」
「チョウジ…言ってどうすんだよ…。十年後の楽しみにすんのに」
ああっ!そうだった、と焦って書き直そうとするチョウジ。そんな様子を笑いながら見つめるいのとシカマル。
三人分の手紙。
三人で撮った写真。
大切にしていた押し花の栞。
小さい頃から読んでいた将棋の本。
ポテトチップス…を入れようとしてまたシカマルに怒られるチョウジ。そんな様子を見て、やっぱり笑う いの。
いつまでも、こうして笑い合っていられたら。どんなに幸せだろう。
十年後も、その先も、ずっと、ずっと。
『十年後のおれ。
十年後おれは、相変わらずチョウジと縁側で雲見ながらぼーっとしてる。
それから、めんどくせーけど、いのを守っていけるくらい強い男になってる。』
この手紙を読むことができるのは、十年後のこの日、この場所で。それぞれの想い出をいっぱいに詰め込んだ宝箱。
十年後、それを開ける時がきたら、そのときは、きっと───。
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2010.07.29
Gleis36