新緑の季節がやってくる頃。君は毎年こう言う。
「いい加減、衣替えしなきゃなあ」
面倒くさがりの君は、ギリギリまで薄手の秋服で春をやり過ごそうとする。春には不似合いの、少し暗めな印象を感じさせる服装を身に纏いながら。
「ほら、衣替えしたとたんさ、寒くなったりするじゃん?だからギリギリまで待つの」
それにしてもギリギリ過ぎるのでは。いやむしろ、ギリギリどころか完全に出遅れている気がするが。怪訝な表情を浮かべている自分の腕を引っ張りながら、君は言った。
「どしたの大野くん。黙っちゃってさ」
「…暑苦しいぞ、さくら」
「あ、この服装?いいじゃんいいじゃんプップクプー」
「いつのネタだよ」
君の手をとると。案の定うっすらと汗ばんでいた。
そら見ろ、という言葉が喉まで上がってきたがかろうじて飲み込んだ。その代わりに半眼の粘るような目つきを送ってやる。その視線に耐えられなかったのか、君は慌てて誤魔化すように言った。
「あははっ、今日暑いねえ〜。アイスでも食べよっか?」
「お前、いくつだよ…」
とうとう溜め息を漏らしてしまったではないか。
衣替えをギリギリまでやらない君。
いつでも笑顔でいて、自分の事を元気付けてくれる君。
いくつになってもアイスとか、お菓子とか、そういう類いのものに目がない君。
自分の半歩後ろを歩く君。
───きみのぜんぶを、すきになったおれは。
「さくら」
「うん?やっぱアイス食べたいの?」
「俺と暮らしたら、衣替えサボらせねえからな」
───きみを、いっしょう はなさないだろう。
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2011.05.24
2021.04.04加筆修正
Gleis36