───夜明けと共に、平和がやってきた。
ディアボロモンの逆襲は、失敗に終わったのだ───。
司令塔でもあった光子郎は、徹夜明けで疲れきってしまい、パソコンルームの机に突っ伏して、そのまま眠りについてしまった。
ミミは悪戯な笑顔を浮かべ、その辺に置かれていたテキストやファイル、本などを光子郎の頭に積み重ね始めた。
タケルとヒカリは「ミミさんったら…」と呆れながらも、柔らかく笑って、その様子を見守っていた。
「それじゃあ私たち、お兄ちゃんのところに行きますね」
「光子郎さんのこと、宜しくお願いします」
「OK〜♪」
ミミに軽く会釈をして、タケルとヒカリはお台場中学校を後にした。
取り残され、退屈になったミミは光子郎の頭に積み上げられた本たちを見つめる。もう少し積み上げようかと思ったが六、七冊あたりでやめておいた。
ふと光子郎の顔に目をやると、とても安らかな顔で整った寝息をたてている。余程疲れているようだ。起きる気配すらしない。
「そりゃそうよね…ずっと神経使っていたんだもの…」
光子郎の気持ち良さそうな寝顔を見ていたら、何だか自分まで眠くなってしまったミミ。欠伸をひとつし、光子郎の隣りに座り、顔だけ向かい合わせになるようにして自分も少し眠ることにした。
柔らかい静寂が二人を包む。
何もしない時間だけが、ゆっくりと流れていく。
どれくらいの時間が経ったのか。
朝焼けでグラデーションがかった空だったはずなのに、いつの間にか太陽はだいぶ高い位置に昇ってきていて、薄暗いパソコンルームのカーテンから、光がやや射し込んできていた。
「ん……痛たた…」
本の重みに耐えきれず、光子郎は目を覚ました。すると、間近にミミの顔があるではないか。驚いて思わず首を動かすと、それと同時にバサバサと音をたてながら積み上げられた本たちは崩れていった。
「ミミさんの仕業ですね…」
床に落ちた本たちを拾うことすら面倒だった。それらはそのままにして、また机に顔をつけてミミを見つめる。
「まったく…あなたって人は…」
穏やかな微笑みを浮かべてミミの髪を優しく撫でる。規則正しい小さな寝息が、微かに聞こえる。
今は何時なのか、両親は心配していないだろうか、パソコンルームを借りたままだが大丈夫だろうか…。
色々考えることが、光子郎にはあったはずなのに、今はまだ、何も考えられない。
隣りで眠る愛しい人を、ただただ見つめ、何もしない時間だけがゆっくりと流れていくのを感じることしかできなかった。
「…うー…ん……」
ゆっくり目を開けるミミ。光子郎は髪を撫でるのをやめた。
「あっ…すみません…起こしてしまいましたか?」
「こうしろ…くん…?」
まだ寝惚けているのか、目がとろん、としている。
「お帰りなさい、ミミさん」
にっこりと微笑み、ミミに口づけをする。するとミミは、やっと目が覚めたのか、みるみるうちに顔が赤くなっていった。ガバッと起き上がると、真っ赤な顔で声をあげた。
「なっ なんでこのタイミングなのよ?!」
ややパニック状態のミミに、光子郎はキョトンとして言った。
「だってミミさん、“おかえりなさ〜い”くらい言いなさいよ、と言ってたじゃないですか」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
真っ赤な顔で頬を両手で押さえて熱を冷まそうとするが、逆に熱は上がる一方で。
「あの時はちゃんと言えなくて、すみませんでした」
「いっ…忙しかったんだものっ!しょうがないわよッ」
その声は裏返るほどで、そんなミミが愛しくて愛しくて、光子郎は思わず抱き寄せた。
「…会いたかったです」
「…光子郎の、ばか」
「お帰りなさい、ミミさん」
「ただいま、光子郎くん…」
もう少し、何もしない時間を堪能していたかったけれど。
あなたとこうしていられるのであれば。
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2010.10.24
Gleis36