「ごきげんよう。」
「ご、ごきげんよう…。」

入口ですれ違った煌びやかなドレスを着た貴婦人に軽く会釈する。
この挨拶は何度やっても慣れないなぁ。
あの後なんとか準備を済ませたけれど10時には間に合わず…。
15分遅れでエドワード侯爵邸に到着。しかもティキのやつ本当に先に行っちゃったし…!

「許すまじ。」
「許すまじって誰を?」
「うぉう?!」

頭の上から声が飛んできて、振り向けば私のストレスの原因がニコニコしながら立っていた。
私が急に振り向いたせいか「おっと。」と少し後ろによろけたが、すぐに立て直すティキは被っていたシルクハットを整える。
そしてそのままストレートパンチを食らわす。

「いて!?なにすんだよ。」
「本当に置いて行ったな!」
「アリスの準備が遅いからだろ?
これでもギリギリまで待ったんだぞ。」
「乙女の準備は30分じゃ終わりませーん。」
「あの寝ぐせのせいだろ。」

そんなやり取りを大広間の端っこでしていると、ティキは招待客であろう真っ赤なドレスを身に纏った女性からダンスに誘われた。
社交パーティーに慣れてない私に気を使ってくれているのか、ちらっと私を見る。
だけど女性のお誘いを断るのは、彼の中にある紳士のマナーに反するんだろうな。
小さい声で「大丈夫だよ。」っていうと、ティキは女性の手を取って中央で踊ってるダンスの輪の中に入っていく。
ティキは顔も良くてそれでいて優しい。社交的な性格だし女性への扱いも慣れてるからティキを狙ってる人は少なくない。
ロードが言ってたけど今日の社交パーティーだってエドワード侯爵の娘がティキに会いたいから開催したって。


「アリス嬢。」
「エドワード侯爵。本日はお招きいただきありがとうございます。」

ぼーっとティキを見てると、今回のパーティーを主催したエドワード侯爵が立っていた。
私のことを娘のように可愛がってくれている。
その後ろには長く赤い髪が目立つ男性が立っていた。

「アリス嬢に紹介したい方がいましてね。」
「初めまして。アリスと申します。」
「うちの近くにある教会の神父をやってる方でしてね。
ぜひアリス嬢にお会いしたいとのことだったので。」

エドワード侯爵は「それでは。」と笑顔で去っていった。
教会の神父様は、一言もしゃべらない。こ、こわいんですが…。


「おい。」
「はいっ?!なんで、ムグッ?!


状況を飲み込む前に私は意識を手放していた。