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んーーーーー。なるほどこいつは難しいですね。

冒頭から失礼いたしました。私は現在、柱稽古に参加中でして、不死川さんのところにきております。さっきから何回吐いて気絶したかなんて事はわからない。が、女がしていい顔ではないと言うことはわかる。


「ああ?!なんだお前らもうへばってんのかああ?!立て!!こら!!なまえぁあっ!お前もいつまで寝てんだっ起きろぉ!!」

「うっ…はーーい」

何故、彼が私の名を呼んだのか。それは何日か前に遡る。
私はもう少しで不死川さんへの足掛けに成功すると思った。しかし、私の足が不死川さんに届くより先に手を地面について宙返りして避けられてしまった。そこまでは想定していたのだ。だから、私の体は勝手に次の攻撃へ移る為に曲げていた足をバネのようにして鞘付の刀を彼に向けていた。
そこでそのままの勢いで行けば良かった。だが、私の体はまたも勝手に止まってしまったのだ。彼の顔の前、刀が当たる瞬間に。


「テメー、今なんで止めた」
「あっ…い、、いえ、、」
「俺が、テメーなんかの攻撃に当たると思ったのかよ!!あ?!」

「ひぇーーっごめんなさいごめんなさいっ!し、不死川さんの整っているお顔に刀を向けるなんてとんでもない無礼だと思いましてっ」

この時も勝手に口から言葉が出てた。やめろ。お世辞を言うつもりじゃなかった!かっこいいなとは思ってますが、今じゃないでしょ自分!!
そんなことを考えていると後ろから微かに何かが動く気配を感じ、避けようとしたが遅かった。すでに頭頂部に鈍い痛みと、意識が遠ざかっていくのがわかった。
なまえ、柱稽古一度目の気絶である。

そこからだ。不死川さんの稽古が厳しくなったのは。


「テメーは俺の顔に攻撃入れるまで次に行けねぇと思え!!!」

「はいぃいっ」


怖いよぉっ。でも、ちょっとだけ言わせて下さい。私があなたに攻撃出来ないもう1つの、ん、んーー、もう2つの理由があるんです。

まず、彼は私の恩人である。
よくあるパターンだ。鬼に家族を殺されて、その鬼を始末して助けてくれた人こそ不死川さんなのだ。育手のもとへやってくれたのも彼である。
そして、もう1つ。彼は私のお想い人である。

相手を想いながらも、倒してこそ鬼殺隊だというのに。どうしても攻撃できない。したくない。

ひっそりとこの気持ちを隠して、柱である不死川さんを凄いなー、私もがんばろ!くらいで、留まればよかったのに、この柱稽古のせいで!!!



「はっ!惜しかったなぁなまえ」

これだよ!この、残念でした!というような笑顔!顔が整ってる人ってずるいよね。何してもかっこいいもん。これが毎日見れるんだよ?稽古きついけど。ほぼ一日、不死川さんの顔を見れて声が聞けるって凄くない?

そんなことを考えているうちに意識が飛んでた。おっと、、今回は顔面足蹴ってかぁ…つら……。




「あ、起きた?大丈夫?」
「…えっと、君、この前来たばかりの」
「俺は我妻善逸!なまえちゃん、女の子なのに大変だね。なんか、目つけられてるみたいだし」


何故名前をと思ったが、あれだけ不死川さんに叫ばれてたらわかるか。我妻くん足が速いんだよね。不死川さんの攻撃も割りと避けてるし。
と、いうか、今はもう夜か…お風呂、まだ貸してもらえるかな?稽古中、何度か貸してもらったことはあるんだけど。さすがにくせぇって言われながら。


「我妻くん。まだお風呂使えそう?」
「そうだ!君が最後だから呼んであげようと思ってここに来たんだ!」
「そうだったんだ、ありがと」
「あの人が風呂貸してくれるなんて思ってもみなかったけど」

まあ、何日もいる人はいるからね…わたしとか。すぐ準備しますと伝えると我妻くんは部屋から出ていってくれた。

私も頑張らないとと、自分の頬に手を当てるといつもと違う感触があった。布だ。頬に布が当てられていて、鏡の前で少し捲って見ると大きめの傷が出来ていた。


「こいつぁ傷物だぁ」
「まあ、痕には残んだろうな」

「…そうですねー……しなずがわ、さん?」
「あ?なんだよ」
「いえ!何でもございません!」

音も気配も何もしなかった…。乙女の部屋にそれって、いや、それより今、不死川さんと二人きりって…!
わたしが寝てた布団の上に不死川さんが座ってる。



「それくらい覚悟出来てんだろ。出来てねーならすぐに辞めろ」

「辞めません。貴方に助けて頂いた時から、覚悟は出来てます。私のこの命、鬼を殺す為に使うと」

出来れば貴方の側で、は言えなかった。私はまだそこまでは強くない。彼にとって邪魔な存在。強くなって、アイツなら放っておいても平気だろ?くらいになりたい。

若干、頭を下げつつ話をしていると不死川さんが目の前まで来たのがわかる。



「おい、こっち向け」
「はい……っ?!…ふぁ…ん……」

「…俺が助けたんだ。その命、俺の為に使え」


へ、へーーーーーーっなんで?!いきなり過ぎない?なんで、口、づけ、したんですか…?なんで?それに、覚えていたんですか?

色んな疑問が一気に頭に思い浮かんで混乱しはじめた。落ち着け。鬼殺隊だろ!!


「あ、の…不死川さん…?」
「嬉しくねぇのかよ?俺の事好いてんだろ」
「………はい。頭が一杯で…」

待って、なんで、不死川さんがこの気持ちをしっているんだろ。わからないことが多すぎて目が回ってきた。
不死川さんは追い討ちをかけるようにもう一度私の顎を持ち上げて口づけをしてくる。


「理解出来たろ」
「…いえ、全く」
「あぁ?!頭ねぇーのかよ!!」
「ごめんなさいごめんなさいっなんで、口づけされてるのかがっわからなくて!」

私から手を離すと自分の頭を掻きはじめた不死川さん。ごめんなさい。読み取れなくて。


「今すぐ鬼殺隊を辞めろ。そしたら、その顔の傷の責任もとって側においてやる」

「……なっ!や、辞めません!これは私の不注意ですから、不死川さんが責任をとる必要はありません!!」
「……お前、俺の事好きなんだよな?」
「はい!でも…」


でも、もし責任とかそういうのじゃなく


「でも、お側にいられるよう精進して参りますので。恥ずかしくないよう、強くなってきます!」
「出来ねぇ事は言うもんじゃねぇ」
「出来ます。貴方の為の命ですから」

その為にも明日からビシバシ、稽古よろしくお願いいたします!と、言うと不死川さんの口元は少し笑って


「そうかよ。早くしろよ」


と、優しく言ってくれた。俺の稽古に合格できなきゃすぐに辞めさせるからなと言う言葉と私の頭に手を置きながら。

しかし、後に竈門少年の登場によりその稽古はすぐに中止になることをなまえは知る余地もなかった。





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