「天……元様」
「おお、やっときたな、なまえ」


真っ白な人だな。

炭治郎が初めてその人をみたときに思った事。肌も髪も真っ白い人。匂いも淡白な感じがした。

炭治郎の元へ訪れていた宇髄にぎこちなく話かけてきた、足音のない女性。来ている衣はどことなく宇髄の嫁に似たものを感じさせる。


「どういうことですか、忘れ物なんて」
「こいつらにも紹介しておこうと思ってな」

「あ、あんた、まさか………」


隣にいる善逸がとんでもない顔になってる。やばい奴の顔だ。

その顔を宇髄さんが確認すると、整った顔を緩めてニッコリと


「俺の嫁さんだ」


善逸の頭の血管から血が飛び出た。


宇髄さんは喚き散らす善逸を落ち着かせて(物理)、改めて紹介するとなまえさんを自分の隣に立たせて肩に手をおく。
その様子を善逸は唇を噛んで見つめていた。伊之助は我関せず、ただなまえさんの事をみて強いのかどうかを肌で感じているようだった。


「お嫁さん、4人いたんですね!」
「ああ、こいつが1番付き合いが長いな」
「兄妹でしたからね」
「きょっ………………あんた妹でも手ぇ出すのかよ!!?」

「血は繋がってないんです」


宇髄さんから離れて善逸に近寄ってきたなまえさんは手拭いを取りだし、善逸の頭から流れていた血を優しく拭い取る。
頬を染めてなまえを見る善逸と複雑そうに眉間に皺を寄せている宇髄さん。


「天、元様のお父様に拾って頂いたの」


なるほど。だから兄妹なのか。

横を見ると、何時まで甘えてんだとか言いながら宇髄さんが善逸をなまえさんからひきはなしたり、なまえさんがあんまりからかったらダメですよとか、ギャーギャー騒いでいたりした。
そんな中で炭治郎は1つの違和感に気がつき、なまえの側に寄る。


「なまえさん、なまえさん」
「なーに?炭治郎くん」

「天元様って普段呼んでないんですか?」
「っん"?!」

可愛い顔のなまえさんから変な音がでた。図星なのか。顔を赤らめて困ったように笑うなまえさんをいつの間にか伊之助も一緒にみていた。

そこからはもう、好奇心が、とまらなかった。


「普段何て呼んでるんですか?お兄ちゃん?」
「…い、え……」
「ジジイとかか?」
「伊之助、夫婦でそれはあんまりないんじゃないかな」

「おい…あんまりなまえをからかうなよ」


善逸と騒いでいた宇髄さんがいつの間にかこっちに来ていて、なまえさんの頭に手をおいていた。


「でも、なまえさん何か無理してる感じがあったので」

俺がそう言うとなまえさんは驚いたように俺を見て、次に宇髄さんを見た。宇髄さんも同じ事をしていた。夫婦ってやっぱり似るのかな。

暫くして、喋ろうと口を開くなまえさんの匂いが少し変わった。何だかとても…


「普段、あんまり他の人と話さなくて。継子さんたちの前ではしっかりしようと思ったんだけど、ダメだねぇ」

「それが出来ないから遊郭ん時は留守番だったんだ」

「仕事の時は出来てるよ」
「何時でも出来てなきゃダメだ」
「天ちゃんは厳しいね」

心配してんだよ。と言うなまえに向けた宇髄の声は炭治郎たちには届かなかった。

天ちゃん…柱の宇髄さんを。


「俺も呼ばれたい!!」
「天ちゃんってか?」
「違う!!!!」

善逸がいきなり叫ぶ。伊之助は理解できないみたいで頭を傾けていた。

なまえさんはまた困ったように笑うけれど、さっきよりやわらかな感じがする。なまえさんがいると、何だか落ち着くっていうか、ゆったりするというか…伊之助も何時もより大人しい。善逸だけが騒がしい。


「炭ちゃん、伊之ちゃん、ぜっむぐっ」

「何で邪魔するんだよ!!」
「俺の嫁だから」


お前らだけズルくない???と詰め寄ってくる善逸を手で押し返す。すみちゃんだから俺だけ違う気がするけど。
宇髄さんは善逸の名前を呼ぼうとしたなまえさんの口を後ろから手で塞いで自分の方に寄せている。塞がれたなまえさんは目を伏せて宇髄さんの手に自分の手を重ねていた。


「あーーーーもう、あいつがなまえさんに触る度になまえさんの鼓動が早く鳴るのがホントにもう…あいつも満更でもないし…あーーーー」

あぁ、それがわかってたから善逸だけ騒がしいかったのか。


「恥ずかしいな。善ちゃんにはバレてたんだ」
「善ちゃん!!」

「あんまり甘やかすなって」
「甘いのが私の長所でしょ?」
「…短所でもある」


何だか、宇髄さんたちをみてると夫婦みたいな感じもするし、兄妹みたいな感じもして不思議な感覚だ。


「じゃあ、私は帰るね」
「俺も行くから外で待ってろ」
「はーい」

俺たちに手を振って出ていくなまえさん。そう言えば宇髄さんの忘れ物って何だったんだろ?


「ほら、なまえが作って持ってきてくれた団子だ。3人で食え」

「わあ!美味しそう!」
「団子!!」
「なまえさんからの!!」

なまえが、お前らに会いたがってたからな。と宇髄さんがポツリと呟いた。


「…もしかして忘れ物って、、、あんた、めちゃくちゃなまえさんに甘いな」

「あ?俺の嫁に会わせてやったんだ。感謝しろ。崇め称えろ」

そう言うことか。俺たちに会わせる為にわざと忘れ物したんだ。
じゃあな。と言って同じように出ていく宇髄さんに頭を下げて見送る。


「嫁に甘過ぎじゃん」
「まあ、なまえさんと会って話をしたら宇髄さんが、甘やかしたい気持ちが何となくわかるよ」

「ババアみたいな奴だったな」


伊之助言い方。
でも、そう。おばあちゃんみたいな優しくて落ち着いた匂いがした。

それと、さっきのなまえさんからはとても甘い匂いが。もっと欲しくなる様な甘い匂い。



「お前の体質にも困ったもんだな」
「私を連れてきた事、後悔してますか?」
「それはない」


天ちゃんのお父様に拾って頂いたのも私のこの体質のおかげ。人を惹き付ける、甘やかしたくなる様な、一言で言えば愛され体質。

お父様の修行は他の兄妹たち同様に厳しかったけれど、厳しい修行の後はこっそり、甘やかしてくれた。ある程度体つきも大人になってきてからは夜の相手を迫られ始め、やんわり避けていたのもつかの間。忍の父に敵うはずなんかなかった。夜、必ず部屋にこいと言われたその日、天ちゃんが私を連れ出してくれた。お父様のいない、遠くへ。



「お前が親父みたいにならなくて良かった」
「天ちゃんのおかげだよ」


遊郭の時に私だけ留守だったのはきっと、上手く話せないからじゃない。この体質があるから心配してくれたんだ。

私の旦那さんは優しい人だから。