夜の町を歩いているとキラキラとした光が目立ち始めるこの季節。赤と緑で配色された光は浅草の夜景とはまた違った雰囲気を醸し出していた。



「さすがだねー!」
「凄いですねー!天元様が好きそうですね!」


一緒に買い出しに来ていた須磨ちゃんと町の光、いるみねーしょん、を見ながら帰えろうと思ってたんですよ。キラキラし過ぎていて私には少し目眩がして、でも、須磨ちゃんが楽しそうだしもう少し寄り道して行こうかな。




「それにしても人が多いね」
「そうですね!クリスマスも近いですから!」


賑わう大通り、肩を寄り添いながら歩いているけれど気を抜いたらはぐれてしまいそうな程、道は込み合っていた。夜なのに凄いなー。



「あれ?」


考え事をしていたせいか、須磨ちゃんの姿が見当たらない。さ、さっそく…。建物の上から見渡そうか…。



「お姉さん可愛いですね、これから用事でも?」
「いえ、連れがいるので!」


人をかき分け男を巻く。なるほど、こういう輩も増えてるわけですね。人混みのせいか、ぐわんぐわん回る目を閉じ考える。
とりあえず、道の真ん中で立っていては邪魔だろう。端に避けようとすると、少し後ろから須磨ちゃんの声が聞こえた。

振り返り、辺りを見回すと知らない男2人に壁へ追いこまれている須磨ちゃん。あたふたしている姿が人混みの間からちらりと見えた。



「道に迷ったんですか?良ければお茶でも」
「結構です!」
「でも、困ってるんでしょ?」
「困ってますが結構です!」


拒否してるけど、一言に全部返事をしてる須磨ちゃん。優しいなぁ。けど、そのせいでそんなに絡まれてるんだろうなぁ。

ゆっくり近づいて男の肩に手を置く。



「私の連れに何か?」
「あ、いえ…え、お友達?」
「えっめっちゃ美人じゃん!一緒に夜遊びしようよ」
「…………」
「え、なまえちゃん…」


捕まれた手をパシリと弾いて、自分の着物の襟元に手を差し込む。
何だ?と目線がこちらに向いたのを確認して、隠していた懐刀の顔を少しだけ見せてあげる。



「夜遊び、します?」


大事なものが失くなるかもしれませんが。と、口添えして須磨ちゃんの手を引く。
固まってしまっている男性達の横を通りすぎ人混みにまた戻る。



「…なまえちゃんかっこいい!」
「須磨ちゃん、はぐれちゃったら危ないよー」
「えっ、なまえちゃんがどっか行っちゃってたんですよ」


え、そうだったかな…。まあ、考え事してたしちょっと人酔いもしてたから気づかないうちにおいて行ってしまったのかもしれない。
ごめんねと謝ると何かを思い出した様に手を鳴らす須磨ちゃん。



「そうだ!明日にはクリスマスじゃないですか!だから、天元様にプレゼントがしたくて!」
「贈り物かぁ…あ、それなら!」




予定より少し遅くなってしまった帰りに天ちゃんの心配する声がポンポンと出てくる。



「遅かったじゃねぇか、なんかあったのか?」
「それがですね!クリ」
「何処のお店が安いか見比べてたんだよね」
「あっ、はい」
「…そうか」


秘密にしてびっくりさせようと言ったのにさっそくばれそうになってしまう。須磨ちゃん、お話ずらそう?



「それよりなまえちゃん!今日すごくかっこよかったんですよ!」
「須磨ちゃん」
「帰りにはぐれて男の人に絡まれたんですけど、なまえちゃんが颯爽と助けに来てくれたんです!」

「ほう…そいつは、大変だったな」



あ、あ〜。興奮気味に話していた須磨ちゃんも止めようとした私も2人でびくりと肩を揺らす。天ちゃん、笑顔なのに醸し出している雰囲気が怒ってたから。須磨ちゃん、それ、ダメな話題だよ…。

べしっと頭を叩かれ正座をさせられる。



「何もなくねぇじゃねぇか」

「何もないとは言ってない!」
「そういう事じゃねぇだろ!」
「ちぇ、ごめんなさい」
「うぅ、すみません…」
「それと、もう一つ隠してる事あんだろ?とっとと白状した方が身の為だぞ」



なまえちゃーんと泣き言を漏らす須磨ちゃん。涙目。で、目の前には眉を潜めた天ちゃん。



「しょうがないかぁ。はい、これ」
「ん?なんだよこれ?」


紙袋を前に置き、赤いリボンと緑色の包装紙で包まれた品物を差し出す。鶴ちゃんとまきちゃんにもびっくりして欲しかったんだけどなぁ。まあ、お先にって事で。

須磨ちゃんと目をあわせて、決めておいた言葉を口に出す。


「「メリークリスマス!」」


驚いている天ちゃんに近づいて中を開けて見てと小包を指差す。
カサリと包みを持ちリボンをほどいた天ちゃんは目を丸くして口角を徐々に上げて、感情を顔に出す。



「いいじゃねぇか!派手にいいな!」
「でしょ!」
「私たちとまきをさん、みんなでお揃いなんですよ!」


手に持ち上げられているのは赤いマフラー。光を浴びると所々が仄かに煌めくようになっている。ド派手な赤に天ちゃんの髪みたいにキラキラとしている光。

喜んでいる天ちゃんの顔を見て、二人で頑張って選んだかいがあったなぁと頬がゆるむ。



「天ちゃん、鶴ちゃん達にも驚いて欲しいからまだ隠しておいて?」
「お夕食の後に渡そうと思っていたので…」
「そうだな。じゃあ、須磨。夕飯を雛鶴と作ってくれ」
「え、今日の当番、私だよね?」


当番制でご飯を作ってるんだけど、今日は私と須磨ちゃんが作るはず。
なぜ?と首を傾げているとスッと天ちゃんの顔の横に拳が現れる。以前、天ちゃんはニコニコ笑って怒っている。あ。



「なまえは…わかるだろ?」
「………はーい」 
 

須磨ちゃんはヤバい気配を感じたのかもう姿はなかった。

二人きりで向かい合って座っているけれど、視線はあわず。口を閉じてから数分が経とうとしたとき。



「なーんで、残されたかわかるよな」
「…危ない目にあったの黙ってたから」
「そうだな」
「でも、須磨ちゃんは守ったし何事もなく終わったし………」

「それだよ」


詳しく話そうと天ちゃんを見ると、バチッという音と共におでこに衝撃が走る。その後に感じる小さな痛み。



「俺が何より大切なのは嫁だ」
「だから、天ちゃんの代わりに須磨ちゃんを」


視界が傾く。しゃべっている途中だったのに。天ちゃんは自分の元へと身体を寄せるように私の腕を引いた。すぐ、上には天ちゃんの整った顔。



「お前も俺の大事な嫁なんだよ」
「…………は、い…」


いい加減自覚してくれよ。
そう言って頬を撫でてくれた天ちゃんの手が優しくて、大切に思ってくれているのが伝わってくるようで……嬉しくて顔が暑くて………



「これ以上、熱あがっちゃしゃあねぇな」
「?」
「お前、熱あんだろ?」
「熱……?」


熱…そう言えば、街明かりのせいかと思っていた目眩も治ってない。さっきからくらくらと動く視界を気にしないようにしていたけれど……。



「滅多に風邪をひかないとは言え、無自覚とはな」
「あー、久しぶり過ぎて気づかなかったなぁ。よくわかったね」
「お前の事なら派手にわかりきってんだよ」


そういうと天ちゃんは私の事を支えながら立ち上がって寝室へと足を進める。



「お世話かけます」
「贈り物の礼だ。たっぷり派手に看病してやる」


天ちゃんは私の前髪をサラリと避けておでこに唇を寄せる。頭の回らない私は天ちゃんかっこいいな、好きだなとか語彙力の無い事しか考えられなかった。

けれど、優しく穏やかな眠りにつけそうな事だけはわかった。