(???視点)
今の僕らは、ブレーキ機構のイカれたジェットコースターだ。
一度落ち始めたら止まれない。
刻々と変わる状況に猛スピードで振り回され、同志すらも振り落とし、疑心暗鬼のどん底に突き落としていく。
そして歯止めをかけられないままゴールも猛スピードで通り過ぎて、事故防止のレールの終点に激突してそれでも止まれずにバラバラになるのだろう。
分かっている。
分かっているのに、止まらない。
「1-Bの山本が書記様に近付いたとの情報が!」
「なんだと、書記様に付きまとうなんて!!」
「これは制裁しかありませんよ!雪宮隊長!」
「そうだよ!!」
「で、でも最近は“裏風紀”が怖いって……」
「構うもんか!書記様の快適な生活を守らなきゃいけないんだ!」
「そうだ、さてはお前、裏切り者か!?」
「裏切り者」
「裏切り者」
「“制裁”を止めるなんて」
「どこの回し者だ」
「裏切り者には制裁しかないよな」
「そうだ」
「書記様親衛隊失格だ」
「ひっ……!」
怖くたって、制裁しなきゃ。
正義を実行しなきゃ。
半端な力でブレーキをかけようものなら、こうして“非国民”扱いだ。まるでパラノイアだ。笑えるだろう?ZAPZAPZAP!
僕だって本当は止まりたい。
こんなことを続けていては遅かれ早かれ破綻するのは分かりきっている。
でも、怖いんだ。
僕らが止まってしまったら、僕らには何が残るの?って。
何も残らない。
ずっとずっと想い続けてきた書記様、中小路秋成(なかのこうじ-あきなり)様本人から思いを否定されて。在り方も否定されて拒絶されて。
あの編入生に全てをぶち壊されるまでは、愛とまではいかずとも僕らに親しみを感じてくれていた筈だ。それなのに。
今となっては彼の目に僕らは一切映らない。
窓の桟に溜まった埃程度にしか見られない。
知っているか、愛情の反対は無関心なんだ。
愛情じゃなくていい、嫌悪でいい。憎しみでもいい。書記様の目に映りたい。
だから僕は今日も指示を出す。
破滅へと突き進む道だと分かってなお、僕は止まれない。
「制裁は決行するよ。……ただそこの君が言ったように“裏風紀”の存在は無視できない。彼……或いは“彼ら”に気取られないよう動く必要があるね。君、」
「ひぃ、……あ、あの、僕……」
先ほど裏切り者として制裁されかけた生徒が、僕に話しかけられて震え上がった。
「君の発言はやや不用意だったけど、懸念としては正しい。今回は君に対して制裁に踏み切ることはしない。今後気をつけて?」
「は、はい……!」
生徒は喜色を顕にして頷いた。
他の親衛隊員も一人また一人と頷いて僕を褒めたたえた。
「流石だね」
「流石雪宮隊長」
「いい判断です!」
僕、雪宮 蓮華(ゆきみや-れんげ)は、生徒会書記の親衛隊長。どう転んでも破滅確実の道を、先陣切って突き進む。
ああ誰か。
誰かこのジェットコースターを止めてくれ。
(雪宮 蓮華視点 終了)
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