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「あっ、ナツ!」
 桶の水を担ぎながら小屋へ戻ってきたナフェリアを出迎えたのは、手持ちであろうパンを木皿に並べるサヤカだった。暖炉の世話をしていたのはマコトで、木の燃える匂いが鼻腔をくすぐる。見る限り、小屋の外にふたりの足跡はなかったから、おおかたあの薪はサヤカの魔法だろう。彼女は自分の魔法を雑用にばかり扱っているな、とナフェリアは二が笑った。別にそれが良い悪いとは言わないが、魔法がうまく扱えないナフェリアからみればひょいひょいと魔法を扱う彼女はうらやましい。
 ごとりと元あった場所に桶を運んだナフェリアは、自分の荷物からも何か食材を出そうと鞄へ向かった。
 サヤカはまだ少し申し訳なさそうだったが、ナフェリアに対して特別委縮するなど、そういったことはみられない。ナフェリアとしては正直、あんな話ごときで気に病まれるほうが心苦しい。落ち着いたようでよかったと、他人事のように思った。
 じきに家に戻ってきたシュカを交えて、質素な朝餉が始まった。「僕の分は」と謙遜する彼を半ば無理やり卓につかせる。そんなナフェリアを見てふたりは驚いたようだったがナフェリアは一切気にしていなかった。
 吹雪はこの前と同じように、一晩で去ったようだった。少しは寒くなくなったな、とナフェリアは思う。
 リチアドは、季節の隙間はほとんど同じ温度だ。春から夏の間、夏から秋の間、すべて。季節を司る精霊に関係しているというのは聞いたことがあるが果たしてどうなのだろう。ゆるやかに消えゆく冬の気配が例年と同じであることだけ、ナフェリアは意識した。冷えたパンは固く、よく言えば噛み応えがあった。