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 シュカの家には、一心不乱に走ってたどり着いた。シュカの予想通り途中で雪が降り始め、吹雪ほどではないが視界もわるく寒い。そんな中でたどり着いた彼の家に、ノックもせず乗り込んだナフェリアに二人は驚いたが、中にいたシュカは飄々とした顔つきで立ち上がった。
「おかえりなさい。助けられたんですね」
「ああ。二人に毛布を貸してやってくれないかい」
「寝台、自由に使ってくれてかまいませんよ。アルジュくん、マナちゃん、ご飯は食べられそう?」
 マコトが扉を閉め、サヤカが即座に鍵を閉めた。イアンは追ってきているのかいないのかはわからない。ここから吹雪になりそうだというときに追ってくるかどうかはともかく置いておいて、サヤカは心配になってナフェリアに問いかける。
「イアンは?」
「ああ、そうだったね。シュカ、頼めるかい? 湯を沸かすのはあたしがやるよ」
「じゃあ、お願いします」
 首をひねったマコトとサヤカに対して、シュカがナフェリアと同じように意味深な笑いを浮かべた。アルジュとマナは暖炉の前に座って体を温めている。湯を沸かそうとしているナフェリアを視界の端に留めながら、シュカは子供たちと目線を合わせながら話しかけた。
「あのね、これから俺は、お歌を歌うから。歌がはじまったら目を閉じて。絶対に開けちゃだめだよ」
「どうして?」
「これはいい夢を見れるおまじない。だけど、目を開けたら意味がなくなっちゃうんだ」
「……うん、わかった。マナも、目開けちゃだめだよ」
「うん」
「ありがとう。マコトさんたちも、お願いしますね」
 訳も分からず、サヤカたちは頷いた。ナフェリアはもう了解しているかのように声をかけず、シュカは呪文らしきものを唱えはじめた。
 それがだんだんと速度を変え、拍子を持つようになり──。サヤカとマコトが目を閉じたのを確認してか、シュカがいよいよ歌い始めた。目が回るような、聞いたこともない旋律が小屋の中に反響する。
(おまじない──にしては)
 魔力が満たされているような気がした。確かにこれは目を開けてはまずい気がする。緩急の激しい曲だが、消して耳障りではなかった。びりびりと肌を震わせる魔力を感じて、シュカがふっと歌うのをやめた。サヤカは、そっと目を開けた。
「ありがとう。ふたりとも、これでいい夢が見られるよ」
「うん、お兄ちゃんありがとう」
「いいえ。とりあえず、体をあっためて、ゆっくり寝たら、シスターのところにかえろうね」
 アルジュはマナを終始抱きしめるようにしながら、シュカの話を聞いていた。気丈にふるまっている子供たちに対し、サヤカは不思議だった。あの魔法はなんだろう。聞いたこともない呪文に、感じたことのない魔力だった。
 マコトがご飯の支度を手伝い始めたのを見て、サヤカはいったんそれを頭の隅に置いておくことにした。