「ちょっと質問だけどさ、ユキと俺ってどっちが強いの?」

 エディが珍しく質問と言うから、もう少しまともな疑問が来るのかと思って少し身構えた自分に呆れてしまった。
 彼が最後の一本と名付けた煙草が、灰皿の底で未だに赤く燻っているのをお互いに見つめながら五秒ぐらいの沈黙が落ちる。明らかにクエスチョンマークが付いた質問に無視するのは良くない。言葉の真意を探ろうと時間を稼げばエディの無言の圧力がじわり重くなって行く気がした。ここは当たり障りのないような話題を振ろう。
「そもそも部隊が違うからなんとも……といっても 彼はこの間隊長に昇格したそうね」
「立場じゃなくてー、まあいいや忘れて」
「なんなのよ」
 さっきの割と真剣だった顔は何処か、謎の満面の笑顔でごまかされた。
 幼馴染みといえども未だに彼の情緒不安定さには慣れない。極端なたとえではあるが、一時間おきぐらいに泣いたり笑ったり、はたまたキレたり、コウタはよく手懐けていると思う。
 ブラッド隊員が極東支部に滞在するようになってからは、その賑やかさのおかげかメンヘラ感は幾らか薄くなったと思えたのは気のせいだったのだろうか。
 カウンターの向かいの何やら熱く語っている真壁兄弟の肩越しに、カルビと戯れるエリナとエミールが見える。その二人に混ざっているようで微妙に孤立しているユユもいるが、彼女の熱い視線の先を辿ればハルさんをただ見ているだけの様子だ。本当に彼女は物好きと言うかなんというか、恋の仕方が昔のソーマさんに対する私を見ているようで少し同情する。
 ユユを見ていたはずだったのだが、ハルさんと目があってしまって何故かウィンクをされてしまった。とっても気不味い。とりあえず苦笑いだけしておいた。
「金がないんだよなー、でかいの狩りに行こでかいの」
 エディが気不味さを切り裂くように喋った。ナイスタイミングとばかりにグラスを置いて私も口を開く。
「了解、丁度ヴィーナスのバスター揃えようと思ってた」
「ええ……でかいとはいえよりによってのあいつやだ……」
 そう言いつつも、椅子の背に掛けていた上着を取ったエディはロビーへと向かった。いやだと言いつつも討伐任務に対する意欲は高めであるし、本人には言っていないが戦闘能力ももしかしたら私より高いかも知れない。スキの大きい捕食攻撃でどつかれることさえなければ完璧なんだけど、ねえ。
 エディの背中を追うように遅れて席を立つ。灰皿の煙草の灰がさらり崩れた。





/Innerworld/novel/2/?index=1