みんなの前では気丈に振る舞っているが、まだ気持ちの整理がつかなかった。


館内の待ち合い所の端で荒垣先輩が待機メンバーを見守っているのか、少し柔らかい表情で腕を組み、壁に寄り掛かっていた。目線の先にはクマとコロマルがじゃれ合いをしている。
私がそっと隣に立つと、一瞬だけ先輩は出会った頃のような目つきで一瞥した。心の奥がちりりとする。
「飲み物でも飲みますか?」
めげずに持っていたコーラを差し出すと、先輩は少し躊躇ったけれど両手で受け取ってくれた。いつもポケットに両手を突っ込んでる割には、両手で物を受け取ってくれるそういうところが好きだった。
「気ぃ使わせて済まねえな」
「いえいえ」

話のキッカケにとコーラを渡したはいいものの、気不味い時間がゆっくり流れている。2、3分だと思うが凄く長かった。ぎこちない動きで先輩がニット帽を目深に被り直す。バツが悪い時にやる癖だ。
「先輩が……荒垣さんが、私の大好きだった人に似ているんです」
見慣れた癖を見て思わず本心がこぼれてしまった。先輩は深く息を吐くと変わらずこちらを見ずに、そうかと低い声で言った。
「誰も傷付けたくないから誰も寄せ付けないように、冷たい態度ばかり取る人です。本当は温かくて優しくて、正義感が強いのに……。私には、どんなことがあっても傍にいると誓ってくれました」
でも今傍にいるのは、私の知らない荒垣先輩だ。喋ったり笑ったり、こうやって部屋の隅でみんなを見守っていたり、そんな『私の先輩』と変わらない彼を見ると途方もない気分になる。
殆ど八つ当たりかと思える私の言葉に、先輩はやっぱりこちらを見ずに俯いた。
「それなら、俺をその人として見てくれていい」



マネゴト
(やっぱり優しいのは変わらない)







/Innerworld/novel/2/?index=1