ひび割れたアスファルトを彩る影の縁が少し緑っぽいことに気付き、瓦礫を漁る手を止めて空を見上げた。
まっすぐ頭を上げた先に、いつもより大きめの月が薄い緑を纏って煌々と浮かんでいる。そうだ、今日は満月だっけ。

しゃがんだ体勢を少し崩して膝を抱えると、先日看守に殴られた鳩尾がきりりと痛んだ。殴られた時には何も感じなかったが、こうして意識が緩むと見計らったように痛み始める。いくら自己治癒力が高いと言えども、折れた骨まではくっつけるのに時間が必要みたいだ。
物心ついた時から看守による暴力などは日常茶飯事、アラガミに襲われるよりはマシ、という毎日を過ごしているから切り傷よりは打撲系の怪我に慣れっこになってしまった。同じく暴力を振るわれてるユウゴと兄は「今は我慢だ」との一点張りで反撃せず、沸点が人よりやや低いジークもよくいつまでも我慢出来ているなあと思う。

瓦礫に目線を戻すと、手の先少し左に目的のセラミックの破片が見えた。ゴミ漁りのミッションのために外に出れていたが、見つけてしまった時点で自由時間が終わってしまう。これを納品するために、あの地獄のような牢獄に帰らなければいけない。

「収穫はあったか?」
すぐ後ろで声がした。
振り返れば、近くで討伐に出ていたユウゴが出発前より少し傷が増えた姿で立っていた。いつバラバラになってもおかしくない中古の神機を右手に、私と目線を合わせるようにしゃがむといつもの笑顔で手を差し出す。頬の切り傷はまだ赤く光っていて完全に癒えていない。彼は神機も含めて全体的にボロボロだった。
「私も早く神機がちゃんと使えるようになればいいのに」
そうすれば、少しはユウゴと兄の負担が減らせる。アラガミから隠れながらのゴミ漁りでは己の非力さに痛感するばかりであった。
「そうだな、早く俺たちを楽にさせてくれ」
冗談っぽく笑ったユウゴの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。彼の手は瓦礫と違って暖かい。
「ただ無理はするなよ、お前ら兄妹に何かあったら俺が一番困る。待ってるアイツらの希望で、何度も言うが2人とも俺の懐刀なんだからな」
「ユウゴだって居なくなったら困る」
私はユウゴから顔を逸し、セラミック片をアタッシュケースに詰め、それを片手に歩き始めた。一歩先を行った彼の背中を追う。握ったケースの持ち手が冷たい。

ボロボロのユウゴを見て、もう少し神機の訓練を頑張ってみようと柄にもなく思った。痛いのは嫌だけど、私が戦えるようになったら兄も喜ぶだろうし。

背後には緑の月が私とユウゴの影を深々と作っている。







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