xxxさん濃い味が苦手だった気がするな、そうなるとただ目玉焼きを作ってトーストに乗っけたほうが文句つけられない気がする。
油を回したフライパンを暫く温め、冷蔵庫から昨晩98円で買った卵を片手で割って焼く。いつもは片手で割ると勢い余って黄身が割れてしまうのだが、今回は珍しく成功したので1日がいい日になる予感。昨日解決しなかった案件が納まるといいなあ。
目玉焼きを焼き立てのトーストの上にそっと乗せて、とりあえず朝ごはんは完成した。料理時間、ものの3分。
簡単なのをごまかすように、ひとことつけたメモをセットした。我ながら恥ずかしい。
「いってきまーす」
気持ちだけでもxxxさんが寝ている寝室にお辞儀をして部屋を出る。
扉を開けると、冬の朝日がビルを橙に塗りつぶし始めた頃だった。昨晩の嵐が雲を払ったようで、ビルの隙間からみる限りでは雲ひとつない空である。スマホの天気予報は快晴であったし、今日は小春日和になりそうだ。
そうして俺の憂鬱な平日が始まる。



xxくんは僕が目覚める1時間前に家を出たらしい。
ラップが乗った目玉焼きトーストと、彼に似合わない達筆で「いってきます」と律儀に書いてあるメモが1枚、リビングのテーブルに並んでいた。
僕はまだはっきりしない視界をそのままに、xxくんのメモを隅々まで眺め、満足したところでひとつ大きな欠伸をする。なんでこんな女の子みたいな気遣いするかなあ、これじゃあ女の子の立場がなくなるぞ。
くだらない思考を巡らせ、カーテンも開かないでソファに座り込み、目玉焼きトーストを一口かじる。もう冷めているが、目玉焼きの半熟な黄身がじわりトーストに染み、少し香ばしい耳に仄かな甘味を飾り付けている。調味料の味は一切せず素朴でただおいしい。
「あー、幸せ」
近所の博物館のベンチで寝て過ごしていた休日よりは確実に、人間らしく幸せな休日の朝をxxくんのおかげで過ごせている。僕も何かしてあげたいけれど、何も出来ないから何もしてあげれない。
そんなこんなで幸せを噛み締めている間に、幸せを具現化したようなトーストはまたたく間に僕の胃にしっかり入ってしまった。
こうして僕の一人の休日が始まる。



素晴らしき今日の始まり
(GOOD ON THE REEL)





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