「あちー……兄者アイス買ってきて」
「やだ、おっつん買ってきて」
「そうやっていつもおれに回るよねぇ」

5月上旬、暦の上ではまだ春というのに、本日東京は昼間28度を記録した。
まだ衣替えなんてしてないから、スーツは冬用、ワイシャツは長袖、ネクタイもきっちり。朝の天気予報を観ていないことが見事に仇となってしまった。

「クーラーつける?」弟が赤いネクタイを右人差し指でひっぱり緩めている。左手にはいつ見つけたのか、エアコンのリモコンが握られている。
「まだエアコン掃除してないからやめて。あらゆる病原菌が舞う」
微妙にしかめっ面を作ると、弟は気の抜けた返事をしてリモコンを机に戻した。夏になる前に掃除しようしよう詐欺がこんなところで首を締めるとはな。

「窓開けてもあちー! 風がまったくない!」
作業部屋の向こう側でいつの間にか半袖のワイシャツに着替えているおっつんが、トレードマークのヘッドフォンを首から外し、開けた窓から身を乗り出して不毛な雄叫びを上げている。
「おいあいつ半袖だぞ」
にゃはは、と勝ち誇ったように高笑いをするおっつんだが、下に着ているらしい緑のタンクトップが透けるほどびしゃびしゃに汗をかいている所を見ると逆にかわいそうになってくる。
「無風はよくない」
そう言い残して床に仰向けになった。空元気だったのかよ。

右側で暑いとかぶつくさ言いながらも作業をしている弟の手元を見ても、当社比マイナスぐらいのスピードだった。これは次の配信日に問題が出るかも知れない。
「仕方ねぇな、お兄ちゃんがアイス買ってきてやるよ」




28度
(その言葉を待っていた兄者! 俺チョコモナカジャンボで)
(おれもチョコモナカジャンボで!)
(お前らなぁ)







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