「蛍さん蛍さん、100円ある?」
本屋の帰り、店頭に並んでいるミニカーのガチャガチャを指差した蒼時さん。左手にはすでに200円が握られている。
「1回300円……。それで何当たるか分からないんだったら倍の金額払ってトミカ買えばいいのに」
「何が当たるか分からないのが良いんだって」
そんなきらきらした眼差しを向けられて断れるはずがなかった。この人のこれには過去何度も負けている。そうやってすぐに負ける自分に呆れながらも財布から100円出すと、蒼時さんは大人気なんて捨てるようにはしゃいで喜んだ。
「帰ったら返すので!」
「冷蔵庫のスーパードライ1本くれればいいよ。100円くらいあげる」
「割りに合ってない気がするけど。まあそれでいいや」
しっかりした礼も言わず私から100円受け取った蒼時さんはそそくさとガチャガチャの前にしゃがみこむ。私も続いて隣にしゃがんだ。
隣でガチャガチャを眺めていた少年が物珍しそうに私達をちらりと見た。そりゃあ大の大人、その上ガタイが良すぎるサングラスの男が凄い勢いでガチャガチャし始めたら、普段何も気にしないような私だって見てしまう。
「みて、ちょうかっこいい」
早速カプセルから取り出したミニカーを手のひらに乗せ、見せてくる蒼時さん。
「ふふ、かわいいね」


100円と200円
(かわいいよりかっこよくね?)
(……まあいいや)






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