「また雨、ねぇ」
いつまで経っても途切れない天気予報の梅雨前線を眺めては、溜息を吐くことしか出来なかった。毎年のように言われる何年ぶりの長梅雨だとか、そんな決まり文句は聞き飽きるほど耳にしていてうんざりする。
雨が長く続くのは憂鬱だ。洗濯物は乾かないし、外に出るのも億劫になってしまう。部屋中に干された洗濯物をぐるりと眺めて、やはり乾燥機は買わねばならないかと思った。いち、にぃ、月に2万ぐらい貯金すれば良い奴が買えるだろうか。
「コインランドリー行ってくるか」
蒼時さんが隣で腕時計を右手に付けながらぼそりと喋った。ちょうど同じく溜まりに溜まった洗濯物のことを考えていたらしい。朝食後のアイスコーヒーに沈む氷がからりと景気の良さそうな音を立てたのを皮切りに、彼は立ち上がった。
「私もお供する」
充電器からスマホを引っこ抜いて、私も続いてそそくさと準備をし始めると、洗濯物を抱えて一人で行こうとしていたような蒼時さんが目を見開く。
「いっつも面倒くさがりなのに珍しい……。明日は晴れかな」
「いっつも面倒くさがりって訳じゃないからね。どうせ明日も50年ぶりの長雨だよ」
右手に財布と家の鍵を握り、先に玄関に向かっていた蒼時さんを大股で追い越す。背後から気の抜けたような笑い声が聞こえた。
「やる気満々のついで、帰りに喫茶店でも寄ります?」
最近外に出るのも億劫そうですし、私の心を如何にも読んだかのように彼は続ける。考えていることが同じなのか、蒼時さんが私に合わせてくれたのかはわからない。

「行くなら駅前のエクシオールカフェがいいかな……、時間はたっぷりあるしお昼もそこで済ませちゃおうか」
「やった! 蛍さんとの久々のデートだ!」
アパートの重い玄関の扉を開くと、蒼時さんの声色とは裏腹な曇天模様が空を彩っていた。
足元を見れば、雨水が柵を伝ってなみなみとアルコーブを浸している。自分の爪先へ視線を落とす。お気に入りのパンプスは既に水没していた。
「なんかいつも雨に降られてる気がするな、俺と蛍さん」
お気に入りのパンプスを浸し、肩を落とす私の右やや頭上から頭を覗かせた蒼時さんが外の様子を眺めてなぜか楽しそうに言った。
「蒼時さんからプロポーズされるときも雨かな」
「雨降るたびに期待の眼差しはいやだなぁ」
そんなことはいいから出る出る、と軽く背中を押され、渓流の玄関前に躍り出た。なんとなくはぐらかされた気がする。蒼時さんが気不味そうに目を逸した。
同棲して2年目、付き合って1年目の梅雨はまだ明けそうにない。






土砂降りのレモネード
(既に足元びしょびしょなんだけど)
(コインランドリー1階なんだから我慢してくださいよ)





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