会社の忘年会で4Kテレビが当たってしまった。
当たった時こそみんなからちやほやされたが、忘年会が終われば当然のように熱は冷め、貸された台車と大きいダンボールとどうしていいか分からない私が残された。
同期の遥菓に会場から駅まで運ぶのを手伝ってもらったが、彼女は結局二次会だなんだかで私のアパートまでは付き添ってはくれなかった。まあここまで来てくれただけで充分か。
家には蒼時さんが一人暮らし時代に使っていた、私の身長と同じぐらいのテレビが、私の持ってきた無駄にでかいテレビ台に鎮座している。よくよく考えたらこの子の居場所はウチにはない。遥菓にそのままあげれば良かったかな。

快速急行を順調に乗り継ぎ、人混みを避けながら最寄りの駅に着いた。改札から出たあたりで安堵の息を吐いたが、アパートの地獄の階段を思い出して次は普通にため息をつく。
もう家賃上がってもいいからエレベーターをつけてほしい。見た目が良かったからと螺旋階段のアパートを選んだのだが、次に引っ越すときはエレベーター付き日当たり良好の角部屋に絶対する。高かろうが蒼時さんになんと言われようが絶対そうする。
「二次会行かなかったんですか?」
噂をすればなんとやら、ほぼ頭上から蒼時さんの声が降ってきた。
「これ持ったまま二次会はちょっと」
押していた台車をさり気なく攫って右に並ぶ彼を見上げた。横に並ぶ都度、40センチぐらいはある身長差がどうしても気になってしまう。向こうから見下ろして、ふてぶてしい感じになってないと良いけど。
「俺ビンゴ大会の時ちょうど居なかったんだよなあ。蛍さんの勇姿見届けたかった」
そんな今更なことを気にせず、彼は残念そうに笑う。
「そっか半分は派遣元の会社で忘年会か……、1日に2回も忘年会するなんてよっぽど忘れたいことがあったのね」
「忘れたくて2度行ってるみたいに言われてる俺」
「ま、それは別にいいんだけどさ。蒼時さんの使ってたでかいテレビうちにあるじゃん。このテレビどうする? 売る? 北川景子のやつだけど?」
「北川景子……、ブラビア4Kなのこれ」
首を少しだけ傾け考えた素振りを見せたあと、ややあって、
「うちで使おう。まだ蛍さんのテレビ台に乗るでしょ、2台並べよ」
と、常人の考えではないことをすんなり言った。



「いやー、最高だね。スポーツ観戦しながらゲームとかできるじゃん。子供の頃からの憧れですよ」
こたつの向こう側には私のテレビ台に2つのテレビが並べられている。
「私のテレビ台が異常に大きかったことが判明した」
「蛍さんの持ってたテレビも別に譲らなくて良かった感じだな、斜めにすればあともう1台いけそうじゃない?」
「いやいや3台は流石に……」
梱包材を畳んでいた蒼時が手を止めた。謎のこだわりが強い彼のことだから、絶対無駄なことを考えているに違いない。
「3台目、買う?」




それより引っ越したい
2020.01





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